音、そして光による演奏パフォーマンスを誰でも楽しめるというヤマハの新たな電子楽器「TENORI-ON」。前回は概略を紹介したが、今回は複数のパターンを同時に演奏できるレイヤーの概念や、個性的な6種類の演奏モードをチェックしていこう。また、演奏モードの切り替えの様子を動画で紹介する。

DAWのトラックのように複数のパターンを同時演奏するレイヤーの概念

前回はTENORI-ONの電源を入れたときに選択されている、いわばもっともベーシックな、ステップシーケンサ的動作の「Scoreモード」を紹介した。これは1つの音色を1つのパターンでループ演奏するため、曲というよりはやはり単純なパターンを延々と鳴らしているだけになってしまう。

そこで重要になってくる概念がTENORI-ONに用意されている「レイヤー」というものだ。ご存知の方も多いとは思うが、レイヤーとはグラフィックソフトなどでよく取り入れられている概念で、仕組みとしては複数の画像を重ねて1枚の画像として表示できるもの。音楽制作においてはトラックと読みかえてもいいだろう。TENORI-ONは16のレイヤーを備えており、それぞれのレイヤーに異なるパターンを打ち込み、音色を変え、それらを同時に演奏させることが可能だ。

レイヤーの切り替えはR1ボタンを押しながらLEDボタンを押して行う。電源を入れた初期状態ではレイヤー1が選択された状態だ。このレイヤー1でパターンを組み、R1ボタンを押しながらレイヤー2へ切り替えると、LEDボタンはどこも点灯していない。つまりパターンがまだ組まれていない空の状態となっている。表示レイヤーを切り替えても既にパターンを組んだレイヤー(ここではレイヤー1)は演奏され続けているので、レイヤー2、レイヤー3と新しいパターンを入力していくことで、だんだん曲らしくなっていく、というわけだ。

R1ボタンを押しながら縦列のLEDボタンを押すと、現在の表示レイヤーを切り替えることができる。一番下がレイヤー1、二列目がレイヤー2、一番上の列がレイヤー16となる。横一列に点灯しているLEDボタンは現在選択しているレイヤーを示しており、画像ではレイヤー4が選択された状態だ

この各レイヤーの音色やビート数、オクターブなどの設定は、前回紹介したようにL1~L5ボタンを押すことでレイヤーごとに独立して設定できる。右側のR1~R5ボタンは、R1が先に紹介したレイヤーの切り替えで、R2はマスターテンポ、R3はマスタートランスポーズとなっている。R4はマスターボリュームおよび各レイヤーのボリューム設定と、レイヤー単位ではなく全レイヤーに対して共通の設定。そしてR5はブロックの切り替えとなっている。

R4ボタンを押しながらLEDボタンを操作すると、一番下の列がレイヤー1、一番上がレイヤー16となり、表示レイヤーを切り替えることなく各レイヤーのミキシングバランスを取ることができる。ボリュームはLEDボタン左側で小さく、右側ほど大きくなる。なおR4を押しながらジョグダイアルを回せば、全体のボリュームであるマスターボリュームの調整ができる

レイヤーと組み合わせる単位に「ブロック」がある。ブロックとは16レイヤーをまとめて扱うための単位で、TENORI-ONでは16ブロックが用意されており、現在選択しているブロックがループ再生されるようになっている。つまりブロック1はイントロ、ブロック2はAメロなどと曲の構成を分けて各ブロックを用意しておけば、すぐにブロックを切り替えて演奏パターンを変えることができるのだ。

R5ボタンを押しながらLEDボタンを押せば現在の選択ブロックを切り替えることができる、一番左がブロック1で、右端列がブロック16となる

それぞれが個性的な演奏モード、誰でもプレイヤーになれる敷居の低さ

次は演奏モードについて紹介しよう。TENORI-ONにはScoreモード以外にも、セットした複数の発音ポイントで発音が繰り返される「Randomモード」、LEDボタンの操作を一定時間記憶してその通りに演奏する「Drawモード」、セットしたポイントからボールが弾むように発光して弾んだタイミングで発音する「Bounceモード」、LEDボタンを押し続けることで音や発光パターンが変化していく「Pushモード」、LEDボタンを押している間だけ繰り返し発音する「Soloモード」と、合計6種類の演奏モードが用意されている。この複数の演奏モードを1つのブロック内で組み合わせて同時に演奏できるため、単純なステップシーケンサとはちょっと違う曲ができるのだ。

発音ポイント間を光が飛び回り、演奏されるRandomモード。L4ボタンを押しながらLEDボタンを回転させるようになぞると、発音ポイントが自動回転を繰り返し、ピッチを変えながら演奏される

DrawモードはLEDボタン操作を記憶し、その通りに発音と発光を繰り返す。LEDボタンは一つ一つ押すだけでなく、なぞるように連続操作してもよい。また入力を繰り返せばそれも記憶され、どんどん音が重なっていく

Bounceモードでは押したLEDボタンから上下に光が動き、一番下の列でバウンドしたタイミングで発音される。セットするポイントを低くすると発音間隔は短く、上にセットするほど間隔が長くなるという仕組みだ。ポイントは複数セットできる

Pushモードではボタンを押し続けると発光パターンがだんだん広がり、それに合わせて音も変わっていく。長く押した場合は指を離しても発音が続き、さらに複数のポイントをセットしていくことも可能

Soloモードでは横列がピッチとなり、LEDボタンを押し続けている間だけ発音される。縦列は発音間隔で、下に行くほど間隔は長く、上を押すほど短い間隔で繰り返し発音される

この演奏モードの切り替えは、レイヤーと同じくR1ボタンを押して行う。このことからわかるように、TENORI-ONの演奏モードと16のレイヤーは実は密接な関係があり、各レイヤーに好きな演奏モードを割り当てるのではなく、レイヤーごとに使用できる演奏モードは固定されている。具体的にはレイヤー1~7はScoreモード、レイヤー8~11はRandomモード、レイヤー12~13はDrawモード、レイヤー14はBounceモード、レイヤー15はPushモード、レイヤー16がSoloモードだ。

動画
実際の各モードの動作を動画で見てみよう。演奏モードはScore→Random→Draw→Bounce→Push→Soloモードと切り替えている

実際に演奏してみるとどうだろうか。TENORI-ONは新しいインターフェイスにより、音楽的な知識がなくても演奏を楽しめることがひとつのポイントとされている。確かにレイヤー=演奏モードの切り替え方法だけ理解していれば、あとは適当にLEDボタンを押してパターンを作り、レイヤーを切り替えて音を重ねていくだけで初心者でも楽しめる。ステップシーケンサ的なScoreモードは作曲の概念を理解している人のほうが、きちんとした曲は作りやすいだろう。しかしそういう風に小難しいことを考えなくとも、誰でもすぐに楽しめる楽器だ。販売は公式Webサイトのみ、実機展示も限られた店舗のみでどこでも触れるわけではないところが残念ではあるものの、興味のわいた人はぜひとも実機に触れてみてほしい。