「21世紀の音楽インタフェース」と銘打ってヤマハが送り出した新しい電子楽器、TENORI-ON。発売に先駆け、実機をお借りすることができたので、その試用レビューをお届けしよう。

楽器というよりはゲーム機のようなデザイン!?

4月に発表会が行われ、5月12日より国内販売が開始されるヤマハの新しい電子楽器「TENORI-ON(テノリオン)」。細かい製品仕様などは発表会レポートでも紹介しているが、AWM2音源を搭載し、音楽的な知識がない人でも直感的に演奏が可能なユーザーインタフェースが特徴だ。このTENORI-ONは昨年秋にイギリスで先行発売が開始され、ビョークがワールドツアーで使用、日本でもこの3月からコーネリアスの小山田圭吾氏がライブで使い始めたという。

外観はサイズが205 × 205 × 32mmと上から見ると正方形で、表側(操作面)、裏側とも16 × 16個のLEDが同じように配置されている。表側のLEDは押すことでさまざまなパターンを作成して演奏するためのボタンで、演奏に合わせていろいろなパターンで点灯する。裏側のLEDは押すことはできないが、表側と同じ点灯パターンで発光し、観客に音だけでなく視覚的効果を与えることができる。デザインは、楽器というよりもちょっと大き目のゲーム機で、複数のボタンが正方形に並んでいることから新種のパズルゲームのようにも見える。

16 × 16=256個のLEDボタンが目を惹くTENORI-ON。本体の素材はマグネシウム合金で、日本国内で職人が1台ずつ手作業で磨き上げているという。重さは約700g

背面のLEDは押すことはできない。発光パターンは表側LEDボタンと同じで観客を魅せるためのデザインだ。下部フレームにはヤマハと共同で開発を行ったメディアアーティスト、岩井俊雄氏の名も入っている

出力端子はステレオミニプラグのヘッドフォン/ラインアウト兼用出力端子、そして複数のTENORI-ONを接続して同期演奏したり、TENORI-ONから出力するMIDIデータをパソコンなどで記録するためのMIDI端子(mini-DIN)が用意されている。電源は単三乾電池6本で、約5時間の連続演奏が可能。本体上部にはステレオスピーカーも搭載されているため、これ1台で演奏することができる。ただし、スピーカーは小型のため、ボリュームを最大にしても出力レベルはそれほど大きくはなく、自宅で演奏するには十分だがステージ上で使うにはやはり外部スピーカーの接続が必須だ。

ヘッドフォン/ラインアウト、MIDI端子、そしてACアダプタ端子は本体下部左側に用意されている。中央の黒い小さなスイッチが電源スイッチ

電池ボックスは背面の左右フレームに用意。左右に3本ずつ、合計6本の単三乾電池を使用する。製品にはACアダプタも標準で付属している

上部フレームには表面、裏面ともスピーカーを搭載。小型だが、ステレオスピーカーだ。なおこの画像は裏側で、中央にはSDカードスロットが用意され、TENORI-ONの演奏をソングファイルとして保存したり、オリジナルサンプリング音をユーザーボイスとしてTENORI-ONに読み込むことができる

直感的に使えるステップシーケンサのような「Scoreモード」

電源を入れると音は出ないものの、左から右へといくつかのLEDボタンが発光していく。この状態でチョンチョンと適当にLEDボタンを押してやると、それに合わせてLEDが光りつつ、鍵盤を弾いたときのように短い音が鳴る。このように適当にLEDボタンを押していてもなんとなく演奏できることがTENORI-ONの特徴だが、もう少し具体的に見ていこう。

電源を入れると縦列のLEDボタンが4個点灯し、左から右へとそのまま流れていく。この状態でLEDボタンを短く押すと、周辺のLEDボタンが点灯しつつ短い音が鳴る

まず、TENORI-ONには6種類の演奏モードが用意されており、それぞれLEDボタンの操作に対する効果や演奏される音が異なる。電源を入れたとき最初に選択されているのは「Scoreモード」で、これはリズムマシンやDAWソフトのステップシーケンサに似た動作となっている。

まず縦列のLEDボタンは音のピッチを表しており、上に行くほど高く、下に行くほど低い音となる。そして横列は時間軸を表し、左から右へと流れるように点灯するLEDボタンはループインジケータで、現在の演奏位置だ。LEDボタンを長押しするとそのLEDボタンは点灯したままの状態となり、ループインジケータがその位置に来たときに演奏される。つまり、4つ打ちのパターンを組みたいときは、左から1、5、9、13番目のボタンを押して点灯させればよい。同じ拍数で和音を出したいときは、同じ縦列で複数のLEDボタンを点灯させておけばよいわけだ。なお、ループ演奏中にLEDボタンを短く押せば、発音ポイントとは無関係に単発で音を鳴らす、つまりリアルタイムでのパフォーマンスもできる。

LEDボタンを長押しするとそこが発音ポイントとして記憶され、点灯したままの状態になり、ループインジケータの動きに合わせて発音および点灯される。発音ポイントのクリアは、もう一度長押しすればよい。点灯アニメーションのパターンはメニューから変更も可能

音色の切り替えや音の長さ、オクターブ、ループ範囲(拍数)などは左フレームに並んだL1~L5ボタンを押しながらLEDボタンを押すことで設定する。音色は合計256で、ドラム音色14キットを含めて253音色が用意され、残り3音色はSDカード経由でオリジナルサンプリング音を読み込めるユーザーボイスとなっている。

L1~L5ボタンを押すとLEDボタンの点灯パターンが変わりさまざまな設定ができる。L1ボタンは音色切り替えで、縦列と横列がクロスしているポイントが現在選択している音色となる

L1~L5ボタンを押すとフレーム下部にあるディスプレイの表示が切り替わり、こちらで設定内容を確認できる。ディスプレイには照明がつき暗いところでも視認性はよい

Scoreモードの動作についてはステップシーケンサを使ったことがある人なら理解していただけたと思うが、発音ポイントによって音色を変えることはできないため、これでは1つの音色で1つのパターンをループ演奏することしかできない。次回はTENORI-ONを使う上で重要なレイヤーの概念、そして他の演奏モードについて紹介しよう。