L1 model I System

ライブには必須のPAシステムだが、必須といえども個人で所有することは難しく、またプレイヤー自身がコントロールすることも通常はありえない。

ボーズが発売したL1 model I Systemは、サイズ、価格面において個人で所有することも可能で、またプレイヤー自身が音作りをコントロールできる新しい発想のPAシステムだ。どのようなものなのか、チェックしてみよう。

従来型PAシステムでの常識

ライブ演奏に必須の機材といえば楽器はもちろんだが、スピーカーや、ミキサーも当然欠かせない。どこまでを自前の機材でまかなうかは入れ物(会場)によって異なるが、音楽用途のライブハウスであればPA用スピーカーやモニタースピーカー、ミキサー等の機材は用意されているので、それを使うことが多いだろう。逆に音楽用途を想定していないカフェなどの飲食店や屋外でライブを行うときはそういったPA設備は用意されていないので、機材をレンタルしてセッティングすることになる。もちろんアンプ内蔵スピーカー1台でライブというスタイルもあるが、ある程度以上の規模となればそれでは力不足は明確であり、本格的なライブではPA機材を借りる、というケースがほとんどではないだろうか。

ライブ会場の備え付け機材とレンタル機材、どちらのパターンであってもスピーカーの構成は、観客が演奏を聴くためのPAスピーカーと、プレイヤーが自身の演奏する音を確認するためのモニタースピーカーからなる。つまり、2系統の異なるスピーカーが鳴ることになり、プレイヤーと観客が聴いている音は必ずしも同じではない。

そして観客に実際に届く音、たとえば各パートのミキシングバランスなどは基本的にプレイヤー自身が決められるわけではない。これはミキサーを操作するオペレータの手にゆだねられている。これは時として、プレイヤー自身が考えている通りのサウンドが、観客に向けて発せられているとは限らない、ということにもなるのだ。

もちろん、そういった事態を防ぐために事前にリハーサルを行い、演奏中もアイコンタクトやジェスチャーでオペレータとの意思疎通を図るはず。とはいえプレイヤーとオペレータが別の人間である以上は、ジェスチャーだけで完全に意思を伝えることは難しく、また現状のPAシステムではプレイヤー自身が演奏中にミキサーを操作することは無理だろう。

ここまでに述べてきたことはPAシステムではいわば当たり前のことであり、そこに問題を感じている人は少ない、というよりもあきらめているのかもしれない。しかしボーズが発売した「L1 model I System」は、新たな発想でこれらの問題を解決した、個人でも所有できるPAシステムなのだ。

コンパクトでも500人規模の会場をカバーするラインアレイスピーカー

L1 model I Systemは見た目がまず個性的だ。通常のPAスピーカーはステージの左右に最低2本、あるいはそれ以上のスピーカーを配置するが、L1 model I Systemは高さ約2mの細長いスピーカー1本だけとなる。

ボーズのミュージシャン向けPAシステム「L1 model I System」。スピーカー部は高さ約2mの個性的な外観

スピーカー部の「L1スピーカー」はパワースタンドPS1から取り外した上で、さらに上下に分割が可能。ネットの奥に小型ドライバが並んでいることがわかる

L1 model I SystemはPAとモニタースピーカー、そしてアンプを兼ねており、プレイヤーの後方に立てて設置する。プレイヤーは観客が聴くのとまったく同じサウンドをモニターできる。アンプ部の入力端子などは次回に詳しく紹介するが、バンド演奏などでの基本的な使い方はそれぞれのプレイヤーが個別のL1 model I Systemを使い、自分の後方に設置するというものだ。そのため通常のPAとは異なり、観客から見ればプレイヤーの立ち位置と、実際に音が出るスピーカー位置が同じ、ということも特徴だ。

L1 model I Systemのスピーカーユニット「L1スピーカー」はラインアレイスピーカーというタイプで、内部には直径57mmの小型スピーカードライバが合計24個、縦に並んでいる。同製品は一般的なPAスピーカーに比べるとかなり小型で、ライブで観客に音が届くかどうか不安に思うかもしれない。しかし、ラインアレイスピーカーは通常のスピーカーに比べて音が上下方向には拡散しないという特徴がある。そのため音が遠くまで届きやすく、これ1台で500人規模の会場まではカバーできるという。もともとラインアレイスピーカーは80年代にスタジアム規模のコンサート用に開発された理論であり、それが個人で所有できるということもL1 model I Systemの特徴だろう。

通常のスピーカーは音が上下左右に拡散・減衰する

ラインアレイスピーカーは上下に音が拡散しづらく、観客席後方でも音の減衰が少ない。そのためL1 model I Systemの近くに立っているプレイヤーと、観客席で聴いている観客で、音量や音質の差が少なくなる

アンプを内蔵したスピーカースタンドである「パワースタンドPS1」。楽器の接続はここに行う。上面の穴にL1スピーカーを立ててセット、大型のボタン状のものはL1スピーカーを外すためのリリースボタン

低音域専用のウーファユニットである「B1ベースモジュール」

土台となる「パワースタンドPS1」は250Wのパワーアンプを2基搭載したバイアンプ構造。1基のアンプはL1スピーカーを、そしてもう1基はウーファである「B1ベースモジュール」を駆動する。

なおL1 model I Systemの最小構成はパワースタンドPS1+L1スピーカーで、このセットは「ベーシックパッケージ」として発売されている。B1ベースモジュールはパワースタンドPS1に最大2台接続することができ、1台のB1ベースモジュールが付属する「シングルベースパッケージ」、2台付属する「ダブルベースパッケージ」も用意される。基本的にはシングルベースパッケージでほとんどの用途はカバーできるが、DJ用途など重低音を重視するならダブルベースパッケージ、ボーカルメインでの活用など中高域主体ならベーシックパッケージ、という位置付けのようだ。なおB1ベースモジュールは単体発売もされているので、買い足してアップグレードすることもできる。

新しい思想で設計されたPAシステム、L1 model I System。次回はアンプ部の詳細なチェックやオプションユニット、そして実際に演奏してみるとどうなのかなどを紹介していく予定だ。