ティアックは、TASCAMブランドで業務用機器も多くリリースしており、これまで高価格なレコーダを既に発売している。新製品のリニアPCMレコーダ「DR-1」は、低価格でコンパクトなだけでなく、楽器練習にも役立つ機能を満載している。その使い勝手はどうだろうか。

ロングライフな専用バッテリを使用

TASCAMの「DR-1」はこれまで紹介してきたオリンパスLS-10ZOOM H2と同じように、ハンディタイプのリニアPCMレコーダ。TASCAMはこれまでにもDSDレコーディングが可能なラックマウントタイプの「DV-RA1000HD」など、業務用途を視野に入れたレコーダを発売しているが、ハンディタイプのリニアPCMレコーダとしては同社初の製品となる。

楽器練習に役立ちそうな再生機能を多く搭載しているTASCAMの「DR-1」

DR-1はリニアPCMレコーダとしてはベーシックなデザインで、サイズは70×27× 135.3mm、重量はバッテリ込みで208g。サイズとしてはEDIROLのR-09よりは一回り大きく、ソニーのPCM-D50 より気持ち小さい、といったところだ。現在市場に出回っている製品としては、すこし大きめの部類に入るだろう。価格はオープンで、家電量販店での実売価格は29,800円前後と手を出しやすい価格になっているようだ。

バッテリスロットは背面、専用のリチウムイオン充電池を使用する

電源はリニアPCMレコーダとしては珍しく、乾電池ではなく専用のリチウムイオン充電池を使用。公表値はMP3での録音時に約7時間動作可能となっている。WAV録音時の動作時間は公表されていないため不明。おそらく短くなるはずではあるが、バッテリの持ちはリニアPCMレコーダとしては良いようだ。ただ、乾電池ならばコンビニでも入手できるが、専用充電池では屋外使用時のバッテリ切れに不安を覚える人もいるだろう。なお、充電はUSBケーブルを通じてパソコンから行い、約6時間でフル充電となる。ACアダプタは別売だ。

記録フォーマットは最大24bit/48kHzのWAV、そしてMP3にも対応する。内蔵メモリを搭載せず、記録メディアはSD/SDHCカードスロットを備え、32GBまでのSDHCカードをサポート。製品には1GBのSDカードが付属している。

カードスロットはUSBポートと共に左側面カバー内、製品には1GB SDカードが付属

マイクの向きは90度(5段階)可変、ハンドルの向きがマイク前面を表す。写真は本体前面に向けた状態だ

内蔵ステレオマイクは他の製品と同様、筐体の上端に搭載。マイクの開き角は固定だが、向きを90度可変できる。そのため録音対象に対しDR-1を寝かせて、もしくは立たせて設置することができる。

再生スピード可変やキーコントロール機能を搭載

録音操作はまずREC/PAUSEボタンを押して録音待機、右側面のINPUTダイアルで録音レベルを調整し、RECキーを押して録音開始、STOP/HOMEボタンで停止と、手順は一般的でわかりやすい。ただREC/PAUSEボタンのサイズは大きいものの、誤動作防止のためか他のボタンよりストロークが深く、グッと押し込まないと動作しないようになっている。指が太い人は親指では押し込みにくく感じるだろう。

ディスプレイは大型で、レベルメータの動きも見やすい。ただし、レベルメータのピークホールド機能はクリッピング時のみだ。ディスプレイ右には独立したピークインジケータが用意されている。

レベルメータにピークホールド機能がないのは残念。右側の「PEAK」はクリッピング時に点灯するピークインジケータ。なお、その上のインジケータはバッテリ充電時に点灯する

風切り音を低減するローカットフィルタ、録音レベルを自動調整するオートゲイン、クリッピングを防止するリミッタも搭載。これらの機能は右側面のSETTINGボタンで切り替える。録音フォーマット設定などは前面のMENUボタンから行うためすこし戸惑ったが、録音シチュエーションに合わせて切り替えたい機能はSETTINGボタンに集約されているため、慣れればこちらのほうが使い勝手は優れていそうだ。

フィルタやリミッタ、ヘッドフォンモニタの設定は右側面のSETTINGボタンから切り替える。またファームウェアV1.02よりマイクゲインの3段階切り替えに対応した

ヘッドフォンモニタを有効にして録音操作を行うと、オーバーダビングすることも可能

また特徴的な録音機能として、既に録音したファイルに重ね録りできるオーバーダビング機能がある。再生/録音のバランスは右側面のMIX BALANCEで調整、まずギターを録り、続いてボーカルといった具合にDR-1をMTR的に使うことができる。さらに11種類のプリセットが用意されるエフェクタ機能を使ってかけ録りすることも可能だ。なお外部マイク入力はステレオミニとTRSモノラルの2系統を搭載している。

エフェクタは11種のプリセットを用意、FXボタンでオン/オフを切り替え、設定はFXボタンを長押ししてこのメニューを開く

キーコントロール機能などのオン/オフはディスプレイ上側のアイコンで表示。設定はPB CONTROLボタンを長押しして行う

DR-1の特徴は、再生機能が豊富なことだ。キーを変えずに再生速度を-50~+16%の範囲で可変、キーコントロール機能で±6半音の範囲でキーを可変、特定の範囲をループ再生、そしてボーカルなど特定定位の音を低減できるパートキャンセル、11種のプリセットが用意されるエフェクタといった多くの機能を使って録音ファイルを再生できる。どれも楽器演奏を録音し、練習に使う場合に役立つだろう。再生速度はPB CONTROLボタンを押すごとにオン/オフが切り替わるが、キーコントロールは長押ししてメニューを開き、オフにする必要がある。なお、再生位置のサーチはPLAYボタンの周辺を囲んでいるホイールで行えるため、ループ再生範囲の設定なども行いやすい。またメトロノーム、さらにチューナ機能も搭載している。

付属品はリチウムイオンバッテリにUSBケーブル、1GB SDカード、そしてソフトケース。本体には三脚穴は用意されていないものの、オプションとして三脚、三脚取り付け用ホルダ、マイクスタンド用アダプタ、ウインドスクリーンをセットにしたアクセサリーキットが今後発売予定となっている。

再生位置サーチに便利なホイールを搭載、巻戻し/早送りボタンでのサーチスピードもメニューから変更できる

録音ファイルの音質は低域が少し強く感じられるが、全体的なバランスは悪くない。超高音質というわけではないものの、リニアPCMレコーダとして標準レベルという印象だ。手ごろな価格で、楽器練習にも役立つ機能を搭載しているDR-1。TASCAMは再生スピード可変やキーコントロール機能を備えた「ギタートレーナー」や「ベーストレーナー」といったCD、メモリプレイヤーを発売しているが、そちらが気になっていた人にもお勧めしたいリニアPCMレコーダである。