ソニーより登場したリニアPCMレコーダ「PCM-D50」試用レポート第三弾。第一弾の外観チェック第二弾の録音操作に続き、今回は付属ソフトをチェック、そして屋外に持ち出して実際にレコーディングしてみた。その録音ファイルも公開しよう。

録音ファイルを手軽にCD化

PCM-D50には「SonicStage Mastering Studio Recorder Edition」というソフトが付属する。そもそも「SonicStage Mastering Studio」はソニーのパソコンVAIOシリーズにバンドルされてきたもので、外部機器の音をパソコンでレコーディングし、簡単な編集を行ってCD-Rに焼いたり、WAVファイルとして出力したりできるというソフト。PCM-D50に付属するSonicStage Mastering Studio Recorder Editionはエフェクトが一部省略された、その簡略版といえるものだ。

PCM-D50に付属するSonicStage Mastering Studio Recorder Edition

SonicStage Mastering Studio Recorder EditionではPCM-D50に録音したファイルをパソコンで一括して吸い上げ、ファイルリスト上に自動的に並べることも可能。編集機能はノーマライズとフェード、そして再生開始/終了位置を調整するトリム機能などが用意されている。また編集したファイルはCDにする以外にも、PCM-D50に書き戻す、といったことも可能だ。

PCM-D50から、直接ファイルを取り込むことができる

PCM-D50のフォルダ単位、またファイル単位でファイルを指定し、簡単にSonicStage Mastering Studio Recorder Editionへ取り込める

PCM-D50から転送したWAVファイルはこのようにファイルリストに自動的に並び、このままの曲順で音楽CD化するといったことが可能

頭とお尻に録音されてしまった不要部分を、フェードや開始/終了地点を調整するトリムを使って編集できる

残念ながらVAIOにバンドルされるSonicStage Mastering Studioの大きな特徴であった強力なエフェクト群は搭載されていない。ただし、既に他の波形編集ソフトを使いこなしている人には不要かもしれないが、使い方がシンプルなだけに初めてこの手のソフトに触れる人にはかえって使いやすいだろう。

実戦で便利なプリレコーディング機能

では、実際にPCM-D50を使ってレコーディングしてみることにしよう。今回は試用機を使えるスケジュールの関係上、楽器音ではなく、いわゆる「生録」にチャレンジしてみた。また合わせてEDIROL R-09でも同時に録音を行った。

録音対象は自宅近くを走っている電車で、ベランダ(2階)から東西に走る線路(地上)に向けて、PCM-D50を南東方向にセットする。ベランダと線路の距離は10m前後といったところだ。

まずは電車が通過するタイミングでPCM-D50とR-09それぞれの録音レベル設定を行う。ここでちょっとした問題が発生した。録音当日は強風が吹いていたというほどではないが完全な無風状態ではなく、前回触れたようにPCM-D50はかなりマイク感度がよいため、風が吹くとクリッピング(レベルオーバー)を起こしてしまう。R-09はPCM-D50ほどの頻度ではないものの、やはり風で時おりクリッピングが起こる状態だ。

この両機には風の影響を低減できるローカットフィルタ機能が用意されているので、まずは両機とも有効にする。R-09はこれで突風以外ではクリッピングを起こさなくなったが、PCM-D50はダメだ。

そこでPCM-D50のマイク部に、純正オプションとして用意されているウインドスクリーン「AD-PCM1」をセットした。ヘッドフォンモニターしながら再度録音レベルを調整すると、効果は非常に大きく、風によるクリッピングはほぼ防止できるようになった。PCM-D50で屋外録音を行うなら、ぜひとも用意したいオプションといえるだろう。

マイクに被せることで風切り音を低減できる純正オプションのウインドスクリーン「AD-PCM1」。ひっくり返すとゴムが仕込まれており、簡単にPCM-D50に装着できる

AD-PCM1を装着したPCM-D50。ヘッドフォンモニターすると風切り音がかなり少なくなっていることがわかる。今回の録音はこのウインドスクリーンを装着した上でローカットフィルタ有効にして行った

なおPCM-D50のマイクポジションは10m先の電車を狙うために、左右のマイクを開いたワイドステレオポジションにセット。前回紹介した、ボタンを押しての録音開始より5秒前から録音ができるプリレコーディング機能も有効にした。またPCM-D50には過大入力によるクリッピングを防ぐためのリミッタ機能も搭載されているが、R-09には用意されていないため、今回は条件を揃えるためにあえてオフにしている。録音モードは両製品それぞれがサポートする最高音質、つまりPCM-D50は24bit/96kHz、R-09は24bit/48kHzにセットした。

電車の通過を待ち、実際に数回レコーディングを繰り返してみると、まず感じたのはPCM-D50のプリレコーディング機能が非常に有効であること。今回は対象が電車で、また近くに踏み切りもあるためその警報音である程度のタイミングを図ることができたが、それでも待つことにある程度の緊張は伴う。生録では録音したい何かが起こったときにボタンを押したのでは遅い、ところがPCM-D50ならその「何か」が起こってからボタンを押しても5秒前の音から録音できているので、非常に気が楽なのだ。

今回は両製品の音を実際に自分の耳で確かめてもらうため、レコーディングしたWAVファイルを掲載しよう。厳密には2台を並べているためマイクポジションが30cmほど違い、また生録のため事前に録音レベル調整を繰り返しても完全に統一することはできなかった。掲載ファイルは波形編集ソフトで必要部分をカット編集しただけのもの。あえてノーマライズ処理なども行っていない素の音だ。

なおサンプリングビットレート/周波数も録音時の24bit/96kHz(R-09は24bit/48kHz)のままなのでファイルサイズがかなり大きく、またオーディオインタフェースなどサウンド周りの環境によっては再生できないかもしれないがその点はご容赦いただきたい。

PCM-D50の録音サンプル PCM_D50.wav
約18秒、PCM、24bit/96kHz(9.9MB)
R-09の録音サンプル R09.wav
約18秒、PCM、24bit/48kHz(4.86MB)

このレコーディングを通じてPCM-D50に感じたのは、プリレコーディング機能、そして今回はオフにしたがクリッピングを防止するリミッタ機能など、一発録りで失敗できないときに便利な機能のありがたさだ。音質についてもテストでは離れた歩行者の足音まで拾っており、マイクの良さを感じさせる。スタジオに持ち込めば、楽器の細かいニュアンスまで再現してくれそうだ。