MIDIケーブルで接続されるパソコンや複数のMIDI機器、この中を流れる信号がMIDI信号だ。では、MIDI信号とはどのようなものなのだろうか? 今回はMIDI信号の基本について解説しよう。

MIDI信号はMIDI機器をコントロールするための情報

MIDIケーブルでMIDIキーボードとMIDI音源を接続した場合、MIDIキーボードの鍵盤を弾けばMIDI音源が演奏される。これはMIDIキーボードを弾くことでMIDI信号が送出され、そのMIDI信号をMIDI音源が受信することで演奏される、ということだ。このMIDI信号はデジタルデータなのだが、ピアノやギターといった楽器音そのものではない。あくまでもMIDI音源をコントロールするための情報でしかなく、そのため楽器音を録音したWAVファイルなどに比べ、容量の小さなデータである。

2台のMIDI楽器をMIDIケーブルで接続している場合、楽器Aの鍵盤を弾くことでMIDI信号が楽器Bに入力され、結果としてユニゾンで演奏される

もう少し詳しくいうと、音の高さ(ピッチ)や音の強さ(ベロシティ)を0~127という数値で伝えている。ベロシティ0は鍵盤を叩かない、つまり音が止まることになる。たとえばドの音を強く鳴らす場合には、

・60の音をベロシティ100で演奏する→60の音をベロシティ0で演奏する(=音が止まる)

といった情報が伝送される。和音の場合はMIDI信号が連続して送出され、音源が演奏される。そのため厳密にはタイムラグがあるが、人間の耳では同時に演奏されているように聞こえているのだ。

またMIDIにはチャンネルという概念がある。これは16のチャンネルが用意されており、それぞれで異なるMIDI信号を扱えるというもの。たとえば1台の楽器でも2つのチャンネルを使うことで、チャンネル1ではピアノ音を、チャンネル2ではギター音を、それぞれ違うフレーズを演奏させるといったことが可能だ。DAWソフトのMIDIシーケンス機能では1つのソフトシンセを複数のMIDIトラックからコントロールし、同時に複数の楽器を演奏できるが、これもMIDIチャンネルによって実現されている。

他には音色、つまり楽器音を切り替えるプログラムチェンジ、ピッチを上げ下げするピッチベンド、ピアノのフットペダルなど演奏に関するさまざまな情報を扱うコントロールチェンジなど、MIDI信号ではさまざまな情報を扱うことができる。そしてこのMIDI信号については規格として定められているため、MIDI機器であればメーカーなどは問わずに接続してコントロールが可能だ。

MIDI楽器によって違う楽器音が鳴る!?

このようにMIDI信号の内容はきちんと定められているものの、実は音色についてはきちんとしたルールがあるわけではない。MIDI信号ではドの音を音色番号1の楽器でベロシティ100で鳴らす、と信号が送受信されるが、実はこの音色番号1がなにか、ということは規定されていない。そのためMIDI音源Aではピアノが、MIDI音源Bではギターが鳴る、といった可能性がないわけではなかった。

そこで91年に策定されたのがGeneral MIDI System Level 1、通称GM(GM1とも呼ぶ)である。これは音色の並び方を中心に最低限のレベルで統一した規格で、プログラムチェンジで0~127、つまり128音が定義された。これによりGM対応機器向けに作成されたMIDIファイルであれば、メーカーを問わずにある程度の互換性が確保されたのだ。

続いてGMの上位互換フォーマットとして、ローランドがGS、ヤマハがXGを提唱した。これはバンク・セレクトという命令を使い、1000音色以上の切り替えに対応したもの。

そして99年にはGeneral MIDI System Level 2、通称GM2が策定された。これはGM1の上位互換規格で、256音以上の音色数をサポートしたものである。

GM2、GS、XG対応のMIDI音源にはこのようなロゴが表示されており、互換性がある

GM2、GS、XGはすべてGM1の上位互換となる

なおGSとXGは提唱元が異なるメーカーのため当初は完全互換ではなかったが、現在では両社の製品ともGM2に対応した上で、GS、XGを相互乗り入れの形でサポートするようになっている。

USB接続にも対応したベーシックなMIDI音源であるEDIROLのSD-20。GM2、GS、XGをサポートし、660音色および23ドラムセットを搭載している

現在はパソコンを使えば外部MIDI音源がなくとも曲作りはでき、ケーブルもMIDIケーブルではなくUSBケーブルで接続するスタイルが主流である。しかしソフトシンセをコントロールするにはMIDI信号が必須であり、今回取り上げた内容はMIDIの基本として心の片隅に留めておいてほしい。