【コラム】

音楽をはじめよう!

25 音楽制作に必須のモニターヘッドフォン(2)

    大坪知樹  [2006/12/21]

    音楽制作には必須となるモニターヘッドフォン、市場にはさまざまな製品があふれているが、プロの音楽制作現場でほぼ100%の普及率を誇るモニターヘッドフォンがあるという。それはどんなものだろうか?

    スタジオエンジニアの要求で生まれたMDR-CD900ST

    数多くのスタジオ、そしてエンジニアに愛用されているモニターヘッドフォン、ソニーMDR-CD900ST。なおハウジング部の「for DIGITAL」はステッカーなので、これを剥がすとよりシンプルなデザインとなる

    数多くのレコーディングスタジオで使われている業界標準的存在のモニターヘッドフォン、それがソニーのMDR-CD900STという製品だ。実はこのヘッドフォン、通常の小売ルートを経てソニーブランド製品として販売されているわけではないため、店頭ではあまり見かけない。

    しかし、その姿を見たことがあるという人も意外と多いのではないだろうか。たとえばテレビの音楽番組でアーティストのレコーディング風景などが写ることがある、その時、当然ながらモニターヘッドフォンを使っているのだが、そこにこのシンプルなデザインのヘッドフォンが確認できるだろう。よく見てみればあちこちのスタジオで複数のアーティストが登場していても、使っているヘッドフォンはほぼこのMDR-CD900STであり、興味を持って見ていた人もいるかもしれない。

    そもそもこのMDR-CD900ST、ソニー・ミュージックエンタテインメントのスタジオエンジニアにとって、市販製品で満足できるモニターヘッドフォンが存在していなかったことがきっかけとなり、ソニーとソニー・ミュージックエンタテインメントが共同で開発したもの。現場のエンジニアの要求が盛り込まれた、プロの道具といえるだろう。当初はあくまでソニー・ミュージックエンタテインメントのスタジオでのみ使用されていたが、その評判の高さに外部にも販売されることになり、次第にどこのスタジオにも用意されている業界標準的な存在となったようだ。

    出音だけでなく、長時間装着にも疲れが出ないデザインも現場向け

    ではまず、MDR-CD900STを外観からチェックしてみよう。ぱっと見るとイヤーパッドやハウジングはそれほど大型ではなく、ヘッドバンドのパッドもそれほど厚みがあるわけではない。最近のヘッドフォン、特にリスニング向けの高級製品を所有している人にとっては「なんだか安っぽい」とも感じそうなデザインだ。また左右チャンネルを示す「L」「R」のプレートがそれぞれ青と赤で色分けされているのもあまり高級感のないところだろう。しかしこれは一目で装着方向を示すための工夫であり、いかにも現場向けといったデザインだ。

    ヘッドバンドには「STUDIO MONITOR」と金文字で入る。締め付けは軽めでパッドも薄く、かなり重量的にも軽量な仕上がりだ

    ヘッドバンドの端にはチャンネルが色分け表示され一目で確認できる。また調節部分には目盛が刻まれ、不特定多数が使用するスタジオでも便利だ

    手にとってみてまず感じるのは「軽い」ということ。実際、現在ソニーが通常販売しているモニター向けヘッドフォンの最上級モデルとなるMDR-Z900HDは重量が約300gあるのに対して、このMDR-CD900STは約200gしかない。

    またプラグ形状は最近のヘッドフォンでよく見かけるステレオミニプラグ+ステレオ標準プラグ変換アダプタではなく、ステレオ標準プラグとなっている。このためiPodのようなポータブル機器と組み合わせるにはステレオミニプラグ変換アダプタが必要となるが、そもそもスタジオのミキサーは標準プラグであり、ミニプラグということはありえないためだろう。そして最近はよく見かける、持ち運びに便利な折り畳み機構もない。これもそもそもスタジオ据え付けで持ち運ぶものではなく、それよりも機構のシンプルさからくる耐用性を重視したためだ。

    スタジオで使用するために設計されたヘッドフォンのため、プラグ形状はステレオ標準プラグとなっている。ケーブルもカールコードなどではなくストレートタイプだが、かなり柔らかく取り回しはよい

    ヘッドフォンの核となるドライバーユニットは独自開発されたもの。スペック的には再生周波数帯域が5~30000Hz、最大入力が1000mW、インピーダンスが63Ωとなっている。インピーダンス値が高いものの、ほかの数値は特出しているわけではない。

    では、実際に音を出して見るとどうだろうか。個人的に最初に感じたことは、高音域の伸びが非常によく、一つ一つの楽器音が細かく確認できるということ。月並みな感想だが、解像度が高く、輪郭がはっきりした傾向の出音だ。逆に低音域の出方はそれほど強くない、その意味では迫力あるサウンドを求める人にはちょっと拍子抜けかもしれないが、実際はこれが味付けされていない素の出音である。

    最近のリスニング向けヘッドフォン、特に手ごろな価格帯の製品では低域を強調する方向性の製品が多いため、そういったヘッドフォンから乗り換えると最初は低域が弱く感じ、また相対的に高域がやたら強く響く、と感じるかもしれない。しかし音楽制作現場ではあくまでも原音を正確にモニターできることが第一条件であり、それを追求したサウンドなのだ。

    MDR-CD900STのもうひとつの特徴は、装着感が軽いことだ。これはヘッドフォン本体の重量がそもそも軽いこともあるが、ヘッドバンドの締め付けがあまり強くないことも大きい。いろいろなヘッドフォンを使ったことがある人ならば経験としてわかっているだろうが、実はヘッドフォンというものは音質そのものの好みも重要だが、装着感が合う、合わないというのも使い続けるための重要な要素。もともとスタジオ向けとして登場したMDR-CD900STは重量を軽く、締め付けを弱くすることで長時間の装着においても疲れを感じさせないデザインとなっている。それがある意味では、万人向けの装着感を実現する理由となったようだ。

    このMDR-CD900ST、基本的には一般の小売店向け流通ルートには載らない特殊な製品なのだが、最近はその評判の高さから大手楽器店や大型家電量販店でも販売されており、大分入手しやすくなっている。店舗によっては試聴コーナーに用意されている場合もあるので、モニターヘッドフォンの買い替えを検討している人は一度聴いてみてはいかがだろうか。

    その特殊な生い立ちゆえか、化粧箱などは用意されずこのような飾り気のない箱に収められて販売されている。ちなみに筆者は家電量販店店頭で16800円で購入

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