前回までに「会議体設計のコツ」「会議運営のコツ」を紹介してきた。今回は、少し角度を変えて、「会議の役割」について話をしていこうと思う。

覚えていますか? あのセリフを聞いたときを……

突然だが、皆さんはこのセリフ、覚えているだろうか。

「事件は会議室で起こってるんじゃない、現場で起こってるんだ!!」

映画「踊る大捜査線」の織田裕二扮する青島刑事の名セリフである。結構、多くの人が覚えているのではないだろうか。

多くの人が覚えている理由として、このセリフがTVのCMで多く流れたことや、織田裕二さんの熱演のおかげということも挙げられるが、このセリフの内容自体が多くの人に響いたということも挙げられると思う。

  • わかったふうな顔で指示を出す上司への反発
  • 会議室&会議への悪いイメージ
  • "現場"という言葉の崇高さ

こういったことが根底にある気がする。

会議の役割

この踊る大捜査線における会議は現場を知らない偉い人が支配しているものとなっていた。

しかし、私は会議の役割を、むしろ現場と偉い人を結びつける場とすべきだと考える。

偉い人は現場を把握すべきだが、すべての現場を把握することはできないし、個別の現場の出来事だけでなく「俯瞰」して物事を捉えていく必要もある。その「俯瞰」と「現場」を結び付けていくのが、会議の役割なのである。

また、「隣の部署のことは知らない」「縦割りが強い」という会社をよく耳にするが、これも会議の役割不全の例だと思っている。すなわち、会議にて、他の部署の「現場」をもっと共有すべきなのである。

コンサル業界でよく使われる言葉として、「トンボとアリ」というものがある。これは、 * トンボのように上空から物事を「俯瞰」しつつも、 * アリのように「現場」を歩き回って事実を掴み取る

という教えのことである。

会議で話される内容には、常にこの両者 - 「俯瞰」と「現場」が必要である。「俯瞰」しかない会議では、「事件は会議室で起こってるんじゃない!」ということになってしまうのだ。また、「営業現場は忙しい模様です」といった、「俯瞰」でも「現場」でもない、その中間くらいの、中途半端なリアリティのない現場情報も要らない。もし会議資料がそんな状況だったら見直しが必要である。一部でもいいので「しみじみとした現場情報」を会議に織り込んでいこう。

また、会議でこんな言葉が飛び交っていたら、それも注意が必要である。

  • 「来るべきクラウド時代への対応として……」
  • 「グループガバナンスとグループ全体の総合力を強化するために……」

こういったわかったような、わからないような言葉、これを「思考停止ワード」と呼ぶ。もちろん、クラウドの具体的な意味が正確にわかっている人同士なら何も問題ないのだが、あやふやな形でその言葉を使っている人が会議にひとりでもいると問題となる。人間、あやふやな言葉が飛び込んでくると、思考が止まってしまうのだ。思考が止まると、議論が盛り上がらず、「わかったふうな顔で指示を出す上司」のような結論が生まれてしまう。

「事件は……」という名台詞、アメリカでも受けるのか?

話、変わって……。

英会話のGabaに行って「アメリカと日本の企業の違い」というテーマで英会話レッスンをしていたときの出来事である(いちおう、グローバルファームに勤務する私ですが、英語はちょっと苦手です。すみません)。

「アメリカはトップダウンが強いが、日本は現場が強い」

と話そうとして、"現場"を英語で表現できずに止まってしまう。英語でのプレゼンを中断し、「"現場"って英語で言うと何でしたっけ?」ということを講師に質問すると、"low-level employees ?" "blue-collar ?"と、どうもピンと来る回答が返ってこない。

納得いかず、その後、翻訳サイトで"現場"を英訳してみると

Site / Job site / Field

と出てきた。"Low-level employee"よりはいいが、やはり少しニュアンスが違う気がする。

全文翻訳してみると、

The event happens on the site that doesn't happen in the conference room !

……この訳を見る限り、この日本の名台詞、アメリカでは日本ほど共感されない気がする。

最後にもうひとつ、Wikipedia Englishを試してみると、"Gemba"という言葉が日本特有の言葉として登録されていた。

"Gemba"とは?

Gemba is a Japanese term meaning "the place where the truth can be found." Others may call it "the value proposition."

ぜひ、会議室に、この現場情報を織り込んでほしい。

執筆者紹介

斉藤岳 SAITO Gaku

アビームコンサルティング プリンシパル。東京大学大学院農学生命科学研究科修了。コンサルティングファーム勤務を経て2001年にアビーム入社。新規事業立上げ、事業再編、経営管理、業務改革等のコンサルティング経験多数。また、「会議で結論を出す技術」「インタビュースキル」「ソリューション営業スキル」等の研修を行っている。主な著書に1回の会議・打ち合わせで必ず結論を出す技術など。