もうすぐ梅雨の季節がやってくる。バイクはクルマと違って体がむき出しのままなので、雨が降れば濡れてしまう。雨の日は走らないと決めている人でも、ツーリングで雨に遭うときだってあるだろう。日帰りツーリング程度ならいいが、泊まりがけでツーリングへ行くのなら雨具は必須だろう。

ライダーに適したレインウエアとはどんな物なのか? 今回は雨の日でも走り続けるバイク便ライダーに、レインウエアの選び方と雨の日走行の注意点を聞いてみた。お話を伺ったのは、オレンジ色の荷箱に書かれた「By-Q」の文字が目を引く「バイク急便」でリーダーも務める川北勝久さんだ。

高くてもゴアテックスは最強!

レインウエアはコンビニで売られている安価な製品から、スポーツ、釣りやアウトドア、バイクなどの用途に合わせて作られた物まで多数ある。素材もナイロン、ゴアテックスなどで値段の幅が広い。バイクに乗るのに適したレインウエアはどのようなタイプだろうか。? 悩んでしまう人も多いのではないだろうか。まずはレインウエアを選ぶ基準を教えていただいた。

「ライダーに適したレインウエアは、やはりバイク用のものが一番です。操作性などが考慮されていてやはり動きやすい。釣り用は重いので体が動かしにくいですね。それとバイク用は衣服のバタつきを防止するために、腕や脇にベロクロが付いています。バタつきだけでも走行時の疲労が変わってきますからね。レインウエアの素材としてはゴアテックスが最強です。僕たちバイク便の配送員は雨の日も走りますので、レインウエアは1万円以上のものを選ぶ人が多いですね」

なるほど。普段バイク用を使っているので気が付かなかったが、風のバタつきは確かに気になる。私が使っている物はゴールドウィンの「GSM2213A」。素材はナイロン製だが雨の中を一日走っても気になることはないし、そこそこ使い勝手も良かった。しかし買ってから2年半が経ち、撥水効果がかなり低下してしまった。それと夏にジャストサイズを選んでしまったため、冬の厚着の上からカッパを着るとパツンパツン状態で動きにくい。もう少し大きいものを買っておけば良かったとも思う。

「買い換え時期の目安ですが、レインウエアを着た状態で二の腕部分のメッシュが透けて見えると、撥水効果がなくなった証拠です。長時間使っていると縫い目から浸水してくることが多いですね。レインウエアは消耗品なので、浸水するようになったら買い換えるしかありません。レインウエアのサイズは、2周りほど大きめのサイズを買うのがいいと思います。一番始めに浸水するのは股の縫い目がほとんどです。ですから、大きめのウエアならそれも多少はカバーできますから。僕はお尻がすっぽり隠れる程度のサイズを選んでいます。雨の日走行は防寒対策も必要ですので、厚着にも対応できますしね」

最近はレインウエアのズボンが2本セットになっていて、重ねて着るものも発売されているとのこと。2枚履きはトイレなどでは面倒かもしれないが、防水効果は高そうだ。通常の上下セットのレインウエアに、コンビニで売られている安カッパのズボンをアンダーとして使うこともできる。それを考えてもサイズは2回りほど大きいのがよさそうだ。足の長さなどは、バイク用はベロクロで留めて調節できるのであまり気にしなくても大丈夫らしい。

今回、お話を伺ったバイク急便・葛飾DSCに勤務する川北勝久さん

雨の日の配達スタイル。カッパは自分の通常サイズより2サイズほど大きめの物。長靴が最強のレインブーツ

ズボンの股下の継ぎ目から浸水しやすいので、おしりが隠れるサイズのものを選ぶ

防水対策より防寒対策を重視する

次にグローブやブーツを聞いてみる。私は雨の日は素手で走ってしまう。走行時は手が冷えて運転しづらいし、かなり手が荒れて爪もボロボロになる。しかし、グローブは一度濡れてしまうと脱着がしづらいので、つい素手で走ってしまうのだ。ブーツも革のものを履いているので、一度濡れるとなかなか乾かず、ビニール袋を靴下のように履いて走るはめに。正直、フェリーや座敷の席に通されたときはかなり恥ずかしかった……。

「雨の日は、ハンドルカバーとレイングローブを併用して使っています。雨の走行は、濡れない対策よりは防寒対策が重要です。濡れてしまうことについては割り切って考えるしかありません。ですが指先や足下の冷えはバイクの操作に支障が出て、危険につながります。事故を起こしてしまっては仕事も楽しいツーリングも台無しですからね。新人配送員の指導でも、『首』の付く部分、つまり『首』『手首』『足首』を冷やさないように言っています。そこから風や雨が入って体はどんどん冷えてしまう。ですから、ベロクロなどでしっかり止められるものを選ぶようにしてください。足まわりですが、ブーツカバーは非常用と考えています。最強のレインブーツは長靴ですね。ブーツカバーもよくできたものは濡れづらいですが、長靴ほどではないです。なにより、ブーツカバーは滑るのが難点。歩く場合はもちろん脱ぎますが、信号待ちなどで足を付く場合にも滑ることが多いようです」

ビニール手袋やビニール袋を履くことは滑りやすいので薦められないと、注意を受けてしまった。もっともな話だ。

ハンドルカバーは手が濡れないのももちろんだが、指先が冷えないのがメリット

川北さんの仕事の相棒「CBR150R」。現在、最強のバイク便マシンだとのこと

長靴にズボンの裾を入れて防寒対策。これは川北さんの長靴ではなく、編集スタッフの安物。本当はもっとしっかりしていて、足首が動かしやすいものがいい

携帯や地図を雨から守る方法は?

雨の日は視界がとても悪い。私はフルフェイスを使っているので特に視界が悪くなり、結局シールドを開けて走ることがよくある。シールド用のスプレーなども売られているが、効果はあるのだろうか?

「曇り止めや撥水スプレーは確かに効果があります。ただワックス類は夜間やトンネルで対向車のライトの光が拡散して、眩しくなることがありますのであまり使いません。バイク便は昼も夜も関係なく走るので、結局はシールドを少し開けて空気が入りやすくするとか、こまめに拭くという対策になってしまいますね」

私はこの連休のツーリングで携帯電話を水没(故障)させてしまった。しかも水没は保証外になるとのことで有料修理に。ツーリングでお金を使ってしまったので、かなり痛かった。バイク便の仕事に通信機器は必要不可欠はなず。なにかいい方法はあるのだろうか。

「僕も携帯電話は何台も水没させましたね(苦笑)。なるべくライダージャケットの内ポケットにいれるとか、工夫するしかありません。今はカシオ製の防水携帯(au)を使っています。これなら多少の雨は大丈夫ですから。地図は消耗品と割り切って使うしかありません。防水紙を使った地図も売り出されていますが、リング式が多く、そのリング部からちぎれてしまうことが多いようです。使い方がヘビーですから。スタッフの中には透明のガムテープを全ページに貼って、オリジナルの防水地図を使っている人もいますよ(笑)」

やはり、携帯電話は内ポケットなどの奥にしまうしかないのだろう。最近では100円ショップで携帯電話用の防水ケースが売られているらしい。使ったことはないけど、それも便利かもしれない。防水携帯もかなり魅力だ。現在、防水携帯はドコモから「FOMA F701i」が発売されているが、auは夏モデルで数機種を登場させるらしい。ツーリングに使う地図ならタンクバッグに入れてカバーをかければなんとかなりそう。でも今年から発売された防水加工された「ツーリングマップルR」を使ってみたいと思っている。

携帯は雨の水没は保証対象外。川北さんが使っているのは防水タイプのG'zOneシリーズ「W42CA」

雨の日走行の注意点

雨の日走るのは誰でも避けたいもの。しかし、ツーリング中の雨や通勤で走らなくてはならないこともある。私は雨の日でもバイク通勤してるが、スリップなどで何度もヒヤリとしたことがある。走行時の注意点を聞いてみた。

「よく言われているように雨の日は『白線』『マンホール』『橋の継ぎ目』などがものすごく滑りやすくなっています。ただ、それをとっさに避けようとするとかえって危険。落ち着いてその上をやり過ごすように走ったほうが安全です。スリップした場合は、実は何もしないのが一番安全なんです。妙に体勢を立て直そうとしたり、ブレーキ操作のミスで転倒するというパターンが一番多い。新人にはヒザを締めて『なにもするな』と教育しています。それと、雨の日は特に視界が狭くなるので、意識して視線を遠くするように運転します。曲がるときは『オープンチェスト』といって、曲がりたい方向に意識して胸を向けるようにします。すると自然に外側の足に荷重がかかるのでバイクも安定しやすいですから」

「雨が降っているときは、クルマもバイクもみんな気をつけて走っています。だから実は意外に安全なんです。危険なのは雨の降り始めと上がった直後。降り始めというのは雨と道路のホコリが混じって油のような状態になるんですが、これが滑りやすい。雨が降ってしまえば洗い流されて、意外に滑らないものです。それと、雨が降っている最中は緊張していてストレスがたまっていますから、雨が上がるとついついアクセルを開けがちになります。これが危ない。転倒は雨が降っているときより雨上がりのほうが多いですね」

「雨の日は走ってくるバイクのライトが乱反射して距離感が鈍りがちです。それでクルマとの右直事故が多くなります。それと雨の日はドライバーも緊張しているのか、前ばかり見てサイドミラーを見る回数が少ないようです。つまり、クルマがこっちを認識していないんじゃないかと疑ってかかったほうがいいですね。できるだけ死角に入らず、自分の位置が相手にもわかるようにしてください」

確かに雨が上がると開放感でアクセルを開けがち。交通安全運動と同様に、終わった後こそ注意しなければ。それと雨の日や夜間、センターラインなどが見づらいときは、一台先に行かせてから走るのが安全らしい。これはねずみ取りと同じだと思ってしまった。日頃から先頭を走るのは避けるクセを付けようと思う。

「それとよく聞かれるのは雨の日のタイヤの空気圧ですね。条件にもよりますのが、低すぎても高すぎてもグリップが低下します。タイヤが減っているのは論外ですね」

雨の走行より、雨上がりのほうが罠にかかりやすい。日差しがでていても、地面は濡れていることが多い

雨の日走行後の手入れ

最後は走行後のメンテナンスを伺った。レインウエアにも普通の洋服と同じように洗濯表記が付いている。洗濯してよいものなのか?

「レインウエアは洗うと撥水効果がなくなってしまうので洗いません。タオルで拭いて陰干しておきます。臭いや排気ガスの汚れが気になる場合は、ファブリーズなどの除菌スプレーを使います。乾いたら撥水スプレーをかけると防水効果が長持ちします。よくやるのが、撥水スプレーを使ったアイロンがけですね。温度を中くらいにして、タオルを当ててアイロンをかけます。これで撥水効果が落ちたレインウエアもかなり復活しますよ」

「雨の後のメンテナンスで忘れていけないのはチェーンへの注油ですね。雨の中を走ったらチェーンオイルを給油するクセを付けたいですね。見落としやすいのがレバーのつけ根の部分。ホコリがたまりやすいので、軽く掃除してグリスアップするのがいいでしょう」

バイクのメンテナンスは仕事も趣味も関係ない。チェーンはバイクのアキレス腱ともいえる大切な部分なので、しっかりメンテナンスしなくては……、と連休後のメンテナンスをしていないことを思い出した。雨の日も走るバイクのプロフェッショナルの話は、雑誌を読むより実践的で共感できた。最後に川北さんが、「日本には四季というすばらしいものがあるのですから、ツーリングは雨の日だからと延期にするのではなく、雨の走行も楽しんでほしいですね」と話していたのがとても印象的だった。

取材協力:By-Q バイク急便
レポート:加藤真貴子(WINDY Co.)