【コラム】
年始早々の1月9日から10日にかけて、マフラー騒音の規制強化を各紙が一斉にニュースにしたのはご存じだろうか(朝日聞記事)。交換マフラーはバイク乗りにとって重要な問題。しかしそんな規制が公布されたという話は聞いていない。国土交通省に問い合わせたが、「検討はしているが決まったわけではない」との返事。どうにもよくわからない。
そこでマフラーを始めとした二輪用品メーカーの団体である「JMCA:全国二輪車用品連合会」に話を伺うことにした。JMCAは第三者機関の公的試験を受け、騒音規制や排出ガス測定値をクリアした製品に対して認定プレートを発行している団体である。
今回のニュースのきっかけになったのは、2006年12月27日に国交省から発表された「道路運送車両法施行規則等関係規則(自動車騒音関係)の一部改正に係るパブリックコメントの募集について」という長いタイトルのリリースだ。ちなみにパブリックコメントとは、行政が政策や計画等を立案するにあたり、住民の意見を募集することである。
今回のパブリックコメントにはこのように書かれている。「自動車の消音器(マフラー)を交換すること等により、大きな騒音や人が不快と感じる騒音をまき散らす自動車が後を絶たない状況にあり、大きな社会問題となっています。国土交通省では、これらの自動車による騒音問題改善のため、道路運送車両法施行規則等関係規則(自動車騒音関係)の一部改正を予定しています」。実際、うるさいバイクは非常に多く、静かになるのならそれにこしたことはない。
しかし気になるのはそこに添付されているPDFファイルの内容だ。簡単にまとめると以下のようになる。
これがどういうことかわかるだろうか。騒音規制には「近接排気騒音」「定常走行騒音」「加速走行騒音」の3種があるが、これは新車認定の場合であって、使用過程では「近接排気騒音」「定常走行騒音」のふたつをクリアしていればいいことになっている(※)。近接排気騒音は車両を止めた状態で検査できる方式で、交換マフラーもこれに基づいて作られている。それが新規制では3種ともクリアすることが求められているのだ。
交換マフラーに装置型式指定が必要になるというのも気になるところ。型式指定というのはバイクの型式と同じ意味で、それぞれのマフラーに国の認定が必要になる。もちろんマフラーだけでなく、バイクに組み込んだ状態での認定だ。そのためのコストは膨大になるはずだ。
※「定常走行騒音」は「近接排気騒音」の測定値から導き出せるため、使用過程時の音量については定置測定のみで可能
話を伺ったのはJMCAの事務局長を務める張ケ谷敏也氏。「最初に言っておきたいのは、うるさいマフラーを無くすことは我々JMCAの賛成するところだということです。そのために認定マフラーの制度も作ってきたわけですから」。
今回の規制はどのくらい厳しいものなのだろうか? 「現状の加速走行騒音値73dBというのは、ものすごく静かです。バイクはクルマと違ってエンジンがカプセルされていませんし、クリアランスが狂っただけでメカノイズが大きくなります。クリアするためにはチェーンやスプロケット調整はもちろん、新品タイヤも必要です。近接排気騒音はほとんど排気音ですが、加速走行騒音はロードノイズやメカノイズ、風切り音まで全部含めた数値。ですから二輪メーカーも認定用に新品パーツを使って整備した車両でギリギリ通しているのが実際です。これは本当に高いハードルなんです」。
ノーマルでも長く乗っていると車検に通らなくなるのだろうか? 「車検整備などをきっちりやったノーマル車両でもクリアできないことがあると思います。逆輸入車や外車はもっとたいへんでしょう。現行モデルだと新車でも通らないものが出てくると思いますよ。例の新聞記事を読むと交換マフラーだけが悪いようにも見えますが、実は外車や逆輸入車全部に関係してきます。仕様を変えないと通らないものも多いはずです」。
となると、中小企業であることの多いマフラーメーカーは新規制をクリアするような製品が製作できるのだろうか? 「マフラーメーカーが開発する場合、中古車を使っていることが多いですから、作ったばかりの新品マフラーでも通らないでしょう。第一、マフラーメーカーで走行騒音を測定できる設備を持っているところはありません。測定に必要なISO路面コースは国内で30カ所くらいありますが、ほとんどはクルマ・バイクやタイヤなどの大手メーカーの設備で、装置型式認定機関は埼玉県熊谷市にある「交通安全環境研究所」だけです。マフラーメーカーはテストをしたくてもできないのが現実です」。
新排気音規制が施行された場合、交換マフラーの市況はどうなるのだろうか? 「マフラーメーカーは開発したマフラーと車両のセットをもって、熊谷の交通安全環境研究所まで認証を取りに行くことになります。国内モデル用であれば車種ごとに装置型式認定を取りますが、非認証車(外車・逆輸入車など)は1台ずつ取らなくてはいけませんから、現実的に否認定車の量産マフラーはなくなります」。
1台ずつ熊谷まで持って行くのは無理ではないか? 「そのため今回はISO路面以外も一時的に認めていますが(出張認証)、ISO路面のほうが密度が高くて音が出にくい、つまりアスファルト路面だと余計に厳しい条件でテストをしなくてはならないわけです。自社でISO路面を作るにしても、熊谷に持ち込むにしても、まっとうにやればマフラー1本がものすごく高いものになってしまいます」。
そんな状態でマフラーメーカーはやっていけるのだろうか? 「基準をクリアする製品が作れないとなると、『無認可のマフラーを作ってしまえ』というメーカーが出てきくるかもしれません。それが一番怖い。数値が先行していることが我々が一懸念しているところなんです。でなければ、マフラー製作そのものを止めてしまうか……」。
車検でも音量測定をするようになるのだろうか? 「現在の車検設備では加速走行騒音は計測できませんから、目視でわかるように認証マフラーにはマークをつけようとしています。認証か公的試験機関の騒音測定成績書がなければ即違反というわけです。もちろんこれは新しい車両だけで、今乗られている車両には適応されません。ですから取り締まりの現場で古い車両と新しい車両を見分けるのに車検証を開いて車体番号をチェックすることになりますが、これも現実的でないでしょう」。
250cc以下にも車検制度が導入されるのだろうか? 「今回、軽二輪(250cc)以下に関して新型認証車両の交換マフラーを認めていません。というのも、軽二輪以下には装置型式認定という制度自体がありませんから。そこで暫定的ですが、軽二輪の新規認証車両についてはJMCAなどの法規適合証明があれば交換マフラーも認めてもらえるようです。しかし今後、軽二輪に車検が導入される可能性はあります。パブリックコメントでは車検制度の導入を含めて整合性を図ると謳われていますから」。
さて、もっとも重要なのは新しい規制で街が静かになるかどうかだ。「ならないでしょう。うるさいバイクは非合法のマフラーを付けています。暴走族と同じで、元々法律を守る気がないわけですから、いくら規制を厳しくしても意味がありません。現状の規制でも、ちゃんとそれを守って作られたマフラー、JCMA認定マフラーを含め、そういったマフラーならまず静かです。非合法のマフラーや、中には自分でマフラーに穴を開けることもあるようですから、そういった人を取り締らないと、二輪メーカーやマフラーメーカーがいくらがんばってもムダではないでしょうか」。
古いバイクの中にはうるさいものもあるが? 「今回の規制では販売済みの車両や生産終了車は対象外です。検討はしていますが、今回は見送られたということです。古い車両は自然に消えていくと見込んでいるようですが、バイクは10年20年と直しながら乗ることもできますから、新しい車両だけ規制するのはおかしな話だと思います」。
静かなマフラーは出てくるのだろうか? 「ハードルが高いことで業界全体をコントロールできなくなってしまう可能性があります。認定をあきらめて違法マフラーに走るような場合ですね。そうなるとユーザーも普段はうるさいマフラーで、車検のときだけノーマルに変えるようなスタイルになってしまう。まっとうなバイク乗りは『法に合ったマフラーが欲しい』と買いに来ます。そういう人たちに適価でマフラーが提供できなくなるのは恐いですよ」。
ではどうしたら街が静かになるのだろうか? 「現場での取り締まりを増やすのが一番でしょう。現行法であれば、ちょっと広い場所があれば近接騒音は計れます。実際に整備振興会の不法改造車撲滅月間で取り締まりをやったりしています。首都高のバーキングエリアにうるさい車両を入れて計るわけですが、それを日常的にやれば騒音はなくなっていくと思います。速度取り締まりと同じくらいの頻度でやればいいんですよ」。
規制を強化するとしたら、どういった方向がいいのだろうか? 「現実に取り締まりできる規制がいいのではないでしょうか。現実的には近接排気騒音の強化だと思います。例えば250ccの近接排気規制値は94dBですが、JMCA認定のビッグスクーター用マフラーは88dBを推奨しています。そういった方向ですね。もちろん加速走行騒音がうるさいならその規制値を守りましょうという働きかけは続けていきます。ただ、今回の規制は無理な数値だから何ともしがたいわけです。JMCAは今後も国土交通省と相談しながら、方策を検討していきたいと考えています」。
若い読者は知らないかもしれないが、その昔、クルマやバイクはがんじがらめに縛りつけられていた。バイクはカウルを付けることもできなかった。長距離走行が格段に快適になり、安全性も高くなるのに、だ。それが次第に緩和され、規制を守れば基本的に自由にパーツを変えられるようになった。基本的な権利として、実に正しい方向だった。しかし、法を守らない迷惑ユーザーがいるために、法が時代に逆行しようとしている。何とかしなければならないのではないか。
非認定マフラーの装着はやめる。隣近所の家にうるさいバイクがあるなら、苦情のひとつも言ってほしい。知人がうるさいマフラーを装着している、交換しようとしているなら、認定マフラーに変えさせてほしい。それだけでずいぶん状況は変わると思うのだが。
さて、最初の疑問に戻ろう。パブリックコメントが12月27日なのに、なぜ1月9日にマスコミが騒いだのか? あくまで想像だが、何かしらのリークがあったのではないだろうか。つまり新聞に載せることで世間の目を向かせ、もっと意見を集めたいということだ。パブリックコメント募集は過去に何度もあったが、だいたいは2週間程度。しかし今回はひと月以上も窓口を開いている。国も悩んでいるのかもしれない。であれば、心ある意見をひとつでも多く送ってほしいと思う。下のリンクをクリックすればパブリックコメントのページが開く。締め切りは1月31日だ。
西尾 淳・加藤真貴子(WINDY Co.)
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