連載コラム『サラリーマンが知っておきたいマネーテクニック』では、会社員が身につけておきたいマネーに関する知識やスキル・テクニック・ノウハウを、ファイナンシャルプランナーの中村宏氏が、独断も交えながらお伝えします。

投資信託に支払うコストとは?

投資信託を活用して資産運用をすると、コストがかかります。なぜなら、投資信託には販売会社や運用会社、信託銀行(資産を管理する会社)など、様々な会社が関係し、それぞれが必要な役割を担っており、投資家はこれらの会社に手数料を払う必要があるからです。

コストの種類は、購入時手数料、信託報酬、信託財産留保額の3種類。

購入時手数料は、投資信託を販売する金融機関、つまり私たちの窓口になる証券会社や銀行等が全額を受け取ります。投資家は投資信託を購入するときにまとめて手数料を支払います。なお、購入時手数料のかからない投資信託を「ノーロード」と言います。

信託報酬は、運用や管理に関わる手数料のことで、投資信託を保有している間、ずっとかります。投資家が払う信託報酬は、販売会社、運用会社、信託銀行等が分け合って受け取ります。信託報酬はすべての投資信託にかかり、かからない投資信託はありません。

信託財産留保額は、売買時にかかる一時費用で、投資家間の公平性を図るために投資家から徴収されます。金融機関などが受け取るものではなく、運用されている信託財産に組み入れられます。なお、信託財産留保額は、投資信託によってかかるものとかからないものがあります。

日本で販売されている公募投資信託の情報提供をしているモーニングスター社のサイトを使って、購入時手数料と信託財産留保額が無料で、信託報酬の低い投資信託をピックアップしてみました。これらは、超格安コストの投資信託です。

超格安コストの投資信託例

金融機関は、これらを顧客に売っても手数料収入が見込めないため、積極的には薦めません。取り扱っている金融機関もネット証券などごく一部の金融機関にとどまります。

信託報酬は年率で表示されるが、保有期間中に日割りで差し引かれる

信託報酬は年率で表示されますが、実際の費用は投資家の保有資産から日割りで毎日少しずつ差し引かれます。

例えば、信託報酬が税込み1.0%の投資信託を保有しており、ある日の保有資産額が100万円の場合、100万円×1.0%/365日で計算される金額が、その日の信託報酬として差し引かれます。翌日にこの投資信託が110万円に増えた場合、翌日の差し引かれる信託報酬の額は、110万円×1%/365日で計算される金額です。

なお、投資信託の価格である「基準価額」は、信託報酬が差し引かれた後の価額です。

同じ収益の場合、信託報酬が低い方が投資家のリターンは高い

わかりやすく単純化していうと、信託報酬が税込みで1.0%の投資信託を1年間保有し、運用会社が1年間で1.0%の収益を上げても、投資家のリターンは0%です。なぜなら、1年間の収益1%分は信託報酬として金融機関等が投資家の資産から差し引くからです。

信託報酬が0.5%の投資信託で、その他の条件が同じ場合(1年間で運用会社が1.0%の収益を上げた場合)、投資家のリターンは0.5%になります。つまり、運用会社の運用力が同じであれば、信託報酬水準が低いほど投資家のリターンは高くなります。

信託報酬は、運用成果が良くても悪くても、投資家の保有資産から一定の割合で差し引かれるため、信託報酬の水準が高いと、投資家の運用効率は悪くなります。投資信託の中には、高い信託報酬を設定しているかわりに、それを大きく上回るリターンを安定的に確保する優良なものがありますが、数は限られています。投資信託を選ぶときには極力、コストの低いものを選ぶようにしましょう。

なお、上記の表で示した低コスト投資信託の中には、設定後まだ日が浅く、純資産額(投資家から預かって運用している資金)が少ないものもたくさんありますが、将来的には、低コストの魅力を理解する投資家から人気を集めるのではないでしょうか。

逆に今後淘汰されるのは、信託報酬が高い割に運用実績が上がらない投資信託でしょう。

投資家は運用の経験を積むに従って投資信託での運用を学習し、知識を獲得します。自分にとって有利な商品が何かを、金融機関の力を借りず自分で判断できるようになっていくでしょう。

これからは、政府や会社のあと押しもあって、自助努力で財産形成をする目的で資産運用を始める人が増えることが予想されます。自分に合った投資信託を自らの判断で適切に選択できるよう、若い頃から少額からでも運用の経験を積んでおきたいものです。

執筆者プロフィール : 中村宏(なかむら ひろし)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。ベネッセコーポレーションを経て、2003年にFPとして独立し、FPオフィス ワーク・ワークスを設立。

「お客様の『お金の心配』を自信と希望にかえる!」をモットーに、顧客の立場に立った個人相談やコンサルティングを多数行っているほか、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿などで生活のお金に関する情報や知識、ノウハウを発信。新著:『老後に破産する人、しない人』(KADOKAWA中経出版)

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