連載コラム『サラリーマンが知っておきたいマネーテクニック』では、会社員が身につけておきたいマネーに関する知識やスキル・テクニック・ノウハウを、ファイナンシャルプランナーの中村宏氏が、独断も交えながらお伝えします。

2018年から始まる「積立型NISA」制度は、若者向けの仕組み

少子高齢化などの影響で、将来の老後の公的年金の受給水準は、現在の高齢者よりも低くなると言われています。そんな中、個人の自助努力の財産形成をサポートする制度が国によって推し進められています。昨年まで加入できなかった専業主婦や公務員などに今年から門戸が開かれた「iDeCo(個人型確定拠出年金)」もそのひとつ。そして、2018年からスタートする予定の「積立型NISA」も、自助努力の財産形成をサポートする制度です。

国の本音は、「老後の生活資金を、これまでのように国の年金ばかりに頼ってもらっては困ります。国だって、ない袖は振れないのです。これからは自分自身でもちゃんと老後の準備をしてください。その代わりに、有利な仕組みを作りましたので活用してください」ということなのでしょう。

NISA(少額投資非課税制度)は、2014年にスタートしました。1年間で120万円までの投資資金による収益(儲け)が5年間非課税になる投資優遇制度です。金融機関による積極的な広告宣伝の影響もあり、開設されたNISA口座数は2016年6月末時点で約1,030万口座にも及んでいます。

しかし、この中でこれまで一度でもこの口座を使って投資をした人は50%にも達していません。実に半分超は口座だけ作って何もしない休眠口座になっているのです。また、全口座数に占める年代別比率は、下の表に示す通り、中高年層が高く、20歳代~30歳代が低い偏った状況になっています。これは、年代による投資資金の多寡や投資経験などが影響していると思われます。

NISA口座の開設・利用状況(金融庁)

このようなNISAの現在の課題を解決し、若い人たちにも活用しやすくするために、「積立型NISA」が2018年からスタートすることになりました。なお、この制度のスタートは、現時点で正式に決定している訳ではありません。今年1月に開かれる通常国会の審議、議決を経て、3月くらいまでに正式決定する見込みです。

「分散投資」「長期投資」「タイミング分散」がしやすくなる

資産運用で安定した収益を得る確率を高める有効な方法は、「分散投資」「長期投資」「タイミング分散」の3つのコツを組み合わせて運用することです。これは資産運用の鉄則とも言われています。しかし、これらをしっかり実践できている方はあまりいないのではないでしょうか。その背景には、多くの方にとって過去に資産運用を学習する機会がなかったことや、短期売買を推奨するような金融機関の販売姿勢の影響などがあるでしょう。

現在のNISAでも、工夫すればこれら3つのコツを実践できないことはありません。しかし、自由度が高いだけに「集中投資」「短期投資」「一括投資」になりがちです。そうなると投機的取引の傾向が強まり、安定した収益が上げにくくなります。

「分散投資」について言うと、現在のNISAで購入できる投資商品は、個別株式1銘柄だけでも購入でき、また、ひとつの資産だけを組み入れた投資信託を購入することもできるようになっています。「長期投資」については、現在のNISAの5年間の非課税期間では、10年以上の長期投資をしようという気持ちにはなれません。儲かったら5年以内に一旦売却、解約をしようという気持ちになります。「タイミング分散」については、現在のNISAは、1年間の投資限度額120万円をまとめて一括投資をすることができるようになっています。

一方、2018年にスタートする予定の「積立型NISA」では、「分散投資」「長期投資」「タイミング分散」をせざるを得ない形態に近づきそうです。購入できる金融商品は、複数の銘柄や複数資産に分散投資され、なおかつ長期運用に適した投資信託に限定されたり、非課税期間は20年に延長されて長期運用が可能になったり、まとまった金額での一括投資ができず、定期的に少額ずつ積立投資をすることしかできなくなりそうです。

1年間の投資上限額は40万円、現在のNISAとは併用できない!

「積立型NISA」は、非課税期間が20年に延長される代わりに、非課税になる1年間の投資上限額は40万円に減額されます。上限額いっぱいまで毎月積み立てる場合には、月約3.4万円を積み立てながら投資信託などを購入して運用することになります。

なお、「積立型NISA」がスタートしても、現在のNISAの仕組み(非課税期間:5年間、1年間の投資上限額:120万円)は継続します。ただし、2つの制度を併用することはできません。いずれかを選択しなければなりません。制度の特徴に合わせると、若年層は「積立型NISA」を選び、中高年層は従来のNISAを選択する傾向が強まりそうです。

1年後にスタートする予定の制度ですが、20歳代、30歳代の方々には、「積立型NISA」の活用をおすすめします。

執筆者プロフィール : 中村宏(なかむら ひろし)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。ベネッセコーポレーションを経て、2003年にFPとして独立し、FPオフィス ワーク・ワークスを設立。

「お客様の『お金の心配』を自信と希望にかえる!」をモットーに、顧客の立場に立った個人相談やコンサルティングを多数行っているほか、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿などで生活のお金に関する情報や知識、ノウハウを発信。新著:『老後に破産する人、しない人』(KADOKAWA中経出版)

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