今回は、インターネットTVの今後について考えてみたいと思います。昨年末に当研究所で実施した調査によると、調査対象世帯のうち2010年中にテレビを新たに購入した人は全体の44.3%でした。エコポイントやアナログ時放送終了キャンペーンなどの後押しもあって、不景気と言われていた中でも空前の買い替えブームです。同調査では、2010年末のTV商戦における人気ブランドは、シャープ「AQUOS(32.4%)」、東芝「REGZA(27.8%)」、パナソニック「VIERA(18.1%)」、ソニー「BRAVIA(16.5%)」など、そうそうたるブランドが上位を占めているわけですが、果たして購入した消費者は何をポイントにテレビを選んでいるのでしょうか?

高機能化する薄型テレビ

3D映像、HDダブル録画、インターネット接続機能など、これまでのテレビの基本的な受像機としての機能を超える付加価値競争が進むテレビ商戦の中で、果たして消費者はどこまでこれについていけているでしょうか?

今回の調査では、大枠として、価格・画質・付加機能・デザイン・VOD(ビデオ・オン・デマンド)機能の5つに絞り、購入の際に決め手になったポイントを調べてみました。

結果は以下の通りです。

薄型テレビ購入時に重視した機能 (MMD研究所調べ)

「値頃感」と「画質」で選んだという回答が圧倒的に多く、付加機能が決め手となったと回答した購買者は33.8%でした。

中でも筆者が最も注目していた選択肢「TV以外のコンテンツ(インターネットサービス、VODサービスなど)が付いているから」という回答はわずか6.1%という結果になりました。

スマートフォンやポータブルゲーム機など、パソコン以外にもWi-Fi機能を持ったデバイスが増えるにつれ、家庭のホームネットワーク化が進んでいると言われていますが、「アクトビラ」「ひかりTV」「T'sTV」などサービスインが相次ぐインターネット経由のTV VODサービスに対して、果たしてどの程度の注目が集まっているのでしょうか?

TV VODサービス利用経験者の満足度、わずか23.8%

今回の調査において、TV VODサービスの利用経験者は全体のわずか14.3%、また利用経験者の満足度を見ても、満足と回答した利用者がわずか23.8%という結果がすべてを表している通り、まだまだTV VODサービスに残されている課題は多いと言わざるを得ません。

TV VODサービスに関する満足度調査の結果 (MMD研究所調べ)

理由として、「操作しやすい」と回答している人が全体の28.7%に過ぎないことなどから推察すると、まずTV VODサービスの操作性の悪さに要因の一端があることが伺えます。

基本的にはボタンの数に限りがあるリモコンで操作するため、「見たい作品を見つけるまでに時間がかかる(74.2%)」「画面のメニューや選択肢などが見づらい・分かりにくい(62.1%)」という不満点が圧倒的に多くなる傾向にあります。

利用者のTV VODサービスに対する不満要素 (MMD研究所調べ)

また視聴タイトルについても、量だけでなく質が重要という回答が8割近くに上っており、具体的には「新作の積極的導入(44.1%)」などの回答も見られました。

自宅にいながら映像タイトルをレンタル(または購入)できる利便性が強調されているTV VODサービスですが、TSUTAYAに代表されるビデオ・DVDレンタルショップに新作が並ぶタイミング、あるいはそのタイトル数と比較して不満を感じている利用者がまだまだ多いのが現状です。

TV VODサービスを「利用していない」と回答した対象者にその理由を調査したところ、「TVとインターネットを繋ぐのが面倒(24.6%)」「申し込みまでの作業が面倒(24.2%)」といった声に次いで、「そういうサービスがあること自体を知らなかった」という回答も23.4%に上りました。

TV VODの視聴には、対応するテレビを購入することのほかに、自宅のインターネット接続環境が整っていることと、各サービスへの加入手続きが必要になります。

現在のTV VODには、これらの"障壁"を越えてでも利用したくなるほどの魅力がない、もしくは魅力自体がまだ消費者に十分に浸透していないことが伺える結果となっています。

普及のカギは「コンテンツの充実」「操作性の向上」そして……「認知」

パソコン、スマートフォン、タブレット端末とTVを連動させて利用するハブ(Apple TV)のような端末も登場し、提供サービス面ではオンラインコマースの新しいデバイスとしても業界の注目が高まっているインターネットTVですが、爆発的な普及の前にまだまだクリアすべき課題は山積していると言わざるを得ません。

YouTubeの動画をテレビの大画面で視聴したり、Skypeをテレビで利用したり、クックパッドのレシピをテレビで見ながら料理をしたり、サッカー中継を見ながらテレビの画面でTwitterを楽しんだり……サービス提供側がイメージする近未来のホームネットワークのイメージを消費者がどこまで理解できているか、またどのくらい期待しているのか、当研究所ではこの2月に再度掘り下げた調査を予定していますので、その結果については本稿でも紹介したいと思います。

もし、こんな項目を調査してほしいというご要望があれば、Facebookの当研究所ファンページで受け付けていますので、お気軽に声をかけてください。

今回引用した調査データは当研究所のWebサイトで公開しています。

2010年テレビ商戦、及びTV VODサービスに関する実態調査 - MMD研究所

<本稿執筆担当: 田川悟郎>

著者紹介

MMD研究所

MMD研究所(モバイル・マーケティング・データ研究所)は、モバイルユーザーマーケットのリアルな動向を調査・分析し、社会へ提供することを目的として2006年9月に設立されたマーケティングリサーチ機関(運営は株式会社アップデイト)。本コラムでは、同研究所による調査データをもとに、ヒットにつながる効果的なマーケティング手法について考察していきます。