【コラム】

円の行方、ドルの行方

92 ブレグジットから1年

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昨年6月23日に、イギリスは欧州連合(EU)から離脱するか国民投票を実施。その結果、僅差でEU離脱への投票がEU残留への投票を上回り、正にブレグジット(英国がEUから脱退する)こととなりました。

これによりポンド/ドルは1.4600付近から、10月には一時1.1905近辺まで約2700ポイント急落しました。

その後もイギリスに不利な話が出ればポンド売りが再開しましたが、下がるに下がらなくなり、チャートのフォーメーションで言えば、底値圏形成を示すラウンディング・ボトム(鍋底)を形成してきています。

今年の6月8日には総選挙もあり、保守党が過半数割れとなりながらも対ドル対円では下げは限られています。そしてほぼ1年後の6月19日にイギリスとEUとの離脱交渉が始まります。

ポンド/ドル 週足

ポンド/円 週足

しかし、個人的には皆が繰り返している「ポンド暴落説」は、可能性として低いのではないかと見ています。むしろ既にこの1年間で発生した約2700ポイントの暴落で、下げを織り込んでしまったのではないかと推測されます。

イギリス人が好む「栄光の孤立」

実は仕事の関係で、以前4年間ほどロンドンにいたことがあります。当時から良くイギリス人が好んでいたのは、「栄光の孤立」だということでした。あえて孤高を保ちたがっている面があり、今回のブレグジットもその一貫ではないかと思います。

この「栄光の孤立」の良い例が、EUに属しながらも通貨はポンドをユーロに換える気など全くなかったことだと思います。

こんなことがありました。当時イギリスの銀行にいたのですが、ちょうど、ユーロに統合するときでした。

イギリスはユーロに統合する気などないどころか、銀行のコンピュータのシステムにユーロとポンドをインプットするにしても、その後の常識となるユーロ/ポンドの(1ユーロ=何ポンド)ではなく、ポンド/ユーロ(1ポンド=何ユーロ)でユーロの統合を迎えようとしていたほどです。

それが最終的にユーロ/ポンドになったのも、今回はヨーロッパ大陸の各国がユーロ統合に並々ならぬ決意を持っているので、合わせてやるかということになったようです。

イギリスは何しろへそ曲がりの国です。ヨーロッパの大方が左ハンドルにも関わらずイギリスは右ハンドルですし、実はポンド自体も通常「スターリング・ポンド」と言いますが、イギリスでは「ポンド・スターリング」と呼んでいます。

そういう連中が、ブレグジットのときに賛成がマイナーだったことで、逆に賛成票をいれたのではないかと思います。ですからいろいろ文句は出ても、へそ曲がりにとっては、望ましい結果だったのではないかと思います。ということで自分たちがまいた種ですから、簡単にはへこたれないと思います。

また過去に北米、オセアニア、アジア、中東、アフリカなどに多くの植民地を持ち、そして今でもこれらの国々と政治的経済的なつながりが深いだけに、逆に言えばEUを離脱したところでやっていけるのだと思われます。こんな例があります。バッキンガム宮殿からカナダ大使館までの距離は、1~2キロぐらいのものです。それだけイギリスにとってカナダは近しい国である表れだと思います。

フィナンシャル・タイムズという経済紙がありますが、為替のコメント欄を読むと面食らいます。なぜならケニヤ・ポンドがいくらで、インディアン・ルピーがいくら、アフガニスタン・アフガニがいくらとか、各通貨にマーケットコメントがついて書かれているからです。それだけでもイギリスの交易範囲は大きいことがわかります。つまり、多少のことでは動じない国だと思います。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら

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インデックス

連載目次
第109回 相場の構造変化のときか?
第108回 マーケットセンターによって気質に変化
第107回 自分を鍛える
第106回 相場の四季を忘れずに
第105回 工夫と努力
第104回 変形ダブルトップ
第103回 作られた情報
第102回 ドル/円、2005年
第101回 相場は、これ一回限りではない
第100回 相場見通し - 掲載100回記念
第99回 情報を推理する
第98回 個別に違う通貨ペアの動きに警戒
第97回 ドル/円の悪循環
第96回 8月相場を控えて
第95回 トレンド相場発生のメカニズム
第94回 エネルギッシュな中国
第93回 温故知新、LTCM
第92回 ブレグジットから1年
第91回 マーケット情報とのつき合い方
第90回 スピード感に温度差
第89回 素直さがなくなった米雇用統計後の相場
第88回 ユーロ/ドルはフローで動く
第87回 フランス
第86回 欧米投資家の動きに注視
第85回 投機をなす者、楽悲を戒む
第84回 トレーダーにとってのファンダメンタルズ分析
第83回 その通貨を扱うなら、その国へ行ってみる
第82回 考察、ドル/円相場
第81回 自分を信じること
第80回 気をつけよう、4月相場
第79回 急騰・急落のメカニズム
第78回 右ならえ運用の顛末は?
第77回 銀行ディーラーと個人投資家
第76回 予想以上に密接な関係 - 決算と為替
第75回 ドル/円、レンジからトレンド移行の可能性は?
第74回 休むも相場
第73回 過去の為替政策に学ぶ - プラザ合意
第72回 相場に連れを作らず
第71回 結構、難しいか? 今年のドル/円相場
第70回 ステレオ・タイプ
第69回 日本はオーバー・ポピュレーション?
第68回 2016年の総括
第67回 予想以上のドル高円安の可能性は?
第66回 「誰が売った、買った」だけでは、生き残れませんよ
第65回 安定から動乱の時代へ
第64回 ドル/円の急上昇を支える5日移動平均線
第63回 為替市場で無視できない、本邦個人投資家層
第62回 トランプ氏当選後、「投機筋」対「本邦輸出企業」のバトル
第61回 ヘッド・アンド・ショルダー
第60回 いなくなった、縁の下の力持ち - ドル/円相場
第59回 チャートパターンの落とし穴
第58回 FXトレードは、世界が相手
第57回 天国と地獄
第56回 相場の鮮度に応じたトレーディング・スタイルを取る
第55回 米系ファンドの45日ルール
第54回 ケーブル、一日天下
第53回 理由が後からついてくる
第52回 今年これまでのドル/円と今後
第51回 ひらめきが現実になるには
第50回 メダルと国力
第49回 貿易収支に大きく影響を受けるドル/円
第48回 意外に相場に影響がある夏休み要因
第47回 トレンド相場とレンジ相場
第46回 ユーロ圏を悩ますISとの宗教戦争
第45回 相場の転換に早く気づくには?
第44回 荒波に出航するイギリス
第43回 人の行く裏に道あり花の山、ジョージ・ソロス氏に思う
第42回 通貨当局は、マーケット心理を把握しているか
第41回 英国民投票とドル/円の行方
第40回 意外に知らない、相場エントリーの真実
第39回 理由が後からついてくる - ユーロ/円、大幅下落の可能性
第38回 失敗か? アベノミクス - 注視する米系ファンド
第37回 相場の基本を知って、収益チャンスを拡大! トレンド相場とレンジ相場
第36回 ある噂
第35回 ユーロ/円からドル/円、ユーロ/ドルの将来を占う
第34回 米財務省と日本の財務省との軋轢は回避できるのか?
第33回 マイナス金利適用拡大報道の為替マーケットへの影響は?
第32回 円安頼みの日本経済は、耐えられるのか?
第31回 ドル/円、為替介入の可能性は?
第30回 「リスクの早期発見、早期回避」が身を助く
第29回 BOE vs ジョージ・ソロス氏の教訓
第28回 ヘレンとナディア
第27回 ユーロ/ドルの見方変更、ユーロ反転の可能性は?
第26回 ユーロ/ドル、防戦買いを突破して下落するか
第25回 今のドル/円の相場のリズムは、グンチャッチャ、グンチャッチャ
第24回 気になるユーロ/円、二極の異なる状況が重なって大幅安か
第23回 介入は怖いばかりではなく、良い話もある
第22回 米系ファンドは、ドル/円にロックオンか?
第21回 検証、ドル/円1月相場 - 歴史は繰り返す
第20回 ユーロ/ドル、下落再開か!?--"EUの弱体化"も影響
第19回 原油安で貿易黒字なら恒常的なドル売り発生--円安から円高に相場観が大転換
第18回 ドル/円が急落、どこまで下がるか--「人智では推し量れぬもの」
第17回 英国が「EU離脱」の可能性も--今年はポンド安の年になる?
第16回 クリスマスが明け、欧米勢は新年度入り--日本人の"正月気分"が狙われる可能性!
第15回 機関投資家は、円高に耐えられるのか!?--ドル/円、100円割れの可能性も
第14回 原油価格下落が再開、日本の貿易収支とドル/円への影響は?
第13回 ユーロの悲劇--なぜ急騰し、そして高止まりしたか!?
第12回 ユーロ/円、潜在的な大相場の可能性--110円近辺まで下落か!?
第11回 ユーロ/ドル、超長期からのアプローチ--9.11テロ、リーマン、ドラギ緩和
第10回 フランス同時テロが、FXマーケットに与える影響は?
第9回 ドル/円、どこまで上がるか!?--日本の貿易赤字の変化に注目
第8回 ユーロ/ドルには十分な警戒が必要--ドイツがおかしくなったら大混乱!?
第7回 ECBドラギ総裁は"先手必勝"の追加緩和--FRBイエレン議長には"市場の洗礼"!?
第6回 無視できない、欧米の"決算絡み"の相場の動き--今後はどうなる!?
第5回 トルコ史上最悪のテロ事件が発生、トルコリラはどうなる!?
第4回 ドル/円とユーロ/ドルの膠着相場、近い将来相場が動き出す前兆を示唆
第3回 フォルクスワーゲン不正問題に思う--ドイツから米国へ富の移し替え!?
第2回 ユーロ/ドルが動くわけ、動かないわけ
第1回 ドル/円、本格的に円高に転換か?

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