今週の金曜日にも発表される米雇用統計は、ここ20年余り、ずっとマーケット全体で最注目の経済指標でした。それが、ここのところ、様子が違ってきています。最近の米雇用統計にリアルタイムで参加しているのは以前と変わらず投機筋ばかりで、以前のような投資家の存在が皆無になってきているということです。

素直さがなくなった米雇用統計後の相場(画像はイメージ)

投機筋ばかりがマーケットに残ると何が起きるのか

投資家が参加すれば長期的な視野から相場を見ますが、投機筋ばかりですと短期の売買に集中するためトレンドは出にくく、むしろ短期の「往って来い」の相場になりがちです。

投資家はひとつの指標結果で結論を出すのではなく、複数の指標をしかも時系列的に見ることで方針を決めており、つまりは慎重度合いが高いといえます。

そうなるとマーケットに残るのは投機筋ばかりとなりました。そうすると何が起こるかと言えば、それは投機筋の宿命が顕著になります。

投機筋の宿命とは、投機筋は売ったら利食いか損切りにためにいずれ必ず買わなくてはならないということです。これは逆も同じことで、投機筋は買ったら利食いと損切りのためにいずれ必ず売らなくてはなりません。こうした宿命がある以上、そう長くはポジションをもちきることはできません。

ですから相場がトレンド性のある相場になるためには、長くポジションを持つ投資家や売ったら終わりの輸出企業、買ったら終わりの輸入企業などの存在が欠かせません。

ところが最近の米雇用統計の発表に当たっては、こうした資本筋や実需は様子を見ているだけで参加する雰囲気がなく、参加しているのは投機筋ばかりです。これは現在のアメリカが完全雇用となっているため、雇用自体の指標の重要度が下がっているとも言えます。

そして投資家が過去にもまして、よほど結論の最終段階でもなければひとつの指標で投資方針を決めることがまれになったものと思われます。

いずれにしましても、こうしたわけで雇用統計の発表に注目しているのは投機筋ばかりとなり、相場が荒くなっています。

また「荒い」といっても、さっき申し上げましたように投機筋の宿命があるため、その月の第一金曜に発表になる米雇用統計は、取りあえず結果に順張り方向に進もうとはします。しかしそれが思うように進まなければ、今度は逆方向を試しもう本来の雇用統計が示唆している方向性など無視してしまいます。

そしてニューヨーク・クローズに向けて、指標統計通りが通りでなくても一方向に向けて進み、高値引け、安値引けで終わり安いと言えます。

これは単なるトレーダーの維持でしかなく、翌月曜になってもさらに意図した方向に進んでいなければ早速投げてくるものだと見てよいと思います。

要は米雇用統計も注目されて20年以上もたち、完全に金属疲労(材料がもろくなって、やがては破壊される)となっているのではないかと思います。こうなると、かわるべき注目指標が別に必要になると思います。

米雇用統計に代わる指標とは

私は、代替するのは、米貿易収支ではないかと見ています。

なぜなら今、トランプ大統領が通商問題に関心があり、特にアメリカから見た貿易赤字国である、中国、日本、ドイツ、メキシコに圧力を加えているからです。

貿易収支の件は今回のイタリアのシチリア島で行われたG7サミットでも話題に上り、やはりアメリカの並々ならぬ姿勢がうかがい知れました。従いまして、今後米貿易収支については発表内容などをチェックしておくべきだと思います。

ただし米雇用統計を投機筋が専有しているように、貿易収支もまた投機筋のものになるのも時間の問題だろうと考えられます。ということで、投資家が経済指標発表に参加して実際に売り買いをしない限りは、結局は投機筋中心の指標発表とその後の展開は変わらないものと思われます。

※画像は本文とは関係ありません。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら