【コラム】

円の行方、ドルの行方

78 右ならえ運用の顛末は?

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地方銀行(地銀)はここ数年、国内での運用難から外債運用に大幅に舵を切っていました。しかし、ここにきて米国の金利の上昇を受けて、保有している外国債券に大幅な含み損が発生しているとのことで、金融庁が地銀に特別検査に入ると報じられています。

もちろん、この問題は地銀に限ったことではなく、国民年金・厚生年金の運用を携わるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)を始め、生保、メガバンク等、国内機関投資家すべてに関わってくる問題だと見ています。

そもそも何がどうしたことで今回のことが起きたかですが、話は20数年前にさかのぼります。

右ならえ運用の顛末は?(画像はイメージ)

このような問題が起きた理由とは?

日本のバブルの崩壊前、日本では当時「ザ・セイホ」と呼ばれて、内外にその名をとどろかせた生保業界を中心に積極的に外債購入が行われました。

しかしバブル崩壊後、外債運用で多大な損失を被った本邦機関投資家は、一変してリスクを嫌うようになり、ほとんどの運用を日本国債にシフトさせました。

それから約20年間、ただひたすらリスクを避けるために、日本国債での運用が続けてきました。こうして日本の機関投資家のほとんどが日本国債に右ならえした結果、当たり前のことですが、今度は日本国債で利回りが出なくなりました。

そこで今から4年ほど前に、GPIFが米国債を中心とする外債運用に積極的になったことを受け、またしても業界全体が右ならえして外債投資に積極的になりました。この外債運用の中には、人口減少や地域経済の後退から貸し出し難となり、新しい運用先としてやむなく外債に活路を見いだそうとした一部地銀のようなケースもありました。

たまたま本邦機関投資が外債購入に走った2013年~2015年当時は、円安気味だったこともあり、為替リスクはオープンで(外貨売りのヘッジを掛けない)で始めたもようです。その後、GPIFのように、引き続き為替ヘッジを掛けない方針のところもあったかわりに、為替ヘッジを掛けるところも出たように、投資家によりいろいろでした。

しかし、昨年末の米大統領選挙でトランプ氏が当選して以来、米国債の価格は急落し(利回りは急上昇)し、地銀はじめ本邦機関投資家が損失を抱え込んだことは、本文の最初で申し上げた通りです。

日本の機関投資家の右ならえ体質が20数年間変わることなく続いていたものと思われます。その上、20数年ぶりの外債投資だけに経験者はおらず、手探り状態だと見ています。

外債投資に絡む為替取引は相場にどのような影響を与えるのか

さて、この外債投資に絡む為替取引が為替相場にどのような影響を及ぼすか考えてみました。基本的には、外債を損切って円に回帰するときが来るものと見ました。

ケースはふたつあると思われます。ひとつはGPIFのような為替のリスクヘッジは掛けない方針のところです。もうひとつはドル売りをすることによって、為替ヘッジを掛けているところです。

なお、いずれも外債投資は円投(外貨買い円売り)で行われたと約4年前後前には言われていましたので、それを前提にお話しします。

まず、ひとつ目の為替ヘッジなしの場合ですが、これは外債を売って円に戻すということになれば、マーケットではドル売り円買いが強まるものと思われます。

もうひとつの為替ヘッジが掛けられている場合、外債購入(ドルロング)後ヘッジのドル売りをするわけですから、ポジション的にはスクエア(ポジションなし)の状況になっています。ここで外債から撤退するとなると、外債を売って得たドルを売って円に換えなくてはなりません。

つまり、ヘッジなしでも、ヘッジありでも、国内に円で回帰するためにはドル売りが必要で、またこれも右ならえになるならば、大変な量のドル売り円買い圧力が発生することになるのではないかと危惧しています。

ただし、ヘッジなしとヘッジありの違いは、ヘッジなしはその時点でのドル/円レートにより為替差損益が発生しますが、ヘッジありは為替差損を基本的に回避できます。

※画像は本文とは関係ありません。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら

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インデックス

連載目次
第109回 相場の構造変化のときか?
第108回 マーケットセンターによって気質に変化
第107回 自分を鍛える
第106回 相場の四季を忘れずに
第105回 工夫と努力
第104回 変形ダブルトップ
第103回 作られた情報
第102回 ドル/円、2005年
第101回 相場は、これ一回限りではない
第100回 相場見通し - 掲載100回記念
第99回 情報を推理する
第98回 個別に違う通貨ペアの動きに警戒
第97回 ドル/円の悪循環
第96回 8月相場を控えて
第95回 トレンド相場発生のメカニズム
第94回 エネルギッシュな中国
第93回 温故知新、LTCM
第92回 ブレグジットから1年
第91回 マーケット情報とのつき合い方
第90回 スピード感に温度差
第89回 素直さがなくなった米雇用統計後の相場
第88回 ユーロ/ドルはフローで動く
第87回 フランス
第86回 欧米投資家の動きに注視
第85回 投機をなす者、楽悲を戒む
第84回 トレーダーにとってのファンダメンタルズ分析
第83回 その通貨を扱うなら、その国へ行ってみる
第82回 考察、ドル/円相場
第81回 自分を信じること
第80回 気をつけよう、4月相場
第79回 急騰・急落のメカニズム
第78回 右ならえ運用の顛末は?
第77回 銀行ディーラーと個人投資家
第76回 予想以上に密接な関係 - 決算と為替
第75回 ドル/円、レンジからトレンド移行の可能性は?
第74回 休むも相場
第73回 過去の為替政策に学ぶ - プラザ合意
第72回 相場に連れを作らず
第71回 結構、難しいか? 今年のドル/円相場
第70回 ステレオ・タイプ
第69回 日本はオーバー・ポピュレーション?
第68回 2016年の総括
第67回 予想以上のドル高円安の可能性は?
第66回 「誰が売った、買った」だけでは、生き残れませんよ
第65回 安定から動乱の時代へ
第64回 ドル/円の急上昇を支える5日移動平均線
第63回 為替市場で無視できない、本邦個人投資家層
第62回 トランプ氏当選後、「投機筋」対「本邦輸出企業」のバトル
第61回 ヘッド・アンド・ショルダー
第60回 いなくなった、縁の下の力持ち - ドル/円相場
第59回 チャートパターンの落とし穴
第58回 FXトレードは、世界が相手
第57回 天国と地獄
第56回 相場の鮮度に応じたトレーディング・スタイルを取る
第55回 米系ファンドの45日ルール
第54回 ケーブル、一日天下
第53回 理由が後からついてくる
第52回 今年これまでのドル/円と今後
第51回 ひらめきが現実になるには
第50回 メダルと国力
第49回 貿易収支に大きく影響を受けるドル/円
第48回 意外に相場に影響がある夏休み要因
第47回 トレンド相場とレンジ相場
第46回 ユーロ圏を悩ますISとの宗教戦争
第45回 相場の転換に早く気づくには?
第44回 荒波に出航するイギリス
第43回 人の行く裏に道あり花の山、ジョージ・ソロス氏に思う
第42回 通貨当局は、マーケット心理を把握しているか
第41回 英国民投票とドル/円の行方
第40回 意外に知らない、相場エントリーの真実
第39回 理由が後からついてくる - ユーロ/円、大幅下落の可能性
第38回 失敗か? アベノミクス - 注視する米系ファンド
第37回 相場の基本を知って、収益チャンスを拡大! トレンド相場とレンジ相場
第36回 ある噂
第35回 ユーロ/円からドル/円、ユーロ/ドルの将来を占う
第34回 米財務省と日本の財務省との軋轢は回避できるのか?
第33回 マイナス金利適用拡大報道の為替マーケットへの影響は?
第32回 円安頼みの日本経済は、耐えられるのか?
第31回 ドル/円、為替介入の可能性は?
第30回 「リスクの早期発見、早期回避」が身を助く
第29回 BOE vs ジョージ・ソロス氏の教訓
第28回 ヘレンとナディア
第27回 ユーロ/ドルの見方変更、ユーロ反転の可能性は?
第26回 ユーロ/ドル、防戦買いを突破して下落するか
第25回 今のドル/円の相場のリズムは、グンチャッチャ、グンチャッチャ
第24回 気になるユーロ/円、二極の異なる状況が重なって大幅安か
第23回 介入は怖いばかりではなく、良い話もある
第22回 米系ファンドは、ドル/円にロックオンか?
第21回 検証、ドル/円1月相場 - 歴史は繰り返す
第20回 ユーロ/ドル、下落再開か!?--"EUの弱体化"も影響
第19回 原油安で貿易黒字なら恒常的なドル売り発生--円安から円高に相場観が大転換
第18回 ドル/円が急落、どこまで下がるか--「人智では推し量れぬもの」
第17回 英国が「EU離脱」の可能性も--今年はポンド安の年になる?
第16回 クリスマスが明け、欧米勢は新年度入り--日本人の"正月気分"が狙われる可能性!
第15回 機関投資家は、円高に耐えられるのか!?--ドル/円、100円割れの可能性も
第14回 原油価格下落が再開、日本の貿易収支とドル/円への影響は?
第13回 ユーロの悲劇--なぜ急騰し、そして高止まりしたか!?
第12回 ユーロ/円、潜在的な大相場の可能性--110円近辺まで下落か!?
第11回 ユーロ/ドル、超長期からのアプローチ--9.11テロ、リーマン、ドラギ緩和
第10回 フランス同時テロが、FXマーケットに与える影響は?
第9回 ドル/円、どこまで上がるか!?--日本の貿易赤字の変化に注目
第8回 ユーロ/ドルには十分な警戒が必要--ドイツがおかしくなったら大混乱!?
第7回 ECBドラギ総裁は"先手必勝"の追加緩和--FRBイエレン議長には"市場の洗礼"!?
第6回 無視できない、欧米の"決算絡み"の相場の動き--今後はどうなる!?
第5回 トルコ史上最悪のテロ事件が発生、トルコリラはどうなる!?
第4回 ドル/円とユーロ/ドルの膠着相場、近い将来相場が動き出す前兆を示唆
第3回 フォルクスワーゲン不正問題に思う--ドイツから米国へ富の移し替え!?
第2回 ユーロ/ドルが動くわけ、動かないわけ
第1回 ドル/円、本格的に円高に転換か?

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