米大統領選からここのところ、ドル/円の上昇が止まりません。こうしたワンウェイ(一方通行)の相場で、気をつけて見ておきたいことは、「5日移動平均線の推移」です。

5日移動平均線の推移に注目

5日移動平均線は、短期のトレンドを支持する移動平均線です。

なぜ、5日移動平均線なのかと問われても、5日が1週間の営業日数が5日間だからではないかとしか、ディーラーの私にはお答えできません。つまり、当たるということが第一で、それが5日移動平均線だと考えているだけだからです。

以下の黒丸は、今回11月8日の米大統領選の前日11月7日から始まった日足の上昇トレンドをサポートしている5日移動平均線(ピンクのライン)です。上昇する日足をきれいにサポートし、5日移動平均線自体も鋭角的に上昇していることがわかります。

ドル/円 日足

こういう鋭角的に5日移動平均線が上昇している限り、大きな調整を期待しない方が良いと思います。当然、下方向へのトライがありますが、ほとんどの場合、攻めた反動で上方に大きく跳ね返されてしまいます。

逆に、どうなると、サポートを割り、上昇トレンドが終わるのか、ご説明しましょう。以下の黒丸をご覧ください。

ドル/円 日足

この場合も、日足の上昇とともに、5日移動平均線も鋭角的に上昇しています。しかし、日足が上がり切らず足踏みを始めると、鋭角的に上昇してきた5日移動平均線自体も、段々上昇角度を緩め、更に水平になっていきます。

こうなると、日足をサポートする力は5日移動平均線にはなくなり、日足は下に割り込み、5日移動平均線も、今度は鋭角的に下を向いていき、今度は下落を支持するようになります。

その後をご覧頂くとわかりますが、5日移動平均線が下向き、水平、上向きによって、トレンドの方向性が示唆されていることがわかります。

今後の注意点3つ

今回の米大統領選前後から始まった、鋭角的な5日移動平均線は、異例の斜度と長さで上昇を続けています。今の状態では、まだ上昇は継続するのではないかと思いますが、いくつか注意点があります。

1. 日足と移動平均線との過度の乖離に注意

あまりにも、マーケットが過熱して、日足の上げが速まり、5日移動平均線との乖離幅が大きくなるほどに、日足は5日移動平均線に引き寄せられる傾向があります。あまり熱くなって高いところを買うのは危険です。

むしろ、急激な上昇を見せたときは、バイイング・クライマックス(上げの最終コーナー)の可能性がありますので警戒が必要です。

2. 日足の足踏み

既に申し上げていますが、日足が足踏みを始めると、5日移動平均線の角度はどんどん緩んでいきます。そして水平になると、もうサポートとしての役目を果たせなくなりますので、日足の動きには注意が必要です。

いくら日中、日足が上げたとしても、引け値の段階で下がっていれば、それは足踏みになってしまいます。

3. 絶対はない

ここまで、5日移動平均線の特性をお話ししてきました。確かにとても有効な手法であることは、私自身も認めます。

ただし、マーケットでは、今年だけでもブレグジットでのイギリスのEU離脱決定や、トランプ氏の大統領選当選といった、何が起きてもおかしくないことが、事実起きています。つまり、「あるはずでないこと」が実際に起きて、相場が一変することはあります。

それを考えると、5日移動平均線に優れた特性はあっても、それに全面的に頼り切るというのは大変危険です。非常時は、何をなすべきか、反射的に行動できるようにしておくことは、何と言っても大事なことです。

5日移動平均線は、あくまでもツール(道具)であり、それを信じて良いときと、信じてはまずいときの判断は、トレーダーである皆様にあることは、くれぐれもお忘れにならないようにしてください。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら