非常にポピュラーなテクニカル分析です。

以下のチャートのように、左肩、右肩、そしてその真ん中に、一段高いヘッド(頭)からなるフォーメーションを、正式には「ヘッド・アンド・ショルダーズ(Head and Shoulders)」と言います。

このフォーメーションが完成すると、教科書的には、実体(ロウソク足の寄り付きと引け値の間の太い部分)のヘッドの高値と肩の安値(ネックライン)の高さ分だけ、ネックラインから下がります。ただし、ヘッドを突破すると、そこからヘッドとネックラインとの間の高さ分だけヘッドから更に上がるとされています。

ドル/円 月足

このリアルなチャートを使って、ドル/円の今後について考えてみたいと思います。

ドル/円の今後について考察

まず、ざっくりとしたところから見てみましょう。ヘッドの水準は、124円近辺です。そして、ネックラインは101円近辺です。

2014年代は9カ月をかけて左肩を形成し、そこから一段上がって2015年一杯掛けてヘッドを作り、本年2016年7月から現在まだ途上ではありますが、右肩を形成しようとしています。

教科書的に言えば、左肩形成に9カ月掛けていますので、右肩にも9カ月掛けるとすると、来年3月頃(本年7月から9カ月後)には完成することになります。

ただし、これはあくまでも、教科書的な見方であり、それよりも完成が早くも遅くもなることがあります。局面局面の状況に応じて判断しておかなければなりません。いずれにしても、大きなヘッド・アンド・ショルダーであることは確かで、実際、下がるとなると、101円-(124円-101円)=78円ぐらいが下げのターゲットとなります。

2011年3月11日の東日本大震災により発生した原発事故に伴い、国内の原発すべてが稼働停止したため、代替エネルギーとして液化天然ガスを大量輸入するようになったことで、それまで45年間黒字だった貿易収支が赤字に転落しました。

この後、貿易赤字によるドル買いが恒常的に起きたことも、50円近くのドル高円安になった原因のひとつです。この円安スタートとなった2011年のドル/円の水準は77円前後でした。

そして、先ほどのヘッド・アンド・ショルダーで計算されるターゲットが78円ぐらいだということは、つまり、2011年の円安の起点まで戻す可能性があることです。このことは、2011年来の以下のグラフのドル/円と貿易収支と推移と逆相関になっていることがわかります。

なお、ヘッド・アンド・ショルダー崩れになって、上昇することになるとどのあたりまで、上昇するかと言えば、124円+(124円-101円)=147円となります。しかし、個人的にはあまり現実的ではないものと見ています。

四半期ベースの貿易収支推移(2010年~2016年) 単位:億円

有名チャートの落とし穴とは

さて、ヘッド・アンド・ショルダーに限らず、有名チャートには、落とし穴があります。

それは、あまりにも有名なチャートのため、多くのマーケット参加者がそれに気づき、同じように相場が下がると見るため、ごく短期間にポジションがショートに偏ってしまうということです。このため、自律的な反発力が出て大きく反発し、損切りの嵐になります。

したがって、こうした有名チャートの場合、チャート完成、即下落ではなく、いったんポジション調整の反発、そしてポジションが軽くなって初めて、下がるものだと割り切ること、ポジションを持つにしても、ジックリとタイミングを待つことが大切です。

待つことは、なかなか簡単にはできないことです。なぜなら、「チャンスを逃してしまわないか」という焦りは、どうしても付きまとうからです。

しかし、「このタイミングを逃しても問題ない」というくらいのおおらかな気持ちでいることが大切だと思います。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら