私のトレーダー人生の中で、今でも忘れることができない天国と地獄を見た時期がありました。この時期について、「天国編」と「地獄編」に分けて、これからお話したいと思います。

トレーダー人生で見た天国と地獄(画像はイメージ)

~天国編~

ある年の4月後半、「日本の機関投資家によるドル/円での買いが本格化しそうだ」という情報を得て、5月に入り、ドル/円を買えるだけ買いました。 そして、後はひたすらロングポジションをキープしました。

この手法は、「バイ・アンド・ホールド(買って、抱え込む)」と一般に言われます。

相場は、情報が正しかったようで、上昇を続けました。ところが、香港やシンガポールの米系銀行は、どこかで必ず調整が入ると、毎日のように強烈な売り仕掛けをしてきました。

しかし、買い手が機関投資家という、買ったらそう簡単には売らない人たちだったため、結局、毎日夕方になると、香港やシンガポール勢は損切り的に買い戻してきました。

そして、7月には5月初旬に比べて20円以上も上昇していました。そこで、ある重要指標の発表を利食いのタイミングにすると心に決め、予想より強い結果に、マーケットが買いで盛り上がっているところを、静かに利食い、更に少しショートにしました。

相場は、ブル(強気)になったマーケットが買い過ぎたようで、一転大急落となりました。ショートはそこそこで利食いましたが、全体としては本当に儲かりました。

8月は、夏枯れで横ばい、9月は再び買いが強まったので、ロングで再び攻め、利益もそこそこに出ました。 この段階で、当時いた銀行の歴代で最も儲けた為替ディーラーになったと先輩から聞かされました。

まさに、我が世の春のようでした。しかし、世の中そんなに甘くはありませんでした。

~地獄編~

10月に入り、相場の見た目には変わらず、今までの上昇トレンドが続いているものだと思いました。しかし、そこに、勝った"おごり"が出ていたのだと思います。

現実を直視せず、今の相場はそれまでと何も変わっていないと決めつけてしまったことが、自分のトレーディングが狂い始めた原因だと思います。

そのとき、現実の相場はどうなっていたのかと言えば、トレンド相場は終了し、レンジ相場に転換していました。それも、タイトなレンジで、レンジ幅が3円ぐらいしかありませんでした。

そのレンジ幅の中で、上がれば更に上がると見て買い、下がればもっと下がるのではないかと不安になり投げ、これを大きなポジションで3往復すると、物も言えないほどやられてしまいました。

せっかく、5月から9月までのトレンド相場で儲けた利益を、半分近く飛ばしてしまいました。さすが自分の相場観に自信がなくなり、翌11月、12月と、顧客取り引きのカバーはとるものの、自己玉でのポジションは休止し、実質ペナルティーボックスに入りました。

ものすごい敗北感でした。

「なぜ、20円幅のトレンド相場をとったのに、3円幅のレンジ相場にやられたのだろう」と、振り返って考えてみました。そして、結論としてわかったことは、「トレンド相場とレンジ相場では、トレーディングの仕方が違う」ということでした。

私が、折に触れて、トレンド相場とレンジ相場についてお話しするのは、このときの深い反省があるからです。

1月になり、当時、2月から3月に掛けて、ドル/円が例年上昇する傾向がありましたので、これで起死回生を狙おうと、その原因となる金融機関による海外の不良債権の償却がこの期末にもあるのか、情報収集したところ、今回もあると確認がとれ、勝負に出ることにしました。

そして、2月から3月の上昇トレンドで、10月の損失を取り戻し、いくらかの利益も出して終わることができました。

本当に、ほっとしました。

このように、現状の相場状況を的確に把握し、それに沿ったトレーディングスタイルをとるかとらないかで、相場は天国にも、地獄にもなりますので、相場の変化には、細心の注意が必要です。

(※画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら