今回、英国がEUから離脱することを国民投票により決定し、24日、中国で行われたG20でも、それに伴う混乱回避で連携することで合意しました。

英国の場合、まだ、いわゆる道理が通じる国であるからこそ、どう英国が出てくるか、ある程度の予測が立ちます。

しかし、IS(イスラム国)とユーロ圏の関係は、あたかも"宗教戦争"のようなもので、イスラム国に妥協はなく、終わりもないものと思われ、対立は長期化するものと思われます。

ユーロ圏で続くテロや凶暴事件

ユーロ圏では、昨年の11月13日のパリの同時多発テロ以降、今年3月22日のベルギーのブリュッセル、7月14日のフランスの地中海沿岸のニースでのテロ事件、そして先週金曜のドイツのミュンヘンでの銃乱射事件(ISとは関係はないもよう)とテロあるいはそれに類する凶暴事件が続いています。

こうしたテロは、今後も終わりが見えないままに延々と続くことが予想され、ユーロ圏の体力を大いに消耗させ、引いてはユーロが大幅に下落する主たる原因になるものと見ています。

上記でも申し上げましたように、ISが関与したとされるユーロ圏でのテロは、ここ一年でパリ、ブリュッセル、ニースと3回ありました。そのたびに多くの犠牲者が出ましたが、ISと"宗教戦争"に陥っているとすれば、テロはいつになっても終わらないことになると思います。

それにより、社会全体の恐怖感は、いつになっても拭いさることはできなくなるでしょうし、おちおち外出もできなくなるものと思われます。EUが標榜していた域内での自由な人や物の移動も、テロ対策から国境での検問が恒常化して、滞りがちになるものと思われます。

そして、世界で一番観光収入を上げているフランスにとっては、既に大打撃になっているものと思われます。

ユーロ/ドルは、下落を再開する?

こうしたことから起きる景気の低迷から、現在膠着状態にあるユーロ/ドルは、下落を再開するものと思われます。

つまり、他にもユーロ安要因はあるものの、エンドレスに景気を下ぶれさせるのは、何よりも、このテロという一種の宗教問題だと思います。

宗教の怖さは、駄目となると、妥協がなくなり、また終わりがないことだと思われ、これに取りつかれたユーロ圏は、長期低迷を余儀なくされるものと思います。

ユーロ/ドルは、2014年5月に、ドラギECB総裁が、翌月、ECBが追加緩和をすると予告したのをきっかけに、13900近辺から、2015年3月までで約3450ポイント下落しましたが、その後現在までは、横ばい状態が続きました。

ユーロ/ドル 月足

一時期、上値も試されましたが、1.1600近辺が重く、結局また緩んできており、2015年2月以降の横ばいが、下げ相場での単なる踊り場にすぎなかったものと思われ、現在は、再度下落のタイミング待ちに入っているものと思われます。

しかし、下げるタイミングが来ても、それなりの理由があってこそ、下げが本物になるものと思います。

これまで、ドイツ最大の銀行であるドイツ銀行が米FRBによるストレステスト(健全性検査)で2年連続で不合格だったとか、ギリシャが最近借入金の返済を滞っているなどといったネガティブな(否定的な材料)ものもありましたが、実際緊張を恒常的に余儀なくされる宗教的なテロは、ユーロ圏に住む人々に、大きなストレスを与えることになるものと思われます。

ユーロ/ドルの当面のサポートは、1.0800であり、そして、1.0500も強いサポートとなるものと思われますが、ISの問題が解決する可能性は、極めて低いものと思われ、1.0000(パリティー、等価)を割って更に下げる可能性はかなり高いもの思われます。

経済的合理性と相反するISとの闘いは、終わりが見えないだけに、ユーロ圏経済に、大きなダメージを与えることになるものと思われます。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら