「ユーロ/円」に注目

いま最も注目している通貨ペアは、ユーロ円です。

通常の為替取引は、たとえば、ドル/円のように、基軸通貨であるドル対その他の通貨という形をとるのが一般ですが、今回、お話しするユーロ/円のように基軸通貨であるドルを介在しない為替取引もあります。

これを、クロス取引といい、さらに円関係のクロス取引をクロス円と呼んでいます。クロス円取引も、個人のFX取引が活発になるほどに取引量は拡大してきています。

中でも、ユーロ円は実需取引もそれなりにあって、ユーロポンドとならんで、クロス取引の中で大きな存在だと言えます。そのユーロ/円に、今回は焦点をあててみたいと思います。

相場分析には、大きくはテクニカル分析とファンダメンタルズ分析があります。テクニカル分析は、基本的には、チャート分析によって、今後の相場の行方を読みます。

一方、ファンダメンタルズ分析は、その国・地域の経済の基礎的条件、つまり、景気や金融政策などを分析することで、相場を予想していくものです。

このふたつの分析法をバランスよく使って、相場を読むことが大切です。

チャート分析で見る「テクニカル分析」

それでは、まず、ユーロ/円を、テクニカル面から、見てみましょう。ユーロ/円の週足をご覧ください。

ドル/円 日足

2012年の夏場を底に、2014年の7月のピークまで、多少の上が下げはあるものの順調に上昇しています。それが、2012年の7月のピークを過ぎると、一点して下落基調となっています。

しかも、週足は、2013年1月に、200週移動平均線(ピンクのライン)を上に抜けて以来、約3年間、この移動平均線より上で推移してきましたが、今年の2月に入り、下に割り込み、さらに下落してきています。

まず、ひとつ言えることは、多少のデコボコはありますが、天井圏が丸くなっている、これをラウンディング・トップ(坊主頭)と言います。

要は、天井圏を形成し終わると反落する傾向があるということで、チャートでご覧頂けるように、ほぼラウンディング・トップは完成し、下落の可能性が高まっていることが上げられます。

さらに、先にも申し上げましたが、長期のサポート(下値抵抗線)である200週移動平均線を先週、週の寄り付きでも、引け値でも下回っており、下げやすくなっています。

つまり、テクニカル的には、かなりユーロ/円は下がる可能性が出てきています。

国・地域の景気や金融政策などを分析する「ファンダメンタルズ分析」

もうひとつの分析法であるファンダメンタルズ分析からしますと、まず、ユーロでは、やはり昨年11月のパリ同時多発テロの影響は大きいと思います。

また、昨年暮れには、ドイツのミュンヘンでも、2駅にテロ予告もありました。こうしたことにより、実際、今まで、スピードを落とすことなく、通過していたユーロ圏の国境での検問が強化されており、EUが標榜している、域内の自由な人や物の移動が阻害されてきています。

さらに、難民問題はあり、しかも、それがテロリストの隠れ蓑にさえなっています。そして、ユーロ圏経済をけん引するドイツ経済にも、フルクスワーゲンが不正問題で払う多大な制裁金、そして、世界の銀行の中でもトップクラスと自負していたドイツ銀行の不振など、問題は山積です。

それに対して日本では、なにか世界的にリスクが発生すると、リスク回避の円買いとされ、なににつけても、円買いが先行しています。

さらに、それにも関連していますが、米系ファンドが、昨年暮れぐらいから、円高方向を狙い始めているようで、今月でも、2月1日に121円台にあったドル/円は、11日には一時110.99まで、主に米系ファンドによって、一気に円高に持っていきました。

その後、ファンド勢のいったんの利食いのドル買い円売りに反発しましたが、先週後半から、改めてドル売り円買いが強まっています。

こうした円高狙いは、2012年後半から2013年春頃までのアベノミクスの量的緩和政策での大幅円安狙いとは対照的です。

しかし、結局、アベノミクスによって消費者物価2%達成などの目標に達することが出来なかったことに対する政策と実態のねじれを突いてきているものと思われ、今回はかなりの円高を狙ってくるものと見ています。

そして、ユーロ/円をユーロ/ドルとドル/円を掛け合わせたものである以上、ユーロ安ドル高とドル安円高がダブルで効いてきますので、単なるドル/円よりも、大きく円高方向に進むと見ています。

120円が割れれば、110円、さらに100円をも目指す可能性があると考えています。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら