最初に、介入の基礎知識を確認しておきたいと思います。よく、「日銀による介入」と言われますが、正しくは「政府・日銀による介入」です。

ここでいう政府とは財務省のことで、財務省に介入権限があり、執行部隊である日銀に介入額、介入方向、介入のタイミングなどを財務省が指示を与えます。

そして、それにしたがって日銀はブローカー(仲介業者)経由や電子ブローキングシステム経由、あるいは直接銀行へ、プライスを聞きにいき、いずれも売り買いをすることになります。ですから、日銀が実施する介入の後ろには、財務省がいる、言い換えれば、財務省の意向が介入に現れます。

簡単にはドル/円で介入は出ない?

さて、ドル/円は、先週6円強の急落をしたことから、現在株式市場の下落を助長していることもあって、急速にドル/円での買い介入に警戒感を強めています。

ドル/円 日足

しかし、個人的には、それ程簡単には、ドル/円で介入が出るとは見ていません。というのも、そのもの自体が本当にあるのかどうかよくわかりませんが、125円に黒田シーリングがあったという話がありました。もし、それが正しいなら、黒田シーリングから、たった14円ほど円高へ行ったからと言って、介入はしないと思います。

また、今の先進国の通貨当局の介入姿勢は、「できるだけ、市場に任せる」ということだけに、よほどのことがない限り介入はないと思ったほうがよいように思います。

2014年7月頃から2015年3月に掛けてドル高がその他の主要国通貨に対して急速に進みました。EUR/USDで言えば、3500ポイントものドル高が進みました。FRBは、ぶつぶつは行っていましたが、結局は容認していました。つまり、3500ポイントも動いても、今の時代、介入はできるだけ差し控えられているということです。

東日本大震災時の為替介入

さて、ここで、今となっても感謝の気持ちが湧く為替介入についてお話ししましょう。

2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。この事態に対して、ニューヨークのある投資会社の社長が、「日本の震災被害は甚大で、日本の損害保険会社は、外貨で持っている資産を取り崩して、膨大な金額の保険金支払いにまわすので、円買いが発生し、為替相場では、ドル安円高が大幅に起きるだろう」コメントしたために、ドル/円は急落しました。

本邦損害保険会社からは、再三否定発言は出ましたが、投機筋は売りの手を休めず、相場は80円を下回り、さらに売られ続けました。そこで、とうとう政府・日銀が、ドル買い介入で入ってきしたが、売り圧力が強く、日本の通貨当局は劣勢を強いられました。

ところが、ロンドンタイムに入ると、先進国の中央銀行が協調して動き出しました。つまり、協調介入が実施されました。ロンドンでは、BOE(英中銀)が、ECBが、SNB(スイス中銀)がドル買いを始め、さらにニューヨークに入ると、ニューヨーク連銀(NY FED)が、Bank of Canada(カナダ中銀)が、続々とドル買いで参加してくれたことで、政府・日銀は窮地を脱することができました。

協調介入で上がっていく相場を見ながら、強面(こわもて)だとばかり思っていた先進国の通貨当局が、大震災で大変な時の日本を助ける側に回ってくれ、本当に捨てた者じゃないなあと思いました。それも、淡々と介入をこなして去って行った姿には、やるべきことをやっただけという淡々としたものがあって、本当にかっこ良かったです。

このように、皆で日本の窮地に手を差し出してくれたことは決して忘れてはならないと思いました。そして、この恩に報いるには、大震災時に手を差し伸べてくれた国々だけでなく、各国で何かが起きれば、率先して今度は、手を差し伸べるべきかと思います。

また、実際に、今回の参加した、日本をはじめとした各国通貨当局は、日頃から、よく連絡を取り合っていることがわかりました。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら