1月21日のECB理事会後の定例記者会見で、ドラギECB総裁は、「3月の理事会で金融政策スタンスを見直す可能性がある」と明言しました。

私は、この発言の意味は大きいと見ています。

ドラギECB総裁

というのも、ユーロ/ドルは、2014年5月、やはり、定例記者会見において、ドラギ総裁が翌月での追加緩和を予告したことがきっかけとなり、1.39台から下落を開始し、2015年3月には1.04台まで、なんと3500ポイントもの下げを見ました。

その後、現在まで相場は膠着し、1.05台~1.17台でのレンジ相場を続けてきました。

ユーロ/ドル 月足

この膠着相場を、私自身は、下落トレンドにおける踊り場に過ぎないと見ています。

確かに、昨年12月には、追加緩和をしたものの、マーケットが予想したほどの内容ではなかったとして400ポイントもの反発を見ました。

しかし、やはり12月というクリスマスシーズンでマーケットが手仕舞いに入ろうとする時期だっただけに、新たに下げるというのには、無理があったと思います。

それに対して、1月は、欧米勢にとっては、新年度に入ったばかりでポジションテイク(ポジションを作る)に対しては前向きであることや、今年の場合、1月はユーロ買いで攻めていたようですので、先週木曜の追加緩和予告を受けて、目先、ロングの解消が必要になっているよう思われます。

したがい、ユーロ/ドルは、下げを再開するものと見ています。

当面のサポート(下値抵抗線)は、1月5日の安値1.0711、つまり1.0700近辺です。

ユーロ/ドル 日足

この水準を日足の実体(ロウソク足の寄り付きと引け値の間の太い部分)で割り込んでくると、昨年12月3日つけた安値1.0523、つまり1.0500近辺のサポートを目指すものと見ています。

そして、もっと長めには、1.0500を日足の実体で割り込んでくると、1.0000(パリティー、等価)を目指して、下げるものと思われます。

ファンダメンタルズ的にも、下落再開の可能性は高い

さて、ここまでは、テクニカル的な分析をしていますが、ファンダメンタルズ的にも、下落再開の可能性は高いと見ています。

それは、昨年11月13日にパリで発生した同時多発テロ事件や、12月31日のドイツ南部・ミュンヘンでの自爆テロ予告によるミュンヘン中央駅など2駅の封鎖などにより、テロ警戒が強まり、ユーロ圏の各国は、国境での検問を強化してきています。

これは、一見地味なことのように思われるかもしれませんが、EUにとっては、実は、大変大きな問題です。

ヨーロッパの26の国では、圏内で国境を越える際には検査を受けないとするシェンゲン協定が適用され、この点で単一の国家のようになっています。

つまり、どういうことかと言いますと、たとえば、フランスからベルギーにつながる高速道路では、車はスピードを落とすことなく、国境を猛スピードで通過しています。

面白かったのは、スイスからフランスに抜ける片田舎の国境では、パスポートコントロール(出入国審査)の建物にだれもいませんでした。

それだけ、物流の効率化、人的交流の自由化がはかられていたのが、ここのところのテロの発生のみならず、未遂事件などの発生により、つまり開かれた国境がテロリストの移動に一役買うことになってしまっており、ここにきて、国境での検問が再開されていいます。

これは、EUの理念とは逆行することであり、EUを弱体化させることになるものと思われます。

その意味からも、ユーロ/ドルは、下落するものと見ています。

尚、先週木曜のドラギ発言の直後、いったん1.0800を割って1.0776まで突っ込みながら、その後1.0900近辺まで反発したのは、どう見ても、下げさせまいとする抵抗勢力がいるものと思われます。

しかし、翌22日には、再び1.0800を割り込んできており、相場のトレンドは下を向いているものと思います。

トレンドに反して抵抗して相場を歪めようとしても、その歪みは結局は修正されることを、過去何度も見てきました。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら