ユーロ/ドル、昨年5月から今年3月までの動きと4月以降の相場は非常に対照的

ユーロ/ドル 週足

ユーロ/ドルは、昨年の5月のECB理事会後の記者会見でドラギECB総裁は「6月には緩和について話す」という追加緩和予告をしたこときっかけに1.39台から下落を開始しました。

下げは、途中ギリシャの債務問題も加わって、延々と続き、年末年始には1.2000の大台を割り込み、下げ足を速め、本年3月13日には1.0463の安値をつけ、下げ幅は3500ポイントにも及びました。

しかし、その後、マーケットセンチメントは依然ユーロべア(ユーロに弱気)でしたし、実際、ギリシャのデフォルト(債務不履行)・ユーロ離脱という問題がありながらも下げきらなくなり、基本的にジリ高気味のレンジ相場が続きました。

そして8月24日に中国ショックがおこり、一時ドル/円が116.15まで急落したのを受け、1.1713まで急騰しましたが、単にドル/円の急落に連れた上昇だったために、あとが続かず、反落となりました。

こうやって見てきますと、昨年5月から今年3月までのワンウェイ(一方通行)の動きと、4月以降の方向感が定まらない相場は非常に対照的であることがわかります。

ドラギECB総裁

ユーロ/ドルの場合は、投資家によるフローが大きく影響

それでは、なぜこのような違いがでるのかについて、お話ししましょう。

まず、相場が一方向に動くためには、一方行へのフロー(資金の流れ)が必要です。

このフローは、通貨によって異なっており、ドル/円の場合ですと、貿易取引(輸出、輸入)が大きな影響を与えます。

それに対してユーロ/ドルの場合は、投資家によるフローが大きく影響します。

ここでいう、投資家とは、政府系ファンドやペンションファンド(年金資金運用機関)、中央銀行などが上げられます。

こうした投資家が、なんかの理由により、ユーロからドル、ドルからユーロへ資金を移動させます。

それでは、何らかの理由とはなにかと申しますと、大別して、前向きな理由と後向きの理由があります。

まず、前向きな理由として上げられるのが、高利回りなど投資妙味がある場合です。

そして、もうひとつの後向きの理由としては、資金を預けている国・地域で、なにかが起こりリスクを感じた時、資金を逃避させます。

後向きの理由の方が、資金を移動させるのに一刻を争うため、相場の動きが急激になります。

投資妙味減退や、ギリシャ問題でリスクを感じユーロ売りドル買いが発生

今回取り上げた昨年5月から今年の3月までの一方的な下落の理由は、こうした投資家がECBの追加緩和によって投資妙味が減退したことや、ギリシャ問題からリスクを感じたために資金をユーロからドルへ移そうと、ユーロ売りドル買いが発生したわけです。

尚、ユーロ/ドルという通貨ペアは、世界一の規模を誇る通貨ドルと、第2位の規模を持つ通貨ユーロによってできているため、ドルの受け皿になりえるのはユーロしかなく、またユーロの受け皿になりえるのはドルしかないということで、大西洋を挟んで、巨額の資金が欧米間で右へ左へと動いています。

投機筋の宿命とは!?

さて、それでは、今年4月から現在までの相場がなぜ、横ばいだったかと言えば、それは投資家の資金移動がおきていないか、あるいは動いたとしても多少のことだったということです。

なぜ動かなかったかと言えば、資金をあえて動かす彼らにとっての確たる理由がみつからなかったということになるわけです。

こうして、投資家筋が動かなくなると、マーケットに残るのは、投機筋だけになります。

投機筋にはある宿命があります。

ある宿命とは、彼らは売り買いによって、利ザヤを稼ごうとします。

売りで入れば、利食いか損切の買いをしなくてはなりません。

また、買いで入れば、利食いか損切の売りをしなくてはなりません。

こうした宿命を持っている以上、買い放し、売り放しはできませんので、必ず反対取引をするため、相場がレンジ取引になり、膠着してしまいます。

こうしたことで、一方向に動かない相場が続いています。

投資家筋が資金を動かそうとするインセンティブは何かを推理することが大事

ですので、投資家筋にとって、資金を動かそうとするインセンティブ(動機づけ)はなにかを推理することが大事です。

もしかしたら、FOMCの利上げなのかもしれませんが、投資家筋もお堅い人たちですので、本当に納得しなければ動きません。

そして、いったん納得すると、怒涛のような資金移動を実行しトレンド相場となりますので、投資家が何に着目して、動き出すかについては、日頃から推理するクセをつけることが大事です。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。