前回は主として航空機の話だったが、今回は艦艇の話。冷戦崩壊後に「不正規戦」の掛け声が大きくなった頃からだろうか、艦艇が電子光学/赤外線(EO/IR : Electro-Optical/Infrared)センサーを搭載する事例が多くなってきた。
なぜ艦艇にEO/IRセンサーが?
正規軍同士の大規模戦闘であれば、対艦ミサイルや魚雷を撃ち合う場面が主体になると考えられる。すると主役になるセンサーは、対空・対水上捜索用のレーダーであり、水中捜索用のソナーである。
ところが不正規戦の時代になると、事情が違ってくる。2000年に自爆ボートに突入されて舷側に大穴を開けられた、米海軍のイージス駆逐艦「コール」が典型例だが、近距離での交戦が増えてくる。
ソマリア近海などで今も続いている、海賊対策の哨戒任務もそうだ。昼間だろうが夜間だろうが関係なく出没する相手に対して、接近して目視確認する必要がある。見た目は無害な民間のフネと似ているからだ。
ところが、夜間だと可視光線は使えないし、探照灯で照らせば「闇夜に提灯」。こちらが捜索・監視していることを相手に知られたくはないから、そんな手は使えない。つまりパッシブ探知手段として赤外線センサーが要る。
そうした事情により、水上戦闘艦がEO/IRセンサーを搭載する事例が増えてきた。よくあるのは、旋回・俯仰が可能なEO/IRセンサー・ターレットを艦橋上部に搭載する形。
我が国も例外ではなく、導入事例がある。下の写真は「はやぶさ」型ミサイル艇だが、「あぶくま」型護衛艦も艦橋の上にセンサー・ターレットを載せている。6月に晴海に来航したニュージーランド海軍のフリゲート「テ・カハ」も、7月に晴海に来航したカナダ海軍のフリゲート「オタワ」「ウィニペグ」も同様だった。
艦のサイズと比較すると、EO/IRセンサー・ターレットのサイズは小さいので、遠方からパッと見ても存在に気付かないことがままある。とりあえず写真を撮って帰宅して、それを後から子細に拡大して見ていたら「あっ」となるのは、よくある話。
艦載用だからといって、何か特別な製品を必要とするかといえば、そんなことはない。ただ、潮風や海水を浴びることになるので、その辺の対策が必要になるぐらいだろうか。そこさえクリアできれば、既製品でも対応できると考えられる。
なお、艦艇ではレーザー誘導ミサイルを発射する場面は少ないので、レーザー目標指示器は必要ない場合がほとんど。あくまで、艦載EO/IRセンサーは捜索と目標識別の手段である。
2つ目玉のSIRIUS
ただ、先に名前が出たカナダ海軍の「オタワ」「ウィニペグ」は、もともと搭載している艦橋上部のセンサー・ターレットに加えて、近代化改修の際に赤外線センサー機器を追加した。
それがマスト上部に追加された「SIRIUS」という赤外線センサー。横長の本体の両端に丸いセンサー窓がついていて、それが秒間1回転のペースでくるくる回りながら全周を捜索する。オランダのタレス・ネーデルランド社が、カナダのDRSテクノロジーズカナダ社と組んで開発した。
また、小艇による襲撃、とりわけ自爆テロみたいな事態に対処する目的で、近距離交戦用に機関銃や機関砲を搭載する艦が増えている。海上自衛隊では艦橋の近隣などに銃架を追加設置して12.7mm機関銃を搭載できるようにして、銃手を護るための防盾を搭載するのが基本形のようだ。
ところが国によっては、さらに徹底している場合がある。米海軍の巡洋艦や駆逐艦は大抵、25mm機関砲を遠隔操作式の砲架に載せた、BAEシステムズ製のMk.38という製品を両舷の上甲板に設置している。横須賀で巡洋艦や駆逐艦の一般公開があったときに訪れたことがある方ならおわかりかと思うが、Mk.38には小さいながら、EO/IRセンサー・ターレットの「ボール」が付いている。
そのMk.38にしろ、他社製の遠隔操作式砲架にしろ、EO/IRセンサーを装備していて、昼夜・天候を問わずに視界を得られるようになっている。そして、艦内のコンソールに付いているディスプレイ装置にEO/IRセンサーからの映像を表示するようになっていて、それを見ながら機関砲の向きを変えたり、発砲したりできる。米海軍の巡洋艦や駆逐艦だと、艦橋の一角に2台のコンソールを並べている(左舷と右舷に1基ずつあるため)。
これが巡洋艦や駆逐艦だけかと思ったら、空母「ロナルド・レーガン」にも付いていた。フネが大きすぎて、相対的に小さすぎるMk.38の存在は目立たない上に、入港取材の際にはカバーをかけてあったので、気付いた人は少ないかもしれない。でも、ちゃんと付いている。
潜水艦の捜索と赤外線センサー
と、ここまで書いてきておいて前言をひっくり返すようなことを書くのもなんだが、海を舞台にして正規軍同士が渡り合う場面でも、赤外線センサーの出番が巡ってくることがある。潜水艦の捜索である。
原潜は、原子炉という名の巨大湯沸かし器で発生させた水蒸気を使ってタービンを回すことで、動力源としている。タービンを回した後の水蒸気は復水器で水に戻してから、原子炉につながっている蒸気発生器に戻す。
ということは、復水器で水蒸気を水に戻す際は、外部に熱が出ていることになる。だから、原潜がいる場所は、周囲と比べると、ほんのわずかだが水温が上がっている可能性がある。
通常潜でもディーゼル・エンジンの冷却が必要になるし、排気ガスは大気中に放出せざるを得ないので、ディーゼル・エンジンで航行しているときに限られるものの、赤外線センサーで探知できる可能性につながる。
もっとも、潜水艦を設計する側もそんなことは百も承知だから、例えば排気ガスを大気中に直接放出しないで、海中に放出することもある。すると水圧に打ち勝って排気ガスを出さなければならないので、その条件を満たせるエンジンが求められるのだが、その話は本題から外れるのでおいておくとして。
ともあれ、潜水艦も熱源になり得るので、潜水艦の捜索に赤外線センサーが使われる可能性があるわけだ。ただし、この手を使うのは哨戒機。水上艦が搭載する赤外線センサーでとらえられるようなところまで敵潜水艦が近寄っていたら、もう襲撃は切迫している。まずは自分の身を護ることを考えないとまずい。