これまで、アンテナ(電波兵器)、ソナー(音響兵器)と説明してきたので、次は光学兵器を取り上げてみよう。ウェポン・システムがIT化されるよりも前から、「双眼鏡」「望遠鏡」「測距儀」といった形の光学兵器があったし、そもそも人間の目玉だって光学兵器の1つといえなくもない。ただ、そこまで遡ると話が散らかりすぎるから、電子機器が関わるようになった後の話を。

電子光学センサー

まずイントロとして、そもそも光学センサーとは何で、どんな用途があるかという話から始めたい。

辞書的な定義としては、光学センサーとは「光を用いて何かを探知するセンサー機材の総称」ということになる。この「光」は可視光線だけでなく、赤外線も含むが、紫外線を使用するセンサーは光学センサーには分類されない。

もともと、光学兵器といえば可視光線を使用するものしかなかった。そこに電子技術が関わるようになると、レンズから入ってきた光をそのまま接眼部で見るだけでなく、間に電子回路をかます形になる。例えば、TVカメラで撮影した動画をディスプレイで見る場面がそれだ。

ただしその場合、すべてアナログ電子回路で完結している。それに対して目下の標準は、デジタル化である。身も蓋もない言い方をすれば、デジカメの親玉みたいなものである。

つまり、レンズから入ってきた光を電荷結合素子(CCD : Charge Coupled Device)などのセンサーで捕捉して出力、デジタル・データとしてコンピュータに取り込む。すると、コンピュータによる映像の処理・加工・解析が可能になるし、デジタル・データとして保存することもできる。これを電子光学(EO : Electro-Optical)センサーと称する。

望遠レンズ付きの一眼レフ・カメラをお持ちの方なら、遠くの様子を見るのに、カメラを望遠鏡代わりに使った経験があるのではないかと思う。銀塩でもデジタルでも、光学ファインダーを使っていれば、望遠鏡の代わりになる。

ファインダーに映る映像を見る場合、電子回路は介在しないから、普通の光学センサーと似たようなものである。それに対して、デジタル一眼レフカメラを使って遠方の何かに狙いをつけて、その映像を背面の液晶ディスプレイに表示させると、イメージ・センサーをはじめとする電子回路が介在することになるので、電子光学センサーのようなものである。

赤外線センサー

軍用の光学センサー機器には、もう1つの派閥がある。赤外線センサーである。

普通の光学センサーは可視光線の映像をとらえるが、赤外線センサーはその名の通り、赤外線(infrared)を捉える。そういえば、フィルムカメラの時代にも赤外線に感光する赤外線フィルムというのがあったが、それの電子版が現代の赤外線センサーである。

赤外線誘導の空対空ミサイルだと、当初は赤外線の発信源を「点」で捕捉していた。それでは赤外線の発信源が「ある」「ない」の区別しかつかない。そこで赤外線を検知する素子をたくさん並べると、映像を得られるようになる。

もちろん、素子の数が多くなるほど精細度が増すが、データ量も多くなってしまう。航空機に搭載する目標指示機材(これについては追って取り上げる)の赤外線センサーを例にとると、1,024×768ピクセルぐらいが多い。

ちなみに、赤外線といってもいろいろな種類がある。家電製品だと「遠赤外線」が頻出するが、ミリタリーの世界では波長(wavelength)によって近赤外線、短波長赤外線、中波長赤外線、長波長赤外線、遠赤外線といった区別をつける。

ちなみに、主力は短波長・中波長・長波長だが、それぞれ頭文字をとって「SWIR」「MWIR」「LWIR」と略す。IRはInfrared、つまり赤外線のことで、その前はShort Wavelength / MediumWavelength / Long Wavelengthの略だ。

赤外線映像の場合、波長の違いによって見えるものが違ってくるので、想定している探知目標に合わせた波長の赤外線に最適化したり、複数の波長の赤外線に対応するセンサーを並べたりする。

赤外線センサーは主として、可視光線による探知が成立しない、夜間あるいは悪天候下で活用する。だから「赤外線暗視装置」と呼ばれる種類の製品はたくさんある。

アクティブとパッシブ

電波兵器の世界には「アクティブ」と「パッシブ」の区別がある。レーダーみたいに、自ら電波を飛ばして、その反射波を受信することで探知を成立させるのは「アクティブ」。それに対して、レーダー警報受信機 (RWR : Radar Warning Receiver) やESM(Electronic Support Measures)みたいに聞き耳を立てるだけなら「パッシブ」である。

光学センサーの分野にも、同様の区別がある。

例えば可視光線を使用する場合、ただ見ているだけなら「パッシブ」である。しかしそれでは暗い時に何も見えないので、投光器を使って光源を用意してやる。すると、それが対象物に当たって反射することで「見える」ようになる。これが「アクティブ」。

第2次世界大戦の頃まで、夜間の海戦では「探照灯で敵艦を照射して、発見したところで撃つ」のが基本だった。バリエーションとして照明弾とか星弾とか呼ばれる弾を打ち上げる方法もあり、これを敵艦がいると思われる場所の背後に撃ち込んで炸裂させると、敵艦のシルエットが浮かび上がる仕組み。

照明弾は、燃焼して光源となる「燃料」と、弾をゆっくり落下させるためのパラシュートで構成する。パラシュートがついていないと、たちまち落下してしまって仕事にならない。そこでパラシュートを併用するのだが、光源になれるのは照明弾が空中を落下している間だけ。だから、次々に撃ち込まないと明るさを維持できないのが難しいところではある。

照明弾は陸戦でも使用するが、海の上と違って「シルエットを浮かび上がらせる」という使い方は現実的ではないから、単なる投光器の代わりといえそうだ。投光器と違って電源が要らない利点があるし、砲兵隊に頼んで撃ってもらえばいい。

赤外線でも考え方は同様で、受信専用のパッシブ式赤外線センサーと、赤外線サーチライトを併用するアクティブ式赤外線センサーがある。朝霞駐屯地の陸上自衛隊広報センターに行くと74式戦車が置いてあるが、その74式戦車の砲塔前面についている大きな四角い箱。あれがアクティブ式赤外線暗視装置である。

74式戦車の赤外線サーチライト。使えば確かに夜目が利くが、こちらの存在も暴露してしまうところは探照灯と同じ

また、可視光線の代わりに赤外線を発する赤外線照明弾というものもあるようだ。

ただ、投光器にしても赤外線サーチライトにしても、使用すれば闇夜に提灯。そこで誰かがいてこちらを見ているぞ、ということが敵方にもわかってしまうという重大な欠点がある。ソナーの分野で、潜水艦乗りがアクティブ・ソナーによる捜索を嫌がるのと同じ理屈である。

だから現在の主流は、可視光線にしろ赤外線にしろ、パッシブ探知である。検知するデバイスの進歩と、コンピュータ技術の組み合わせが、使い物になるパッシブ式センサーを生み出した。