アンテナに関する話の締めくくりとして、「でっかいアンテナ」の話をいくつか取り上げてみよう。その昔、「でっかいことは良いことだ」というコピーを掲げたコマーシャルがあったそうだ。一般的な傾向として、「大きい」ということはそれだけで人を引きつける要素になる。

巨大なアンテナ・その1

大きいものが人を引きつけるところは、アンテナの世界も例外ではない。例えば、野辺山にある電波望遠鏡の巨大パラボラ・アンテナ(φ45メートル!)が典型例だが、あれは軍用ではない。

軍用の巨大アンテナ施設として真っ先に連想されるのは、「象のオリ」ではないかと思われる。アメリカ軍がかつて、姉沼通信所(青森県)や楚辺通信所(沖縄県)で運用していたものが知られている。

不鮮明な写真で申し訳ないが、かつて姉沼通信所にあった「象のオリ」。取り壊される前に撮り直しておかなかったことが悔やまれる

これは、短波通信を傍受するための施設である。短波は周波数が低く、波長が長い(周波数3~30MHz、波長10~100メートル)。だから、それに合わせてアンテナ(空中線)も大型化する。しかも傍受施設だから、微弱な電波でも捕捉できるように高い感度が求められる。

そして、発信源の方位を精確に突き止める必要もある。そのために、複数のアンテナを円形に並べてアンテナ・アレイを構成した。個別のアンテナごとに受信機を設置して位相差を調べることで、受信した電波の入射方向を割り出すことができる。

なお、「象のオリ」のうち、周囲を取り巻いている鉄塔とワイヤーはリフレクターで、受信用のアンテナはその内側に配置されている。その受信用アンテナは、担当する周波数帯を分割して複数のものを用意しており、同心円状に配置されている。

つまり、最外縁にリフレクターがあり、その内側に複数の受信用アンテナが同心円状に並んだ、バウムクーヘン状(ドーナツ状?)の配置になっているわけだ。

こちらはアラスカのエルメンドルフ-リチャードソン統合基地にあった「象のオリ」。姉沼にあったものと同じAN/FLR-9 Photo:USAF

日本では、姉沼通信所も楚辺通信所も「時代遅れになった」として運用を停止、後に取り壊されたが、防衛省の通信傍受施設では同種のアンテナを今でも使用している。

もちろん、このことを理由にして「防衛省の通信傍受体制が時代遅れだ」といっているわけではない。傍受の対象となる国や組織が短波通信を多用していれば、「象のオリ」には有用性がある。しかし、短波以外の通信、例えば衛星通信を多用するようになれば、「象のオリ」では対応できないから別の仕掛けが必要になる。そういう話である。

東千歳にある傍受施設のアンテナを民航機から空撮。他所でも似たような施設があるので、空撮写真で探してみるのも面白いかもしれない

巨大なアンテナ・その2

「象のオリ」は鉄塔とケーブルの集合体だが、続いては軍用巨大パラボラ・アンテナの話。といっても、野辺山みたいな電波望遠鏡ではなくて、レッキとしたレーダーのアンテナである。

最近、宇宙ゴミ(スペースデブリ)という言葉を耳にする機会が多くなった。衛星の破片など、人為的に生成された周回軌道上のゴミを指す総称である。これが衛星にぶつかれば損傷は免れ得ないし、そうなると高価な衛星は役立たずになり、その衛星に依存しているサービスは使えなくなる。

そこでSSA(Space Situation Awareness)と題してスペースデブリの動向を継続的に監視する話が出てきた。監視の手段としては望遠鏡とレーダーがあるが、レーダーを使用する計画のひとつが、アメリカ空軍の「スペース・フェンス」である。

そのスペース・フェンス計画で使用するレーダーがタダモノではない。マーシャル諸島のクエゼリン環礁に設置する、ゼネラル・ダイナミクスSATCOMテクノロジーズ社製のアンテナは、「高さは12m、面積はNBAのバスケットボール用コート2面分」という規模だそうだ。

バスケットボールのコートは28m×15m。それの2面分ということは、単純計算で30m四方に近いことになる。もっとも、スペース・フェンスのアンテナは広い範囲をカバーする方が重要だから、正方形ではなく細長いアンテナかもしれない。

このアンテナ、メーカーで仮組みしてからバラして現地に搬入したが、輸送した部材の重量が7万ポンド(約32トン)あったそうだ。

巨大な電波反射装置の正体は?

昨年、ロッキードU-2偵察機に関する本の一部を担当する機会をいただいた。これは平時にソ連の上空に領空侵犯して重要軍事施設などの写真を撮ってきてしまえ、という乱暴な計画のために作られた偵察機だ。ところが、ソ連軍のレーダーと地対空ミサイルによって探知・撃墜される事件が発生して、以後の領空侵犯は沙汰止みになった(筆者が書いたのは、この事件の話)。

そのソ連軍の早期警戒レーダーの1つが、P-14「トール・キング」というVHFレーダー。探知可能距離は400kmぐらいある。このレーダーに関する情報を得るために、レーダーが出している電波を傍受したいという話が米中央情報局(CIA : Central Intelligence Agency)で持ち上がった。

これは、U-2の後継機として開発が進んでいたA-12(三角形のステルス攻撃機ではなくて、後のSR-71ブラックバードのほう)が領空侵犯偵察飛行を行う際の脅威要因になる、と考えられたため。もっとも実際には、SR-71がソ連の領空を侵犯したことはなかったが。

そこで、ソ連防空軍のレーダー基地と地対空ミサイル基地の所在を突き止める計画の一環として、トール・キングの電波を傍受する手段を用意することになった。相手のレーダーが海岸線や国境線の近くにあれば話は簡単だが、それができない。そこで考え出された手が、これだ。

「月面にぶつかって反射してくる電波を受信する」

冗談ではない。「少なくとも日中であれば、トール・キングが出した電波は月面まで到達して反射してくる」という判断の下、その反射波を受信するための施設が、ニュージャージー州のムーアズタウンに作られ、直径60フィート(約18メートル)のパラボラ・アンテナと高感度の受信機が据えられて、月からの反射波を狙ったそうである。

それにしても、月とはまた巨大なアンテナ……もとい、反射鏡である。

余談だが、ムーアズタウンにはイージス戦闘システムの陸上試験施設があり、実艦に搭載しているものと同じフェーズド・アレイ・レーダーを据え付けた建屋があることから、「トウモロコシ畑の巡洋艦」と呼ばれているそうだ。