前回、艦載電子戦装置の写真を掲載した。空の上では、戦闘機は戦闘機、電子戦機は電子戦機、と役割分担するのが普通だが、艦艇はさまざまな種類の電測兵装を一緒くたに積み込まなければならない難しさがある。つまり、レーダー、通信、電子戦などといった具合であり、しかもそれぞれが1種類では済まない。

設置するアンテナがたくさんある

実は飛行機にも共通する話だが、さまざまな種類のアンテナを同じプラットフォームに搭載しなければならない場合に、設置場所を決めるのはとても難しい作業。

なぜかというと、アンテナが何かの影になって電波の送受信を阻害するようになってはいけないからだ。さまざまな種類の電波が飛び交うので、それらが互いに干渉してもいけない。そしてもちろん、重量バランスのことも考えなければならない。

飛行機は空力的な要求も付いてくるので、これはこれで難しいのだが、艦艇だって負けては(?)いない。狭いスペースに多数のアンテナを設置する必要がある。しかも、高い場所の奪い合いが発生する。

飛行機は空を飛ぶものだから、もともと高い場所にいて、そこに取り付けたアンテナは何かの影にならない限りは広いカバー範囲を確保できる。ところが、艦艇は水面上にいるものだから、アンテナの設置位置が低いと、カバーできる距離が短くなってしまう。地球が丸いので、そうなる。

特に問題になるのがレーダーだ。当然ながら、高いところにある方が水平線が遠くなって、その分だけ覆域が広くなる(ここでは、送信出力やアンテナ利得の話は措いておくことにする)。

そして、艦艇が搭載しなければならないレーダーは1つではない。対空捜索レーダーもあれば、対水上レーダーもある。対水上レーダーと航海用レーダーを別々に搭載することも多い。そして、覆域が広いに越したことはないから、どのレーダー・アンテナも高いところに行きたがり、場所の奪い合いが発生する。

高所の奪い合いになる理由

というだけでは説得力がないから、いくつか数字を出してみよう。

高度5mのところを飛翔する対艦ミサイルがあったとする。それをどれぐらいの距離で探知できるか。レーダーのアンテナ設置位置が海面上5mなら18.2kmだが、10mに高めると22.0km、20mに高めると27.3kmに伸びる(ここでは、分解能の高低や海面反射除去の話はおいておくことにする)。

参考 : レーダーの仕組み | フルノのテクノロジー https://furuno.co.jp/technology/about/radar1.html

その対艦ミサイルの飛翔速度が時速900km(秒速250m)なら、アンテナ高さが5mの場合と20mの場合の探知可能距離の差(27.3-18.2=9.1km)は、飛翔時間に直すと36.4秒の差。つまり、レーダーのアンテナ設置位置を5mから20mにすると、発見して対応行動をとるための余裕時間が36.4秒増える計算になる。

そういう事情があるので「アンテナが高いところに行きたがる」のだが、大きく、かつ、重いアンテナを高いところに据え付けようとすれば、艦の重心が上がってしまう。また、そのアンテナを支える構造物が大きく、重くなるので、艦全体の重量も増やすし、さらに重心を上げる悪影響にもつながる。

そこで一般的には、小型で軽いTACAN(Tactical Air Navigation, UHFを使用)やデータリンクのアンテナは上の方に配置して、その下に対水上レーダーや航海用レーダーといった小型のレーダー、その下に大きく重い対空捜索レーダーを据え付けて、電子戦装置は上構の左右両舷、という配置をとる事例が多い。妥協の産物である。

海上自衛隊の護衛艦「おおなみ」のマスト。OPS-24対空捜索レーダーはマスト中断に設けたプラットフォームの上に載せている。その右斜め下にあるのが電子戦装置、左斜め下にあるお皿は射撃管制レーダー

しかし例外もあって、大きな対空捜索レーダーのアンテナを最上部に配置した例もある。

中国海軍の江凱(ジャンカイ)II型フリゲート。対空三次元レーダーをマストの最上部に近いところに配置した一例

艦艇用アンテナの課題

ところが、艦載レーダーにはさらに別の悩みがある。

海の上に浮かんでいるフネは、当然ながら揺れる。フネが揺れれば、そこに搭載しているレーダーのアンテナも揺れる。レーダーは「反射波が入ってきた方向 = 探知目標がいる方向」だから、受信した反射波の方向を漫然と探知目標の方向ということにしてしまうと、フネが揺れた状態では精確な探知はできない。

では、揺れるプラットフォームの影響をどうキャンセルするか。そこで考えられた方法は2種類あって、機械的にアンテナを安定化させる方法と、揺れを検出してシグナル処理の段階で揺れの影響をキャンセルする方法だ。

機械的にアンテナを安定させる方法はわかりやすい。例えば、フネが右に5度傾いたら、それを打ち消すためにアンテナを左に5度傾ければよろしい。

では、シグナル処理によってキャンセルするとはどういうことか。例えば、フネが右に5度傾いた状態であれば、アンテナの回転面(ここでは回転式アンテナを使うレーダーだということにしておく)が右に5度傾くわけだから、アンテナが向いている方向に応じて、ズレの量を計算できる(三角関数の問題である)。

その数字に基づいて、探知距離の方位に関する情報を計算し直す。これも三角関数の問題である。2次元レーダーなら方位だけ計算し直せばよいが、3次元レーダーだと高度も計算し直さなければならない。

ただ、コンピュータの処理能力が向上している昨今であれば、機械的にアンテナを安定化させるよりも、計算処理で解決する方が実現しやすく、かつ信頼性が高いと思われる。

ステルス・マスト

ここまでは非ステルス艦の話だったが、艦艇にもステルス性を持たせたいという要求が強まってきたため、従来のように「マストを立てて、その途中に架台を設けてアンテナを載せる」というわけにも行かなくなってきた。

折から、フェーズド・アレイ・レーダーという便利なものが登場したので、これを上部構造物の表面に埋め込んでしまえば、真っ平らになって凸凹が減るのでステルス性の観点からいって有利、という話になった。

それを突き詰めたのが米海軍の新型駆逐艦「ズムウォルト」、通称「ズムさん」である。1~2番艦は炭素繊維複合材、3番艦は鋼材で造った巨大な上部構造物の表面に、対空捜索レーダー、対水上レーダー、通信用アンテナ、電子戦装置のアンテナ、といったものをみんな平面アンテナにして埋め込んでしまった。

米海軍の新型駆逐艦「ズムウォルト」。のっぺりした上部構造の表面に、レーダー、電子戦、通信などのアンテナが埋め込まれている Photo : US Navy

そこまで極端でなくても、もっと普通の形をした上部構造物の上に平面構成の塔型マストを立てて、そこに平面アンテナを埋め込んだ事例もある。オランダ海軍のホランド級哨戒艦が装備しているタレス社製のI-Mastが典型例。

また、塔状のカバーの中にアンテナを収納する事例もある。米海軍のサンアントニオ級ドック型揚陸輸送艦が装備するA/EMS(Advanced Enclosed Mast/Sensor)など、導入事例が増えつつある。

5月に就役したばかりの、シンガポール海軍の新型哨戒艦「インディペンデンス」。円錐形の構造物の中にタレス製のNS100レーダーを収めてある。アンテナは回転式だが、外から見てもわからない