今回は特別編として、「弾道ミサイルの探知」を取り上げてみようと思う。北朝鮮が弾道ミサイルを撃つ度にニュースになるが、なぜ弾道ミサイルの発射がわかるのか、それを監視しているのは誰で、どういうシステムに依っているのか、という話だ。

なぜ発射がわかる?

4月15日に北朝鮮が弾道ミサイルを発射して失敗したが、その際にアメリカの国防総省が「発射したが、直後に爆発した」と発表した。これに限らず、北朝鮮が弾道ミサイルを発射すると、必ず何かしらの発表がある。

これは、射点の近くにスパイを常駐させて情報を送ってきている……のではない。別の技術的探知手段がいろいろあるのだ。

ミサイル防衛の指揮統制を受け持っている組織は、米北方軍(USNORTHCOM : US Northern Command)の指揮下にある北米航空宇宙防衛司令部、いわゆるNORAD(North American Aerospace Defense Command)。これはアメリカとカナダの合同組織で、アメリカ本土に飛来する爆撃機も弾道ミサイルも、ひっくるめて防衛の対象としている。

そして、防衛手段の一環として弾道ミサイル防衛システム(BMDS : Ballistic Missile Defense System)を構築している。BMDSは探知・追尾・迎撃に関わるすべてのシステムの総称で、そのうち指揮統制の部分を担当するシステムをC2BMC(Command and Control, Battle Management, and Communications)という。これについては本連載の第7回でも言及したことがある。

では、C2BMCの「眼」となる機材にはどんなものがあるか。

探知の眼(1)早期警戒衛星

まず「探知の眼」の筆頭に挙げられるのが、本連載の第126回で取り上げた早期警戒衛星だ。ミサイル発射の際に発生する赤外線を探知するもので、米軍の場合、DSP(Defense Support Program)から新型のSBIRS(Space Based Infrared System)に代替わりを進めている。

DSPは赤道上に位置する静止衛星だけだったが、SBIRSは静止衛星のSBIRS-GEO(SBIRS Geosynchronous Earth Orbit)と、周回衛星のSBIRS-HEO(SBIRS Highly Elliptical Orbit)の2本立てとしている。狙いは、高楕円軌道を周回するSBIRS-HEOの導入によって北極・南極に近いエリアの監視能力を強化すること。

SBIRS-GEO(SBIRS Geosynchronous Earth Orbit) Photo:ロッキードマーティン

SBIRS-GEO(SBIRS Geosynchronous Earth Orbit) Photo:Missile Defense Project

ロシアのミサイル原潜、特に北洋艦隊の艦はコラ半島を拠点としてバレンツ海や白海を主な行動エリアにしているし、ロシア本土から発射された弾道ミサイルがアメリカ本土に飛来する場合、それは北極の上空を通過してくると考えられる(地球儀を真上から見てみよう)。だから極地に対する監視の眼も、あるに越したことはない。

そしてDSPもSBIRSも、弾道ミサイルの発射によって発生する赤外線を探知したら、ただちにその情報をC2BMCに送る。発射の第一報を知らせるのが、これらの衛星である。

C2BMCの管制室。情報の大画面ディスプレイだけ見ていると「地球防衛軍」っぽくもある Photo:MDA

探知の眼(2)Xバンド・レーダー

ただし、赤外線センサーを使用する衛星は、「弾道ミサイルが発するもの」と明確に識別できる赤外線が出ていなければ、探知・追尾を行えない。弾道ミサイルは所定の速力まで加速するとエンジンの燃焼を止めてしまうから、排気炎が発する赤外線を追うだけでは失探してしまう可能性がある。

また、多段式の弾道ミサイルは最終的に小さな再突入体だけになるから、それを精確に追尾できなければ困る。目標が小さく、しかも速力が速いので、尋常な探知手段では対応できない。

そこで登場するのが、高い分解能と長い探知距離を両立させたXバンド・レーダーだ。陸上配備型はレイセオン社製のAN/TPY-2で、周波数でいうと8~12GHz、波長でいうと25~37mmの電波を使用する。日本でも、青森県の車力と京都府の経ヶ岬に配備されており、米軍が運用している。

AN/TPY-2のアンテナ本体は全長12.34メートル、全幅2.44メートル、全高2.62メートル、重量34トンというから、大型バスぐらいのサイズである。一端に車輪が付いており、反対側は牽引車につないで移動する。同伴する電子機器用トレーラーや冷却機器用トレーラーのサイズも、ほぼ同大。電源車の出力は1.3メガワット(!)

これはアクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーで、ガリウム砒素(GaAs)半導体の送受信モジュールを使用している。先日、これを窒化ガリウム(GaN)半導体に変更する作業の契約を発注していたので、おいおい実現することになるだろう。

AN/TPY-2はTHAAD(Terminal High-Altitude Area Defense)の射撃管制レーダーでもある。当初はTHAAD用の射撃管制レーダーがAN/TPY-2、弾道ミサイルの探知・追尾用がFBX-T(Forward Based X-Band Transportable)と、別物として扱われていた。FBX-Tを日本語にすると「前方展開型・可搬式Xバンド・レーダー」となるが、ここでいう前方展開とは、弾道ミサイルの予想発射地点に近いところまで進出して警戒監視にあたるという意味だ。

基本的に同じハードウェアなのに、2種類のモデルがあるのは面倒だ。そこで後日の改良により、THAADの射撃管制(ターミナル・モード)と、前方展開探知(フォワード・ベースド・モード)を、ソフトウェアの入れ替えだけで切り替えられるようにした。

ターミナル・モードの探知距離は1000km程度、フォワード・ベースド・モードの探知距離は4000km以上と言われる。そこで、経ヶ岬を中心にして半径1,000kmの円を描くと、北朝鮮のほぼ全域をカバーできることがわかる。ただし、これらの探知距離は公式に発表された数字ではない。

なお、レーダーの設置位置は地上であり、水平線より下に隠れている目標は探知できない。発射されたミサイルが上昇して、水平線から姿を見せなければ探知できない点に注意する必要がある。ざっと計算してみたところ、海面高度30mのところに設置したレーダーが1,000kmの距離で探知できる目標の高度は、約76kmがミニマムである。だから、最初に発射を知る手段は衛星ということになる。

参考 : The AN/TPY-2: A Bus-sized Radar That Rolls Like ATruck And Sees Like A Hawk