今回も、レーダーのアンテナに関する話の続きである。前回はレーダー用アンテナというと連想されやすいリフレクタ・アンテナの話だったが、実のところ、それ以外のタイプのアンテナも多い。まずは身近なところでも見かける機会がある八木アンテナから。

八木アンテナ

最近では見かける機会が少なくなったが、リフレクタ・アンテナやアレイ・アンテナ以外にも、いろいろなアンテナがレーダーに使われている。たとえば、八木アンテナ(八木・宇田アンテナ)、あるいはそれに似た形状のもの。

八木アンテナは複数の棒を並べた構成になっているが、実際に送受信に使用する輻射器は、そのうち1つだけ。一端に「く」の字型に付いているのは反射器で、リフレクタ・アンテナの反射器と同じ働きをする。その反対側に並んでいるのは導波器で、これらの組み合わせによって指向性を持たせている。指向性があるからレーダーに使える。

八木アンテナというと、かつてはテレビ受像器と組み合わせるアンテナの定番で、建物ごとに屋根の上に八木アンテナを立てている光景はおなじみのものだった。そういえば、最近はテレビ用の八木アンテナを見かける機会が減ったような気がする。

レーダーの場合、八木アンテナを単体で使用するのではなく、複数まとめる場合もある。その一例が海上自衛隊で使っている国産レーダー・OPS-11。格子状の枠に複数の八木式ダイポール・アレイを組み付けた構成だ。

アレイを構成するアンテナの数は28本で、4段×6列と、左右の外側に2本・1列ずつとなっている。現物の写真を見ると、なるほど「八木アンテナを束ねて枠に取り付けた」という風体をしている。

護衛艦「はたかぜ」のOPS-11レーダー。一見すると何がなんだか分からないが、手前側にある枠に多数の八木アンテナを取り付けた構成である

スロット・アンテナ

艦艇の対水上レーダーなど、2次元レーダーで見かけることが多いタイプが、スロット・アンテナ。四角い断面を持つ導波管(電磁波が中を通る管)、あるいは金属板を水平に設置して、一方の側面にスロットを開ける。そのスロットを設けた側からだけ電波が出入りする。スロットの長さは、使用する電波の波長の半分だ。もっとも、外からスロットが見えるわけではない。

護衛艦「はたかぜ」のOPS-28レーダー。最近の対水上レーダーは、こういう外見の持ち主が多い

ホーン・アンテナ

第2次世界大戦中に日本で造られたレーダーの写真を見ると、ラッパみたいな物体が出てくることがある。それがホーン・アンテナ。ラッパ状のホーンが長くなると、指向性が強くなる。近年のレーダーでこれを使っているものは見かけないが、電子戦装置で使っている事例があるようだ。

3次元レーダーとスロット・アレイ・アンテナ

先に名前が出てきたOPS-11は、2次元の対空捜索レーダーだ。

前回にも述べたように、対空捜索用のレーダーには「距離・方位に加えて高度を測定する機能が欲しい」というニーズがある。捜索の対象は空を飛んでくるものであり、それがどの程度の高度をとってくるかはわからないからだ。

だから初期の対空捜索レーダーでは、捜索レーダーとは別に測高レーダーを用意していた。しかしそれでは、2基のレーダーから得られるデータを突き合わせないと必要な情報がそろわない。1基のレーダーで方位・距離・高度がすべてわかるほうがありがたい。それを可能にしたのが、前回にも名前が出てきた3次元レーダーだ。

高度を知るには、探知目標の仰角を知る必要がある。それにはレーダー電波を上下に振る仕組みが必要になる。機械的に旋回・俯仰の両方を作り込むのは無理な相談だが、ビームを上下方向に振る仕組みができれば、機械的な動作はアンテナの回転だけで済むから現実的だ。

アンテナを回転式として、上下にだけ電波を振ればよいのであれば、スロット・アンテナを上下に積み並べたタイプでも使える。これは、フェーズド・アレイ・レーダー(これは次回に取り上げる)が出現する前の主流だった。米海軍のAN/SPS-48シリーズが典型例で、並べたスロット・アンテナごとに送信する電波の位相をずらすと、結果として電波を送信する向きが変わる。

空母「ロナルド・レーガン」のSPS-48レーダーを背面から撮影したもの。外見は四角いが、縦に並べたスロット・アンテナは八角形になっている様子が見て取れる

戦闘機はプレイナー・アレイ・アンテナ

スロット・アレイ方式は、艦載用の対空3次元レーダーで使われたが、戦闘機のレーダーでは別の方法が主流になった。それがプレイナー・アレイ・アンテナ。その名の通り、平面型のアンテナである。

これは、1つの送信機から円盤形アンテナの各所に向けて枝分かれさせた導波管を設けて、複数の場所からそれぞれ異なるタイミングで送信できるようにしたもの。1970年代以降に登場した戦闘機の射撃管制レーダーでは、最もポピュラーな方式だろう。

スロット・アレイ・アンテナと同様、1つの平面に複数の送受信用素子を設けた形になる。だから、素子ごとの送信タイミングをずらすことで、発生する合成波の向きを変えられる。その辺の考え方は、次回に取り上げるフェーズド・アレイ・アンテナと同じだ。

過去の3次元レーダーで使われたFRESCAN

時系列が前後するが、スロット・アレイ式の3次元レーダーが登場する前に、フレスキャン(FRESCAN : Frequency Scanning)方式の3次元レーダーもあった。

FRESCANを日本語に訳すと、周波数走査となる。これだけではチンプンカンプンである。しかし、周波数が異なる電波を「よーいドン」で並べてみると、それぞれの電波の位相がずれることは容易に理解できると思う。

さて。FRESCAN方式を使用した3次元レーダーとしては、アメリカ海軍のAN/SPS-39が知られている。いまどきの3次元レーダーは平面構成のアンテナだが、AN/SPS-39は割竹みたいな、円筒形(を切り出した形)のリフレクターを使っていた。その曲面のリフレクターの中心に、電波を放射する複数のホーンがズラッと並んでいる。それぞれのホーンは送信機につながっており、開口部はもちろんリフレクターの方を向いている。

1つの送信機から縦に複数並んだホーンに向けて電波を送るので、送信機とホーンの距離は、ホーンごとに異なる。ということは、ホーンからリフレクターに向けて吹き付けられる電波の位相が、ホーンごとにずれることになる。位相が異なる複数の電波が吹き付けられると、アレイ・レーダーと同じ要領で、どこか特定の向きに合成波が出る。

そこで、送信機から出す電波の周波数を変えた時に、個々のホーンからリフレクターに吹き付けられる電波の位相がどう変わり、それによって合成波がどちらに向くか、という関係性を割り出した。それができれば、あとは合成波が上下に振れるように周波数を変化させながら送信機を作動させればよい。

回転式アンテナを持つ他の3次元レーダーと同様、電波を電気的に振らなければならないのは上下方向だけである。水平方向についてはアンテナを回転させて走査する。

アメリカ海軍のミサイル駆逐艦「チャールズ F.アダムス」。後部煙突の前面・頂部付近に載っている割竹みたいな物体が、AN/SPS-39レーダー Photo : US Navy