前回は総論だったが、今回からは分野別(用途別)に、実際にどんなアンテナが使われているか、という話を書いてみよう。登場した順番からすると通信のほうが先だが、「華」がある話題ということで(?)レーダーの話を先に取り上げる。

レーダーによる探知

いまさら説明するまでもなかろうが、レーダーは電波を使って空中の目標を探知する機器である。ちなみに、水中では電波が透過しないので使えない。

送信した電波が何かに当たって返ってきた時に(これを後方散乱という)探知が成立する。送信から受信までの所要時間を2で割ると、送信した電波が探知目標に到達するまでの時間がわかるので、それと電波の速度(秒速30万km)に基づいて距離を計算できる。

だから、レーダーは基本的にパルス波、つまり間欠的な送信を行う。電波を短時間だけ出して、反射波が戻ってくるかどうか聞き耳を立てて……というサイクルの繰り返しだ。

では、方位はどうするかというと、送信・受信を行ったときのアンテナの向きから判断することができる。ということは、レーダーで使用するアンテナには指向性がなければならない。

特定の方向にだけ電波を出して、特定の方向から来た電波だけを受信するのでなければ、探知目標の方位を精確に割り出すことができない。言い換えれば、四方八方に均等に電波を出す無指向性(omnidirectional)アンテナはレーダーに使えないことになる。

用途・機能の違いとアンテナの選択

レーダーの用途によって、求められる機能に違いが生じる。捜索・監視用のレーダーであれば、全周を均等に見る必要がある。しかし用途によっては、特定の方位だけをカバーできれば済む場合もある。旅客機の機首に付いている気象レーダーや、ミサイル誘導用のレーダーがそれだ。当然、カバーする範囲の違いはアンテナの種類にも影響する。

なお、対空用レーダーの場合、方位と距離だけでは話が済まない。空を飛ぶ物体の高度はさまざまだから、もしも可能であれば高度まで知りたい。

そこで3次元レーダーというものが登場した。受信した反射波の仰角を調べて距離の情報を加味することで、目標の高度を計算するレーダーである。単純に考えればsin関数の問題だが、遠距離になると地球の丸みを計算に入れなければならないので、話はいくらか複雑になる。

3次元レーダーを実現するには、上下方向にビームを振る仕組みが必要になるので、これもアンテナの選択に影響する。

海上自衛隊の汎用護衛艦で広く使われているOPS-24対空3次元レーダー。上下方向の捜索はビームの向きを変える方法で、水平方向の捜索はアンテナ自体の回転によって行う

一方、海面上を捜索するレーダーであれば、相手は海面という単一平面の上にいるという前提だから、距離と方位だけわかればよい。いわゆる2次元レーダーで、こちらのほうがシンプルだ。どっちみち水平線より向こう側は見えないのだから、カバーすべき距離はさほど大きくならない。

なお、2次元レーダーと2次レーダーは別物である。2次レーダーとは、電波で誰何して応答を受け取る機器のことで、機能も動作内容もまるで違う。軍用レーダーで敵味方識別に用いるIFF(Identification Friend or Foe)は典型的な二次レーダーだが、民間機では敵味方識別の代わりに便名などの情報を送ってくる。

おなじみ「FlightRadar24」で表示している便名などの情報も、二次レーダーによって得られたものであるかもしれない。最近はADS-B(Automatic Dependent Surveillance - Broadcast)を使う方が多いかもしれないが。

リフレクタ・アンテナ

リフレクタ・アンテナとは、反射器に輻射器から電波をぶつけて反射させる形で送受信を行うアンテナの総称だ。使用する反射器の形状により、パラボラ・アンテナ、カセグレン・アンテナ、成形ビームアンテナ、といった分類がある。

そのうちパラボラ・アンテナとは、放物曲面を持つ反射器を使用するもの。指向性が強いところはレーダーに向いている。パラボラ・アンテナ以外にも反射器を持つアンテナがいろいろあるので、「反射器がある = パラボラ・アンテナ」とは限らない。

昔は対空捜索レーダーでもリフレクタ・アンテナが多用されたが、近年の軍用レーダーでは艦載用のミサイル誘導レーダーぐらいだろうか。ミサイル誘導レーダーとは別に捜索レーダーがあり、捜索レーダーが捕捉した目標の中から交戦の対象を選び出す。その情報をミサイル誘導レーダーに送り、ミサイル誘導レーダーを指示された目標に指向して、追尾やミサイルの誘導を行うわけだ。

このような動作をするから、ミサイル誘導レーダーには広範囲を捜索する能力は求められない。その一方で、目標を捕捉・追尾したり、誘導用の電波照射を行ったりする場面で高い精確さが求められるので、高い周波数の電波(その方が分解能が高い)と、指向性が強いアンテナの組み合わせが必要になる。

リフレクタ・アンテナの殿堂(?)とでも言えそうなのが、旧ソ連で開発されたM-1ヴォルナ艦対空ミサイル・システムだ。使用する射撃指揮装置はNATOコードネームを「ピール・グループ」というが、縦長のリフレクタを持つアンテナと横長のリフレクタを持つアンテナが並んでいる複雑な構成だ。前者は上下方向、後者は水平方向を受け持つのだろうと推察される。

M-1システムで使用するミサイルは指令誘導方式なので、目標を追尾するためのレーダー、それに向けて発射したミサイルを追尾するレーダー、そしてミサイルに指令を送るためのアンテナが必要になる。それらをひとまとめにして旋回・俯仰が可能な形にしたら、こんなものができあがってしまった。

インド海軍のラージプート級駆逐艦が装備する、M-1ヴォルナ(SA-N-1ゴア)艦対空ミサイル用の「ピール・グループ」ミサイル誘導レーダー。リフレクタが真円ではなく楕円なのは、上下方向と水平方向で別々のアンテナを用意している関係だろう

サーチ・パターンとアンテナの関係

レーダーの探知精度(分解能)は、ビームが細く、パルスが短い方が優れている。しかし、細いビームで広い範囲を捜索しようとすると、ビームを振って回らなければならない。

後の回で取り上げるように、アンテナを動かさないでビームの向きだけを変えられるアンテナもあるが、分かりやすいのはアンテナの向きを変えてビームの方向を変える方法だ。では、どういう形でビームを振って走査するか。

例えば、戦闘機の機首に付いている射撃管制レーダーは、捜索用のレーダーも兼ねている。捜索モードにセットした場合には広い範囲を捜索しなければならないから、スパイラル・スキャン、あるいはバー・スキャンといった方法を使う。

スパイラル・スキャンは、どちらかというと昔の戦闘機が使っていた方法で、前方の空間を螺旋状に走査する。この方法を使う戦闘機用レーダーは、パラボラ・アンテナを使っていたようだ。

捜索して目標を捕捉したら、交戦対象となる探知目標を選び出して、ロックオンする。すると、指示された目標だけを連続的に追尾するパターンに移行する。そこで登場するのがコニカル・スキャンで、狭い範囲に的を絞り、指示された目標だけを捜索・追尾する。その際のビームの範囲が細長い円錐形になるので、この名称がある。

対するバー・スキャンは、水平の「バー」を単位にして、右から左、あるいは左から右に向けて走査して、それを上下方向に積み重ねる。CRTディスプレイのラスター・スキャンと似ている。1970年代以降に登場した戦闘機用レーダーはたいてい、平面上のプレイナー・アレイ・アンテナを使っていて、バー・スキャンを行う。

目標を捕捉して追尾モードに移行したら、指示された目標に的を絞って狭い範囲だけを捜索するのは、こちらも同じだ。