あまり遠い国の話ばかり書いていると「身近に感じられない」と言われそうなので、今回は手近なところで、航空自衛隊などのF-15を対象とするアップグレード改修についてまとめてみた。

アップグレードするところ、しないところ

航空自衛隊のF-15Jに限らないが、戦闘機のアップグレード改修で飛行性能の向上を図る事例は少ない。エンジンを改造あるいは交換する場合でも、主眼は信頼性・安定性の向上や運用に際しての制限緩和であって、パワーアップは二の次だ。

もう戦闘機の飛行性能は行き着くところまで行き着いてしまっており、これ以上の性能向上を図っても「出る幕がない」「効果の割に費用がかかりすぎる」ということが多いためだ。一方で、コンピュータやセンサーやネットワークの分野は進化が著しいし、しかもそれは現在進行形。だから、そちらに重点を置くのは必然である。

F-15は現在でも高い水準の機動性を備えた戦闘機と言えるが、それはあくまで「飛行機」としての話であり、「武器」としての話になると事情が違ってくる。

戦闘機には、敵機・味方機の所在を正確に把握する状況認識能力や、敵機を正確に識別・捕捉して交戦する能力が求められる。つまり、優れた探知能力を実現するために、耐妨害性に優れたレーダーや、その他のセンサーが欲しいという話になる。

また、高性能・高機能の兵装が新たに登場すれば、搭載機の側でもそれに対応する必要がある。F-15Jの場合、もともとAIM-9サイドワインダー(赤外線誘導の格闘戦用)とAIM-7スパローIII(レーダー誘導の長射程用)を使っていたが、さらに国産空対空ミサイルが戦列に加わった。AIM-9の後釜が90式空対空誘導弾(AAM-3)と04式空対空誘導弾(AAM-5)、AIM-7の後釜が99式空対空誘導弾(AAM-4)である。

最近になって話題になっているのは近代化改修機だが、これは後期調達分の機体を対象として、レーダーの換装、データリンク機器の追加、電子戦装備の強化などを図っているもの。つまり「腕力」ではなく「眼」と「頭脳」と「耳」の強化である。

これはF-15Jの近代化改修機だが、未改修機との外見の差異はごく僅かで、「いわれて初めてわかる」レベルである。しかし、中身はかなり手が入っている

Pre-MSIPとJ-MSIP

F-15J/DJには、「Pre-MSIP」と「J-MSIP」という2種類の区別がある。J-MSIP機では、セントラルコンピュータの換装、MIL-STD-1553デジタルデータバス(要するに機内LANみたいなもの)の搭載、電子制御型エンジンF100-IHI-220Eへの変更、J/APQ-1後方警戒レーダーの追加、といった変更点がある。

このJ-MSIP機が近代化改修の対象で、主な眼目は以下の通り。1機当たりの改修費用は19億円ほどの費用がかかっている。

  • セントラルコンピュータの換装による、処理能力と記憶容量の強化
  • レーダーをAN/APG-63からAN/APG-63(V)1に換装
  • 発電機を50kVAから75kVAに増強、空調装置も強化
  • AAM-4Bの運用能力付与
  • 通信機の耐妨害性向上
  • ヘルメット装備サイトの導入
  • MIDS-LVT(3)の搭載によるLink 16データリンクへの対応

すでに改修作業はかなり進んでおり、最終的には4個飛行隊分が出そろう予定になっている。ただ、そこにあれば、みんな能力向上型の機体に乗りたいだろうし、緊張感が高まっている(つまり多忙な)南西方面に集中配備していることから、飛行時間が伸びるペースがかなり速いらしい。ひょっとするとそのうち、機体構造の補修・補強が必要にならないだろうか?

改修で得られるメリット

レーダーの換装には性能の向上だけでなく、使用しているパーツがディスコンになって入手が困難になる問題への対処という意味がある。ただ、AN/APG-63(V)1も依然として機械走査式のレーダーだから、大きなブレークスルーが生じたかというと、そうとはいいがたい部分がある。

米空軍では、F-15Cが搭載する機械走査式レーダーを電子走査式レーダー、いわゆるAESA(Active Electronically Scanned Array)レーダーのAN/APG-63(V)3に換装する作業を進めている。日本もこの先、F-15Jをしばらく使い続けるのであれば、この後を追う必要が生じるかも知れない。

「国際航空宇宙展2016」でレイセオン社が展示していた、AN/APG-63(V)3レーダーの模型。右側にあるのは従来の機械走査型アンテナで、アンテナの向きを変えながら走査する。左側にあるのはAESA型アンテナで、平面アンテナの固定式

データリンク機能の追加も、まあわかりやすい。これまでは地上のレーダーサイト、あるいはE-2C早期警戒機やE-767 AWACS(Airborne Warning And Control System)機の管制員から口頭で情報を教えてもらっていたが、データリンクがあれば敵情に関するデータが直に送り込まれてくるので、頭の中で状況を組み立てる負担を軽減できる。

ただし、状況をコンピュータで組み立てることができたとしても、それをパイロットにどう提示するかという課題が残る。だから理想を言えば、グラスコックピット化を推し進めて、大画面の多機能ディスプレイ(MFD : Multi Function Display)に敵味方の位置関係をリアルタイム表示できるぐらいでないと、宝の持ち腐れになりかねない。

では、兵装の新型化はどうか。実は、ただ単に「新しいミサイルを積めるようにします」というだけの話では済まない。AAM-4なら指令誘導送信機の追加が必要になるし、AAM-5ならヘルメット装備サイトの追加が必要になる。

もともと赤外線誘導のミサイルは先端部にシーカーが付いているから、見える範囲は前方だ。その範囲を拡大するのが最近のトレンドで、側方や斜め後方に向けて赤外線誘導ミサイルを撃てるようにする流れがある。レーダー・アンテナは機首に付いているから、これでは側方や斜め後方はカバーできない。

そこで、ヘルメットに照準装置(サイト)を組み込み、パイロットが敵機のほうに頭を向けて視界に入れるとともに、目標を捕捉する。その情報をミサイルに送り込んで撃つ。こうすることで交戦可能範囲を広げるという話になる。そこでヘルメット装備サイトの追加が必要になるわけだ。

その手の製品としては、米軍で使っているJHMCS(Joint Helmet Mounted Cueing System)が知られている。

ちなみに、日本でF-15Jの改修対象をJ-MSIP機に限定したのは「MIL-STD-1553Bデータバスが載っているのがJ-MSIP機だけだから」という理由だが、ブラジルではF-5戦闘機の近代化改修に際して、MIL-STD-1553Bデータバスを追加する改造をやっている。いいとか悪いとかではなくて、「そんな事例もありますよ」ということで。