IED(Improvised Explosive Device)のところでも少し触れたが、砲弾や爆弾を起爆させるには信管が必要である。これが実は、電子化・ハイテク化が進んだ分野の1つである。ちなみに、信管は英語で「fuze」という。電気製品に付いているヒューズと同じ単語だ。

信管の種類

信管は砲弾や爆弾を起爆させるものだから、どういう原理で、あるいはどういうタイミングで起爆させるかによって、種類が分かれる。大きく分けると、以下のようになる。

撃発信管

着弾して何かにぶつかると起爆する。最もわかりやすいタイプの信管。砲弾・爆弾・魚雷のいずれでも使っている。

近接信管

信管から指定した範囲内に、何かがいることを検知すると起爆する。電波を発信して、それが周囲の何かに当たって反射してきた時に、反射波を検知して作動する仕組み。主として対空射撃で使用するが、対地射撃で使うと空中炸裂させることができる。発信から反射波の受信までにかかる時間を閾値に設定することで、有効範囲を加減できる。

時限信管

発射から一定の時間が経過したら作動する。本連載の第83回で取り上げた「富士山」を実現する際は、おそらく、これを使っている。

各種感応信管

砲弾では使わないが、魚雷や機雷で使う。船の船体が帯びている磁気を検知すると起爆する磁気起爆式に加えて、機関やスクリューの音を検知すると作動する音響起爆式、船が航行する際の水圧変化に反応する水圧起爆式などがあり、後二者は機雷専門。

信管で難しいのは、撃つまでは起爆してはならず、撃ったら今度は確実に起爆してくれないと困るところだ。だから安全装置も必要で、撃った後でそれが自動解除される仕組みを組み込んである。例えば、砲弾であれば、一定の加速度がかかったら安全装置を解除する方法が考えられる。

昔は、「安全装置」「安全装置を解除する仕組み」「起爆させる仕組み」をすべて機械的に作り込んでいたので、信管は精密機械工業製品の典型例だった。だから、時計メーカーが信管を手掛けていることがある。特に時限信管は、一種のストップウオッチみたいなものだ。

信管の電子化

しかし、精密機械として信管を作り込むのは手間がかかるし、製作時の品質管理の面でも、納品後に性能や信頼性を維持する面でも、何かと面倒だ。

手間がかかると言えば、近接信管が初めて登場したのは第2次世界大戦中のことだったが、これをなんと真空管を使って実現したのだから恐れ入る。5インチ(127mm)の砲弾の先端に組み込まれた信管の中に、電源、真空管回路で作られた送信機と受信機、それとアンテナが組み込まれていたのである。

しかも、発射の際にかかる強烈な加速度や、発射後に発生する砲弾の回転(砲弾は弾道を安定させるために、砲身の内側に刻まれた螺旋状の溝、つまりライフルを使って旋転させている)に耐えられなければならないのである。

第2次世界大戦中には、他に選択の余地がなかったから真空管で頑張ってなんとかしたが、電子機器の技術が進歩した現代なら、もっと条件が良い。これは近接信管に限らず、時限信管や撃発信管にも言えることである。

近接信管の場合、砲弾のサイズと、そこに組み込む炸薬の種類や量が決まれば、危害半径は計算できる。その危害半径内に目標が入ってきたことを検知するような電子回路を設計しておけば問題ないはずだ。

信管の設定と電磁誘導

ところが信管の種類によっては、発射の際にいちいち設定作業を行わなければならないことがある。特に時限信管がそうだ。なぜかといえば、目標までの距離や飛翔時間は毎回のように変わるのだから、出荷時に固定的な飛翔時間をセットしておく方法では対応できない。

機械式の信管だと、信管の周囲を囲むように設定用のリングがあり、それを回すことで起爆までの時間をセットしている。では、電子式の信管だったらどうするか。もちろん、機械式の信管と同様にリングを回して設定しても良いのだが、それでは、いちいちセットする手間は変わらない。可能であれば、もっと楽な方法が欲しい。

海上自衛隊で使っている127mm砲弾のうち、信管をアップで撮影したもの。目盛付きのリングが見えるが、これを信管の調定に使う

そこで考え出されたのが、電磁誘導の利用。砲口部にコイルを設置して、信管にセットする内容に応じて、そこに流す電流を変化させる。信管のほうにもコイルと電子回路を組み込んであり、電磁誘導によって受け取ったシグナルに基づいて信管を調定する。

これなら、弾を装填する前に1発ずつ信管を調定する手間がかからない。撃つ時に、信管に設定すべき値を指示するだけである。

それを射撃統制システムと連動させれば、さらに合理的だ。射撃統制システムは、目標の位置に関する情報を与えると、それに基づいて砲を指向する向きを算出してくれるシステムである。それはつまり、砲弾が飛翔する弾道を計算する作業だから、着弾までにかかる時間も計算できる。

だから、あとは「着弾の○秒前に起爆」という数字が決まればOKだ。その数字を飛翔時間から差し引けば、発射から起爆までの時間はわかる。その数字を、射撃統制システムから直接、電磁誘導によって信管に送り込んで調定してやればいい。

最近、歩兵向けの火力支援に用いる大口径(35~40mmぐらい)の機関砲や擲弾で、空中炸裂の機能を持たせる事例が増えてきている。物陰に潜んでいて直接照準射撃の対象にできない敵兵に対して、頭上で弾を炸裂させて弾片をばらまくのが目的だ。こうすると、物陰にいる敵兵でも攻撃対象になる。

するとやはり、時限信管の出番となる。まず、レーザー測遠機を使って目標までの距離を測定して、そのデータを射撃統制システムに入れる。すると飛翔時間を計算できるから、それに基づいて時限信管を調定して発射すればよい。