ここまで、日本における将来戦闘機がらみの技術開発について、いろいろと解説してきた。話の順番があべこべだが、大事な話を1つ、締めくくりとして書いておこうと思う。

技術とオペレーションの関係

ここまで9回にわたって書いてきたのは「将来戦闘機で用いられると思われる。○○という技術を研究・開発している。それはこういう内容である」という話だ。しかし、戦闘機に限らず、ウェポン・システムを開発する際の話の流れとして、実は、これはあべこべなのだ。

本来の手順からすれば、まず「将来、こういう脅威に直面すると考えられる」「将来の航空戦はこういう様態になる」という予測が先行しなければならない。それが明確になって初めて、「予想される航空戦で勝利するには、どんな機能・能力が必要か」「それを実現するには、どんな技術が必要か」という話につながる。研究開発に乗り出すのは、その後の話である。

新しい戦闘機を開発、あるいは調達する場面でも、ミッション・プロファイル、つまり想定される任務飛行の内容についてまとめた文書を作成する。それをメーカー側に渡して、「これを実現できる機体を開発できるか」あるいは「これを実現できる機体を納入できるか」という話になる。

もちろん、その国の空軍がどんな航空戦の様態を想定しているかを反映するのがミッション・プロファイルだから、その内容は秘密扱いで、一般公開するようなことはないのが普通だ。

例えば、「基地から発進して亜音速で800km先まで進出して、2時間の滞空、15分間の空中戦を実施、帰還した時点で20分飛べるだけの余剰燃料を搭載していること」とか「基地から発進して500km先まで高々度、その先は低空飛行に切り替えて700km先まで進出、対艦ミサイルを発射した上で、同様の経路・高度をたどって帰還する。帰還した時点で30分飛べるだけの余剰燃料を搭載していること」とかいった内容のものが考えられる。

あくまで任務の様態について想定するものだから、「どんな兵装をどれだけ搭載できるか」とか「最高速度はどれだけ」とかいう話は、また別枠。

ともあれ、まず任務の想定が最初にあって、そこから「それを実現するために必要な兵装搭載能力や速度性能や機動性はいかほどか」という話になる。それが明確になって初めて、それを実現するにはどういった技術が必要か、どういった設計にするのがよいか、という話になる――はずである。

例えば、X-2が実際に実装した推力・飛行統合技術。これはあくまで、将来の戦闘機が高い機動性を求められるという前提に立って、それに対処するための技術として開発が進められている(はずだ)。スピードだけを重視する直線番長なら、推力・飛行統合制御なんていう凝った仕掛けはなくてもどうにかなる。

運用コンセプト(CONOPS)が先

要約すると、「こういう任務を果たすためにどんな機体・技術が必要か」という順番になるわけで、「こんな技術があるから、これをどう使おうか」では話の順番が逆である。こちらの手元にある技術の内容に合わせて、仮想敵国が戦闘の様態を決めてくれるわけではない。

つまり、運用概念、業界用語でいうところのCONOPS(Concept of Operations)が大事だし、先行させる必要があるという話だ。何も戦争や戦闘に限った話ではなくて、極端な話、個人で買物をする時にも似たところがある。

例えば、クルマやカメラを買う時、まずどんな用途で使うのかを想定することが多い。それが明確にならなければ、適切な品物を選んで購入することもままならない。「こんな新技術を使った製品がある」「こんな新機能を使った製品がある」「では、それをどう使おうか」では話の順番が逆。

普通、自分の使い方に合わせて、そこで必要となる機能や能力を洗い出して、それを満たせる製品やサービスを選んで利用する、という流れになると思われる。国家の命運を左右するという重み、あるいは金額的な重みはだいぶ違うが、戦闘機でも同じなのだ。

この連載は「企業IT」チャンネルの記事だから、企業ITの話に持って行ってみよう。オブジェクト指向プログラミングでも、クラウド・コンピューティングでも、FinTechでも何でもいいが、まずは「こういうシステムが求められている」「こういうオペレーションが求められている」という話があって、それに対して「その問題を解決するために、こういう技術があります」「こういう手法を使いましょう」となるのが筋ではないか。

それとはあべこべに、「こういう技術が流行してますが、これでどういうシステムを作りましょうか」という流れでいいのかどうか。そんな主客転倒な提案をしている人はいないと思いたいが、あくまで技術は問題解決のための手段なのである、とあらためて念押しをしたい。

想定は技術開発の方向に現れる

誤解のないように書いておくと、防衛省ならびに防衛装備庁における将来戦闘機関連の技術開発が「運用構想を無視した技術先行型だ」といっているわけではない。一般論として「運用構想を無視した技術先行型はあかん」といっているのである。

X-2や、その周辺にあるさまざまな将来戦闘機関連の技術開発が、その前に存在する「将来の航空戦の様相に対する想定」に基づいて行われているのだという前提に立てば、単に技術の羅列ではなく、違った見え方になってくる。

つまり、将来戦闘機に関連して研究開発の対象になっているさまざまな技術の陣容は、防衛省、あるいは航空自衛隊が「将来の航空戦がどういう形になると考えているか」を反映したものであるはず。具体的に何か言及することがなくても、何を考えているかを示す徴候は技術開発の内容に現れる、といえる。

そういう観点から、将来戦闘機がらみの技術開発、あるいは「防衛技術シンポジウム」などの場で明らかにされるさまざまな研究テーマを眺めてみるのも、1つの楽しみ方ではないかと思う。こうなると、他国の諜報担当者の仕事みたいになってくるが、実際、諜報担当者、中でも分析を受け持つアナリストの仕事には似たところがある。