第135回 で取り上げた「推力・飛行統合制御」と関連する話で、操縦系統の伝送手段をどうするか、という問題がある。推力・飛行統合制御を行おうとすればコンピュータ化は必須だから、トラディショナルに操縦桿やラダーペダルと動翼を索でつなぐわけにはいかない。では、その代わりに何を使うべきか。

FBWとFBL

推力・飛行統合制御では、操縦桿やラダーペダルの動きは「機体をどう動かしたいか、という意思を飛行制御コンピュータに入力する伝達手段」となる。そのパイロットによる意思表示を受けて、飛行制御コンピュータが動翼を動かしたり、エンジンの推力を加減したり、推力の偏向方向を変えたりする。これで初めて、機体が望み通りの機動をする。

問題は、その伝達手段だ。有線のインターネット接続に銅線と光ファイバーがあるように、飛行機の操縦系統でも銅線と光ファイバーがある。銅線はFBW(Fly-by-Wire)、光ファイバーはFBL(Fly-By-Light)である。FBWの場合、さらにアナログ式とデジタル式があるので、都合3種類というわけだ。

もっとも、これから開発する機体でアナログFBWという選択肢はありえないから、これは除外してよろしい。つまり、デジタルFBWとFBLの二者択一である。筆者は新しもの好きだし、すでに日本では海上自衛隊のP-1哨戒機がFBLを使って飛んでいるから、「FBLにすればいいんじゃないの?」と思いそうになるのだが、両者の損得について、改めて整理しておいてもよいだろう。

電磁波干渉への耐性

FBWでもFBLでも、デジタル化した操縦指令を伝送することに変わりはない。もちろん伝送速度はFBLのほうが速くできるだろうが、FBWで飛んでいる戦闘機がいくつもあることを考えれば、FBWで伝送能力が足りないというわけでもないだろう。第一、動画のストリーミング配信をやるわけではないのだ。

では、FBWとFBLの決定的な違いは何か。それは電磁波干渉への耐性であろうと考えられる。FBWは銅線に電気信号を流しているわけだから、当然ながら電磁波による干渉が生じる可能性がある。もちろん、戦闘機やその他のウェポン・システムを開発する時は、そういう可能性を想定して電磁波干渉試験を実施している。とはいえ、もともと干渉に強いシステムができるほうがいい、という考え方にも理はある。

日本では核兵器を保有していないが、そのこととは関係なく、軍用のシステムでは核兵器が爆発した時に発生する電磁波(EMP : Electromagnetic Pulse)への対策を考えなければならない。つまり、頭上で核兵器が爆発して強烈な電磁波を浴びた時に、それで電子機器が壊れてしまっては困るという話だ。

そういう観点からいってもFBWよりFBLのほうが望ましいのだが、実のところ、飛行制御系統以外にも電子機器や電気配線はいろいろある。結局のところ、そちらが壊れてしまっては意味がない。だから、ウェポン・システムの電子機器はEMPに耐えられるような実装にしなければならない、という事情は変わらない。

そう考えると、飛行制御系統だけ「核爆発によるEMPに備えてFBLにしよう」という考え方には、あまり理はなさそうだ。むしろ、他の電子機器からの干渉、あるいは敵の電子戦による干渉に対する強さのほうが重要な要因であろう。

銅線と光ファイバーの取り扱い

別の業界の話だが、やはりヴィークル内部の情報伝送手段として、銅線を使っているケースと光ファイバーを使っているケースがある。同じ業界の同じような用途のヴィークルだが、会社によって思想が違い、E社は銅線、C社は光ファイバー、と派閥(?)が分かれている。

どちらでも同等レベルの性能で走れるので、伝送手段の違いがヴィークルの性能に決定的な影響を及ぼしているわけではなさそうだ。では、どういう違いがあるかと考えると、設計・製造・保守にかかる手間という話に行き着く。

銅線はそれ自体が電気信号を伝える導体であり、銅線同士が接触していれば、とりあえず電気信号は流れる。もちろん、接触不良が発生すれば安定した通信が成立しないから、それは避けなければならない。とはいえ、ちゃんとしたコネクタがあって、それをちゃんとつないでいれば、それで通信が成り立つ。

対して光ファイバーはどうかというと、光ファイバーの中で実際に光信号の伝送を担当する「コア」の部分は意外と細い(外側に被覆があるから、それなりの太さを持つケーブルに見えるが)。そして、コアの内部を光信号が進むわけだから、ケーブル同士を接続する場面では、コアとコアの位置がきちんと合っていなければならない。

もちろん、実際に光ファイバー・ケーブルの接続を担当する人が、いちいちコンマ何ミリメートル単位の職人芸を求められたのではたまらない。だから、光ファイバーや、それをつなぐためのコネクタを作る時は、ちゃんと扱いやすさに配慮をしている。それでも、光ファイバーは銅線と比べると神経を使いそうである。

そういう手間や費用をかけて、それでも光ファイバーのほうが銅線よりメリットがある、ということならFBLにすればよい。しかし、かかる費用や手間と比べてメリットが大きくないと判断した場合は、FBLではなくFBWにする選択肢もありうる。整備・点検の度にコネクタを脱着する可能性があるから、脱着作業、あるいはその後の確認・検査にかかる手間は無視できないものがある。

これが家庭やオフィスのインターネット接続なら、どうしても光ファイバーにできない事情があるのでなければ、光ファイバー接続のほうがいい。最初にケーブルの架設・接続工事を実施すれば、災害などで建物が壊れたり、移転したりということでもない限り、配線工事はいらない。それなら、配線作業にまつわる手間のことは考えなくてもいい。光ファイバーのほうが速いし、コストもリーズナブルになってきているから、そちらの面でのデメリットもない。

ただむやみに最新のものに飛びつくだけが能ではなくて、必要になる費用や手間と得られるメリットのバランスを考えなければならない。何も操縦系統の伝送手段に限った話ではなくて、どんな分野にも言えそうな話である。