【コラム】

軍事とIT

120 防空とIT(6)IAMD(防空とミサイル防衛の統合)

 

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「防空とIT」の次なる話題として、航空機を対象とする防空と弾道ミサイル防衛を一本化する、IAMD(Integrated Air and Missile Defense)について取り上げてみよう。実のところ、「防空」というテーマにおいて情報通信技術が最も役に立つ話がIAMDであると言える。

脅威の多様化

これまで「防空」というテーマで5回にわたっていろいろ書いてきたが、いずれも基本的に「航空機」に対処するための武器やシステムを対象としていた。もっとも最近では、無人機(UAV : Unmanned Aerial Vehicle)や巡航ミサイルも対処すべき対象に含まれるが、翼が生えている飛行物体であることに変わりはない。

UAVだと「小型のモノが多い」、巡航ミサイルだと「サイズが小さい上に飛行高度が低いので、探知が難しい」といった違いはある。とはいえ、飛び方や速度といったところでも、一般的な有人機と比べてべらぼうな違いはないだろう。

それとは別に第7回から第12回にかけて、イージス艦の話を主体に、ミサイル防衛の話も取り上げてきた。ミサイル防衛というと一般的にはBMD(Ballistic Missile Defence)、つまり弾道ミサイル防衛を指すことが多いが、実際には巡航ミサイルも対象に含んでいる。

弾道ミサイルは「弾道飛行して大気圏外から猛スピードで突っ込んでくる」、巡航ミサイルは「低空をはうように飛んでくるが、速度は弾道ミサイルほど速くない」という違いがあるが、脅威は脅威である。

そして近年では、「弾道ミサイルだけ」「巡航ミサイルだけ」ではなく、両者が束になって襲いかかってくる場面も考えなければならなくなった。例えば、中国は対艦巡航ミサイル(ASCM : Anti Ship Cruise Missile)も対艦弾道ミサイル(ASBM : Anti Ship Ballistic Missile)も保有していると言われている。

それが防御側にどのような影響を及ぼすか。弾道ミサイルを迎え撃つためのウェポン・システムと、航空機や巡航ミサイルを迎え撃つためのウェポン・システムを別個に整備して別個に運用するのでは、弾道ミサイルと巡航ミサイルが束になって襲来する場面に対して、適切に対処できるかどうか怪しい。

海の上ではDWES

第9回でも触れているが、すでにイージス艦についてはMMSP(Multi Mission Signal Processor)の導入により、対空戦(AAW : Anti Air Warfare)と弾道ミサイル防衛(BMD)を同時並行的に実施できる仕掛けができている。

MMSP以前のイージス艦は、BMDをやっている時は「BMDだけ」、AAWをやっている時は「AAWだけ」だったが、MMSPの導入でレーダーのシグナル処理能力が向上したため、両方を同時並行的にこなせるようになった。

単艦での交戦ならこれで話は終わりだが、複数の艦がいたらどうなるか。つまり、MMSP装備のイージス艦、MMSP非装備のイージス艦、イージス以外の対空戦闘システムを使用する防空艦(ヨーロッパ諸国の海軍に、この手の艦がいろいろある)が混ざって1つの任務部隊を編成していたら、個艦がそれぞれバラバラに交戦するのでは効率が良くない。

つまり、できればなにがしかの統一指揮管制が必要ではないか、という話になる。まず「とっかかり」としてデータリンクを使った情報共有が必要になるが、それで得られた状況認識に基づき、個々の艦に任務と交戦すべき目標を割り当てる作業も必要になる。

そうしないと、同じ目標を複数の艦が重複して交戦するとか、それとは反対に、誰も相手にしない撃ち漏らしの目標が生じるとかいう事態につながる。重複交戦はリソースの無駄遣いだし、撃ち漏らしは被害発生の可能性を高めてしまうから、どちらもよろしくない。

幸い、データリンクとか共同交戦とかいう話はすでにあるので、後は交戦担当の割り振りをどうするか、という話になる。それを具現化した一例が、2015年2月にハワイ沖で行われた迎撃試験だ。

飛来した弾道ミサイル模擬標的は3発。参加したイージス艦は、USSカーニー(DDG-64)、USSゴンザレス(DDG-66)、USSバリー(DDG-52)の3隻で、そのうちゴンザレスとカーニーがSM-3ブロックIBで交戦した。

この時に使われた仕組みはDWES(Distributed Weighted Engagement Scheme)という。直訳・逐語訳すると「分散重み付け交戦スキーム」。「分散」とは(単艦ではなく)複数の艦による交戦分担という意味であり、「重み付け」とは個々の艦にどうやって任務を割り振るかという話だ。その割り振りの結果、前述したような分担になったわけだ。

これまでのところはBMDに限定してシンプルなシナリオのテストしか行っていないが、今後の動向に注目したい。

陸の上ではIBCS

陸の上では、MMSP搭載イージス艦みたいに「どちらも対応」という便利な資産はなさそうだが、強いて挙げれば、パトリオットは1つの高射隊にAAW用のPAC-2とBMD用のPAC-3を混ぜて運用できる。BMD専用の資産としては、先日に中谷防衛相が自衛隊で導入する可能性を言及したTHAAD(Theater High-Altitude Air Defense)がある。

米陸軍だけならこれで終わりだが、同盟国が加わると、さらにいろいろな防空システムが加わる。と、その話はおいておいて米陸軍の話に絞ると。

洋上のDWESと似た位置付けの仕掛けを、ノースロップ・グラマン社が開発している。それが第117回で取り上げたIBCS。IAMD Battle Command Systemの略だったり、Integrated Battle Command Systemの略だったりと、ソースによって名称が違っているのは困りものだが、なんにしても「IAMDを実現するための指揮管制システム」という意味になる。

最初にIBCSの話が出てきたのは2010年の初めで、この時にノースロップ・グラマン社が開発を担当する話が決まった。そこから5年間で5億7700万ドルのSDD(System Design and Development)フェーズ契約がスタートしているので、ちょうど今年はSDDが完了した(はずの)年にあたる。

差し当たり、第117回でも出てきたAN/MPQ-64センティネル・レーダーやMIM-104パトリオット(PAC-3を含む)を連接しているが、気球に監視レーダーと射撃管制レーダーを搭載して浮かべておくJLENS(Joint Land Attack Cruise Missile Defense Elevated Netted Sensor)や、AIM-120 AMRAAM(Advanced Medium Range Air-to-Air Missile)空対空ミサイルを地対空型に転用したSLAMRAAM(Surface-Launched Advanced Medium-Range Air-to-Missile)といった装備も対象にしている。THAADを対象に加える構想もあるらしい。

要は、こういった各種の防空資産をIBCSの管理下に入れて、交戦担当の割り振りを一元的にやろうという話である。

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インデックス

連載目次
第150回 装甲戦闘車両とIT(5)指揮車という名のAFV
第149回 装甲戦闘車両(AFV)とIT(4)IED対応のアクティブ座席
第148回 装甲戦闘車両(AFV)とIT(3)砲兵の射撃統制装置
第146回 装甲戦闘車両(AFV)とIT(2)戦車の射撃統制装置
第145回 装甲戦闘車両(AFV)とIT(1)行進間射撃
第144回 X-2と将来戦闘機(10)運用構想と技術の関係
第143回 X-2と将来戦闘機(9)機内空間設計と3D CAD
第142回 X-2と将来戦闘機(8)FBWか、FBLか
第141回 X-2と将来戦闘機(7)データリンク
第140回 X-2と将来戦闘機(6)モデリングとシミュレーション
第139回 X-2と将来戦闘機(5)カウンター・ステルス
第138回 X-2と将来戦闘機(4)クラウド・シューティング
第137回 実はハイテクな救難ヘリコプター
第136回 X-2と将来戦闘機(3)スマート・スキン
第135回 X-2と将来戦闘機(2)推力・飛行統合制御[2]
第133回 X-2と将来戦闘機(1)推力・飛行統合制御[1]
第132回 軍事作戦と通信(5)通信とコンピュータの関わり
第130回 軍事作戦と通信(4)国立暗号博物館訪問記
第129回 軍事作戦と暗号(3)暗号の機械化
第128回 軍事作戦と通信(2)コードとサイファー
第127回 軍事作戦と通信(1)通信手段いろいろ
第126回 人工衛星(5)早期警戒衛星
第125回 人工衛星(4)測位衛星(航法衛星)
第124回 人工衛星(3)偵察衛星
第123回 人工衛星(2)通信衛星
第122回 人工衛星(1)軍事衛星の種類いろいろ
第121回 防空とIT(7)エネルギー兵器の場合
第120回 防空とIT(6)IAMD(防空とミサイル防衛の統合)
第119回 防空とIT(5)艦隊防空[その2]
第118回 防空とIT(4)艦隊防空[その1]
第117回 防空とIT(3)野戦防空
第116回 防空とIT(2)防空システムのコンピュータ化
第115回 防空とIT(1)第二次世界大戦における防空システム
第114回 米海軍イージス艦を見る(4)戦闘システムの形態管理
第113回 米海軍イージス艦を見る(3)艦橋の更新
第112回 米海軍イージス艦を見る(2)戦闘システムの更新
第111回 米海軍イージス艦を見る(1)「変わるもの」と「変えてはいけないもの」
第110回 電子戦とIT(10)蔵出し写真館・艦艇編
第109回 電子戦とIT(9)蔵出し写真館・飛行機編
第108回 電子戦とIT(8)電子戦装置の自動化
第107回 電子戦とIT(7)艦艇の電子戦装備
第106回 電子戦とIT(6)その他の電子戦
第105回 電子戦とIT(5)自衛用電子戦装備
第104回 電子戦とIT(4)ECCM
第103回 電子戦とIT(3)ECMとCOMJAM
第102回 電子戦とIT(2)脅威ライブラリ
第101回 電子戦とIT(1)電子戦とはなんぞや
第100回 水中戦とIT(9)ソノブイ・オペレーション
第99回 水中戦とIT(8) 潜水艦の目標運動解析(2)
第98回 水中戦とIT(7) 潜水艦の目標運動解析(1)
第97回 水中戦とIT(6)港湾警備・ダイバー探知
第96回 水中戦とIT(5)嫌らしい機雷
第95回 水中戦とIT(4)機雷戦その2
第94回 水中戦とIT(3)機雷戦その1
第93回 水中戦とIT(2)魚雷避けに関するいろいろ
第92回 水中戦とIT(1)水中戦とは?
第91回 艦艇のシステム化(6)タンクと電子制御
第90回 艦艇のシステム化(5)フネの中における通信手段
第89回 艦艇のシステム化(4)ズムウォルト級とTSCE-I
第88回 艦艇のシステム化(3)省人化とダメコン
第87回 艦艇のシステム化(2)指揮管制装置とは
第86回 艦艇のシステム化(1)システム艦とは
第85回 射撃管制(6)対地・対艦ミサイル
第84回 射撃管制(5)対空ミサイル
第83回 射撃管制(4)砲兵に特有の事情
第82回 射撃管制(3)機関銃・機関砲・火砲その3
第81回 射撃管制(2)機関銃・機関砲・火砲その2
第80回 射撃管制(1)機関銃・機関砲・火砲その1
第79回 相互運用性(5)相互運用性実現の足を引っ張るのは?
第78回 相互運用性(4)物資補給の相互運用性
第77回 相互運用性(3)情報システムの相互運用性
第76回 相互運用性(2)通信分野の相互運用性
第75回 相互運用性(1)相互運用性とは
第74回 不正規戦とIT(8)NATOが演習にソーシャル・メディアを取り込む
第73回 不正規戦とIT(7)国境線の侵入監視や港湾警備
第72回 不正規戦とIT(6)不正規戦と電子戦
第71回 不正規戦とIT(5)コミュニケーションに翻訳ツール
第70回 不正規戦とIT(4)民心掌握とIT
第69回 不正規戦とIT(3)通信を利用した追跡・捕捉
第68回 不正規戦とIT(2)コミュニケーション手段としてのIT
第67回 不正規戦とIT(1)宣伝戦とインターネット
第66回 衛星携帯電話も使いよう
第65回 個人用装備のIT化(5)無線機をめぐる話・いろいろ!?
第64回 個人用装備のIT化(4)個人用武器の精密誘導化
第63回 個人用装備のIT化(3)個人用情報端末機器のあれこれ
第62回 個人用装備のIT化(2) 個人レベルの通信網はどうするか
第61回 個人用装備のIT化(1) 個人レベルの情報武装
第60回 サイバー防衛(8) ソーシャル・エンジニアリング
第59回 サイバー防衛(7) サプライチェーンという戦場
第58回 サイバー防衛(6) オープンな場も戦場になる
第57回 サイバー防衛(5) 弱者の最強兵器
第56回 サイバー防衛(4) アクティブ・ディフェンス
第55回 サイバー防衛(3) 攻撃手段いろいろ
第54回 サイバー防衛(2) サイバー攻撃の動機・手段・内容
第53回 サイバー防衛(1) サイバー攻撃・サイバー防衛とは
第52回 軍事におけるシミュレーションの利用(6) 負傷者治療の巻
第51回 軍事におけるシミュレーションの利用(5) 計測とデブリの巻
第50回 軍事におけるシミュレーションの利用(4) 海の巻
第49回 軍事におけるシミュレーションの利用(3) 陸の巻
第48回 軍事におけるシミュレーションの利用(2) 空の巻
第47回 軍事におけるシミュレーションの利用(1) RDT&Eの巻
第46回 情報活動とIT(6) 情報戦とサイバー戦
第45回 情報活動とIT(5) 情報資料の配信と利用
第44回 情報活動とIT(4) 情報を管理するためのシステムに求められる課題
第43回 情報活動とIT(3) ELINT・COMINT・SIGINT
第42回 情報活動とIT(2) 画像情報のデジタル化
第41回 情報活動とIT(1) なぜ情報活動が必要か
第40回 軍艦・海戦とIT (6) 艦艇の設計・建造とIT
第39回 軍艦・海戦とIT (5) ダメージコントロール
第38回 軍艦・海戦とIT (4) ウェポンシステムとオープンアーキテクチャ
第37回 軍艦・海戦とIT (3) データリンクによるネットワーク化
第36回 軍艦・海戦とIT (2) 艦内ネットワークの整理統合
第35回 軍艦・海戦とIT (1) システム艦ってなに?
第34回 警戒監視体制の構築とIT(6) IT化と人手の使い分け
第33回 警戒監視体制の構築とIT(5) 宇宙空間とサイバー空間
第32回 警戒監視体制の構築とIT(4) 陸の警戒監視
第31回 警戒監視体制の構築とIT(3) 海の警戒監視
第30回 警戒監視体制の構築とIT(2) 空の警戒監視
第29回 警戒監視体制の構築とIT(1) 警戒監視とITの関わり
第28回 指揮統制・指揮管制とIT(4) : 関連する要素技術とまとめ
第27回 指揮統制・指揮管制とIT(3) 軍艦の戦闘指揮所
第26回 指揮統制・指揮管制とIT(2) 特定任務分野の指揮管制
第25回 指揮統制・指揮管制とIT(1) 戦略・作戦レベルの指揮統制
第24回 陸戦とIT(6) 兵站業務とIT活用
第23回 陸戦とIT(5) 地雷やIEDの探知もハイテク化
第22回 陸戦とIT(4) IT化と電源の問題
第21回 陸戦とIT(3) 陸戦と通信網
第20回 陸戦とIT(2) 陸戦兵器の精密誘導化
第19回 陸戦とIT(1) 陸戦における状況認識
第18回 UAVとモジュラー設計
第17回 UAVによる映像情報の収集とデータ処理
第16回 無人戦闘機は実現可能か?
第15回 UAVと有人機の空域共有問題
第14回 武装UAVのオペレーション
第13回 無人偵察機(UAV)に関する基本と武装化の経緯
第12回 Build a Little, Test a Little and Learn a Lot
第11回 イージス・アショアとモジュール化と相互運用性
第10回 ミサイル防衛に必要な通信網とネットワーク化交戦
第9回 イージス艦のベースラインと能力向上
第8回 イージス艦とはそもそも何か
第7回 弾道ミサイル防衛とC2BMC
第6回 F-35ライトニングIIの操縦システム
第5回 F-35ライトニングIIの兵站支援
第4回 F-35ライトニングIIのソフトウェア
第3回 F-35ライトニングIIとネットワーク中心戦
第2回 F-35ライトニングIIの"眼"
第1回 F-35ライトニングIIは何が違う?

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