前回に引き続き、横須賀に配備されたばかりのアーレイ・バーク級イージス駆逐艦「ベンフォールド」(DDG-65)の話を取り上げよう。今回は、同艦の表芸である戦闘任務、とりわけ対空戦(AAW : Anti Air Warfare)と弾道ミサイル防衛(BMD : Ballistic Missile Defense)を受け持つ、イージス戦闘システムがお題だ。

BL4からBL9へ

勘違いしないでいただきたいが、BLとは「ボーイズほげほげ」ではなくて「ベースライン」の略である。要するにバージョン番号みたいなものだが、ソフトウェアだけでなくハードウェアも含めて「ベースラインほげほげ」といって分類する。

横須賀に配備されたイージス駆逐艦「ベンフォールド」は、建造当初はベースライン4だった。しかし、日本への前方展開に先立って米国サンディエゴのBAEシステムズで実施した近代化改修工事により、最新のベースライン9.1c(ベースライン9C1とも言うようだ)に更新した。

ベースライン4は、大型コンピュータAN/UYK-43を中核とする集中処理型のシステムである。それに対してベースライン9.xは、多数のコンピュータをLANで結んで分散処理を行うシステムである。つまり、やや語弊のある言い方かもしれないが、ベースライン4からベースライン9への進化は、戦闘情報処理装置のダウンサイジング、パソコン化である。

集中処理型なら、オペレーターが扱うコンソールはデータの入力と出力だけをつかさどるから、要するに端末機であり、それにはAN/UYQ-21という機器を使う。それに対して分散処理型では、オペレーターが扱うコンソールは自らプログラムを実行して処理を引き受ける。

ベースライン7ではAN/UYQ-70という機材が主流だったが、ベースライン9.1cではUYQ-70は少し残るだけで、さらに新型のコンソールに入れ替えられた。ゼネラル・ダイナミクス・アドバンスト・インフォメーション・システムズ社などが手掛けているCDS(Common Display System)と、CPS(Common Processor System)の組み合わせである。また、CSL(Common Source Library)によってソフトウェアの再利用と共通化を容易にしたとしている。

興味深いのは、入出力装置(CDS)と処理装置(CPS)を分離したことだが、これは両者を個別にメンテナンスしたり、更新したりできるようにする狙いではないか。

この変化により、コンソールの種類の統一も図られている。つまり、ベースライン4の頃は、用途に合わせて専用のコンソールがあったので、戦闘情報センター(CIC : Combat Information Center)でコンソールの外見を見れば、「ははあ、これの用途はあれだな」という具合に当たりをつけることができた。

ところが、今はコンソールの機種を用途に関係なく同じにして、そこで走らせるソフトウェアを用途に応じて使い分けている。だから、「ベンフォールド」のCICでも、並んでいるコンソールの大半は同じCDSで、画面が落とされていると、用途は何だかわからない。乗組員に聞けば、「こっちはAAWの区画で、こっちは水中戦の区画で」ぐらいのことは教えてくれるが。

ということは、一部のコンソールが故障したり、戦闘被害によって使えなくなったり、ソフトウェアが暴走したり(そんなことはないと思いたいが)しても、別のコンソールで肩代わりができるということになる。用途ごとに専用のコンソールを設ける方法では、それがダウンしたら「もはやこれまで」だ。

ネットワーク化はフネの外にも

分散処理とネットワーク化は、フネの中に限った話ではない。フネ同士、あるいはフネと航空機をネットワークでつないで、互いに情報をやりとりしながら交戦するのが最新のスタイルである。

その一例が、共同交戦能力(CEC : Cooperative Engagement Capability)である。スタンドアロンで動作している場合、個々のフネ、あるいは航空機は、自身が持つレーダーなどのセンサーで得た情報だけを見ている。だから、上空にいるE-2早期警戒機のレーダーが捕捉した目標のことを知りたければ、無線を使って口頭で教えてもらう必要がある。

ところが、データリンクとCECを導入すると、CECに参加しているフネや航空機のデータを融合・重畳して、参加している全員が同じ「画」を見ることができる。すると例えば、自艦のレーダーでは捕捉できないぐらい遠方にいる敵機の情報を、E-2のレーダー情報で得ることもできる。

それなら口頭で伝えてもらっても結果は同じ……ではない。口頭で情報を受け取った場合、その情報を自分の頭の中で組み合わせて全体状況を描き出す必要がある。情報量が少なければまだしも、情報量が多くなると、人間の頭では処理しきれないし、時間もかかる。間違いの可能性も増える。それならコンピュータが自動的に融合・重畳してくれるほうがありがたい。

BMD分野の進化

では、BMD分野の進化はどうか。

すでに本連載の第7回で述べているように、そもそもBMDはネットワークなしには成り立たない。だから、今になって殊更にネットワーク化をうたうような分野ではないのだが、最新のシステムにおいてIT分野における進化がないかと言えば、もちろんそんなことはない。

わかりやすい例として、MMSP(Multi Mission Signal Processor)を挙げることができる。これについては本連載の第9回でも触れているが、もう一度、基本的な話を書いておこう。

レーダーは、電波を送信して、それが何かに当たって戻ってきた反射波の情報をシグナルプロセッサにかけてコンピュータ処理することで、探知や追尾を成り立たせている。

草創期のレーダーは反射波のシグナルをそのまま画面に表示させていたから、そこから何かを読み取るにはオペレーターの職人芸が求められた。それをコンピュータ処理にすることで、より扱いやすく、誤探知や妨害に強いレーダーができる。

イージス艦のAN/SPY-1レーダーにも、もちろんシグナル・プロセッサがある。初期のBMD対応システムではシグナル・プロセッサを増強したものの、処理能力をすべて弾道ミサイルの探知に振り向けていたため、他の任務はお留守になっていた。

ところが、MMSPではその名の通り、BMDと対空戦の同時対応が可能になっている。それが「マルチミッション」たるゆえん。コンピュータの性能向上とソフトウェアの改良が、これを可能にした。「ベンフォールド」のベースライン9.1cも、もちろんMMSP装備である。

BMDに限らず全分野にいえることだが、最近のウェポン・システムの通例通り、「見かけは同じでも能力は大違い」という話である。