生活スタイルは夫婦間の個人的問題で、どれが望ましいということは言えません。しかし例えば専業主婦を選択したならば、そのことに対するリスクは充分に理解しておく必要があります。

専業主婦のリスクを把握しよう - いつでも自立できてこそ専業主婦を満喫

これからの時代は夫だけの収入では生活設計が難しいと言われています。歴史的に見ても専業主婦が一般的なケースは少ないのです。武士の妻は一見専業主婦のようですが、上級武士の妻は多くの使用人を管理しなければなりません。家電製品がない時代は家事には時間と手間を必要とします。下級武士の妻は内職無しには暮らせなかったでしょう。私の祖母は兄弟姉妹10数人の長子でした。東京で学業生活を送っていましたが、卒業間際に母親が亡くなり、幼児を含む大勢の兄弟姉妹の養育とこれまた大勢のお手伝いさん(会社と家内双方の)の舵取りをするために、即刻帰郷しそのまま東京には戻れませんでした。専業主婦は高度成長期の一時的現象だと言って良いでしょう。

それでも専業主婦を選択するのであれば、そのリスクを理解し、どう対処するかを考えておく必要があります。収入がなければ蓄財はできないのが当然ですが、リスクに弱いのも大きな要因です。

専業主婦のリスクを把握しよう

手に職がない・キャリアがない

結婚を控えた若い女医の人生設計の相談を受けた事があります。夫婦でマンションを購入する時の名義等の考え方が相談のメインでした。夫となる人よりも格段に高給を得ていましたが、子供も欲しくてキャリアの維持には悩んでいました。医者でも仕事を離れて数年すると、再び第一線に戻るのは難しいそうです。日々進歩する新しい治療法や薬剤などに追いつくにはロスできる期間は若い間でも2年間くらいだと言っていました。建築の設計も同じです。日々新しい工法や建材の開発、法律の改正等、空白期間を埋めるのは簡単ではありません。ファイナンシャルプランナーも6分野ごとの毎年ある税制改正や金融商品・保険商品の知識を、離職している間に把握し続けるのは至難の業です。キャリアがあっても一旦離職すれば、元に戻るのは簡単ではないのです。

夫が働けなくなったら

不謹慎ですが、働き手が死亡した場合は、遺族年金や死亡保険金が支払われ、住宅ローンの残債も団体信用生命保険で支払われます。遺族には残債のない住まいが残ります。しかし、もし何かしらの障害を負ったり、重大な病気になったりした場合は、収入が無くなるばかりでなく、治療費もかかり、看病の時間もとられ、妻は思うように働くこともできません。これが最大のリスクだと思います。安定して蓄財できたはずの家計が一転、危機に見舞われます。

離婚したら

離婚してシングルマザーとなり、直ちに生活に困るようではリスク管理が不足していたと言わざるを得ません。もはや3組に1組が離婚する時代です。なんの対策もなしに専業主婦が離婚してシングルマザーになって生活に困り、公的支援に頼り、税金を消費するのは、夫婦で働いて子育てしている人たちには納得がいかないでしょう。夫婦で働いていれば税金も相当額支払わなくてはなりません。専業主婦は所得税を負担していない上に、配偶者控除で夫の所得税も減額されている立場です。日本は国債の発行で借金が増えています。税金が不足しているので消費税も増税されます。国民として、なるべく税金に頼らず、まずは自衛する努力は必要でしょう。

私の年代は、学業を終えてそのまま結婚し、専業主婦になるケースもまれではありませんでした。サラリーマンに嫁げば、配偶者控除で夫の所得税は削減されます。妻の基礎年金の保険料も夫の厚生年金保険料でまかなわれ、夫の保険料がその分増額することもありません。通常は夫の方が年上ですので。夫亡き後は遺族厚生年金と自分の基礎年金を受取り、遺族年金は高額でも非課税です。所得税が非課税ということは住民税や健康保険料も、その延長線上にあります。つまり一生の間一度も所得税も保険料も支払わずに、年金を受け取り、一生を終えることになります。

子育て期間はごくわずか - 子育て後の35年間何をして過ごしますか?

専業主婦を選択している最大の理由は子供でしょう。しかし一般的な、子供2人を実質育てる期間はどのくらいでしょうか。中学生ともなれば、友達優先で親は相手にしてもらえないでしょう。下の子との年齢差を考えても15年程度でしょうか。残りの35年間程度を母親業がさほど必要でない期間を過ごすことになります。「空の巣症候群」が話題になるほどですので、その後の準備がなされていないケースは多いのでしょう。今の時代は働き方が多様化されていますので、少しずつ自分自身の人生を切り開きやすくなっています。

専業主婦でも、いざという時は一人で子供を育てられる力を

一人で子供を育てる力のない場合は、本来は子供を作る資格はありません。最悪どんな状況でも子供を育てられる気持ちは、女性ならば誰でも基本的に持ち合わせているでしょう。「母は強し!」ですが、人間は群れで生活する社会的動物で、社会の構造はなかなか一人親に優しくはできていません。どんな場合でも子供を育てられるように用意しておくことは、母親としての責務でしょう。思わぬ病気や怪我に見舞われないとも限りません。離婚や失業も誰にでも起きうる事柄なのです。

専業主婦は有利です。子育てしている間に資格取得のための勉強時間が充分あります。外に働きに出る場合でも、自宅等で起業する場合でも、いきなり多くの収入を得る必要はないでしょう。夫の収入に頼りながらも、徐々に仕事量を増やすことも可能です。この有利な立場は利用しない手はありません。ある意味で可能性は高いのです。そこに専業主婦の蓄財のポイントがあるように思います。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。