前回紹介した米上院公聴会でのGoogle副社長、マリッサ・メイヤー氏の証言に、ダラス・モーニングニュースの発行人、全米新聞協会理事でもあるジェームス・マロニー氏は、真っ向から反論した。

「われわれの新聞は、発行地域で全米テレビ4大ネットの要員すべてを合わせたよりも手厚い取材網を敷いている。このためには年間3,000万ドルを超えるコストがかかっている」
「ローカル紙の危機は皮肉なことに、読者が減少しているためではない。発行部数は比較的安定している。深刻なのは、広告営業でインターネット企業との競争条件が大変厳しくなったことなのだ。広告マーケットにおける新聞のシェアーは急速に下がっている。この傾向が続けば、新聞業界の広告収入は数年たたずして半減するだろう。新聞に求められる公共の利益のためのジャーナリズム活動を継続することは困難になるだろう」

このためにマロニー氏は、政府と議会が以下の点につき早急に是正措置をとることを求めた。

第一に不況対策として実施した企業救済策を、新聞産業にも適用すること。第二に、構造不況から脱出するため新聞各社が協議、共同して取り組む新規事業について、独禁法の適用外とする(業界が統一料金を談合したり、不況カルテルを結んだりするための協議は、独禁法違反行為とみなされる)。

第三に、議会は新聞社がインターネット・アグリゲイターに対し彼らが利用した新聞社のニュースコンテンツに対し適切な対価を求める手段を保証する。

「米国のジャーナリズムは自滅した」か?

マロニー氏の発言には、やはり公述人として招かれていた元ジャーナリストでテレビプロデューサーのデイヴィット・サイモン氏が強く反駁した。

「私がジャーナリズムの世界に入ったのは1995年。インターネットの影響が新聞経営に及ぶだいぶ前、無論、現在の経済危機もなかったが、すでに米国のジャーナリズムは荒廃し始めていた。大手新聞シンジケートが次々独立系の新聞社を買収してチェーン化し、凄まじい人員整理、リストラに乗り出したからだ」
「今日、話題になっているバルチモア・サンは、インターネットに広告を奪われるはるか前からページ数を削り、記者、編集者をリストラして空前の利益を上げた。その利益は投資家への配当、経営者のボーナスとなって消えた」
「新聞のチェーン化はニュースの均一化を招き、分野別の専門記者、地域にこだわってニュースをこまめに発掘する記者、編集者は去って行った。一口に言えば、我々の産業はウオールストリート流の利益至上主義によって自滅したのだ」

サイモン氏の憂慮は、AP通信が今年5月、全米の新聞編集者に対し行ったアンケート調査(Associated Press Managing editors Survey)でも裏付けられている。これによると、"意外にも"回答者の60%が、新聞産業は再び利益があげられ回復する、と見ている。

一方で圧倒的多数が、提供するニュースの質低下は避けられない、と考えていることも明らかになった。過去18カ月で2万人近くの記者、編集者、関連労働者がリストラされたことを考えると、彼らの危機感には現実的根拠があると言わざるを得ない。

ハフィントン氏「ジャーナリズムの未来は新聞社の未来と関係ない」

Ms. Arianna Huffington(出典:Huffington Post ホームページ)

最後にインターネット新聞を起業したハフィントン・ポストのアリアナ・ハフィントン氏の意見を紹介しよう。

彼女はまず、「私たちが今日、ここで議論すべきは、どうやって(既存の)新聞社を救うか、でなくてどうやって多様なジャーナリズムを助長し、強化するとのか、ということであるべきです。なぜならジャーナリズムの未来は新聞社の未来とは関係ないからです」と言い切った。

新しいジャーナリズムを構築するためには、(1)職業教育を受けた記者が、地域住民と対話を繰り返しながらニュースを作り上げてゆくパブリック・ジャーナリズムを助成すること、(2)ハフィントン・ポストがワシントン・ポスト前調査報道部長らと立ち上げた、「調査報道基金」(調査報道を行うフリーランス・ジャーナリスト、グループに資金援助と発表の場を与える活動)などを充実することが重要、と主張した。

この基金について若干説明すると、ハフィントン氏らの寄付により2009年3月、基本財産175万ドルで発足した。政治的中立・非営利の団体で、5月20日にはワシントン・ポスト調査報道部長であったローレンス・ロバート氏を理事長に選任した。ロバート氏は2004年来、米議会ロビイストのスキャンダル、ディック・チェイニー前副大統領と軍需産業との癒着を暴き、農業予算の無駄使いなどの調査報道で同僚らと3回、ピュリッツアー賞を受賞している。

彼は就任あいさつで、「新聞社を取り巻く財政的困難からの圧力を考えると、新聞が果たしてきた公共的役割を、調査報道機能を、非営利的組織にゆだねる時が来たと思う」(Editor & Publisher 5月20日)と述べた。


執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。