【コラム】
部屋一杯に広げられた塗り絵に覆いかぶさるようにして、何人ものプレイヤーが色とりどりのクレヨンを握りしめ一心不乱に塗りたくっている。少しでも自分の陣地を広げようと頭をこじ入れ、ひじを押し合い勢い余って相手の顔や服までクレヨンが走ってしまう。
これが幼稚園の遊戯室での出来事なら微笑ましい情景かもしれない。しかし今、欧米のメディア・コングロマリットが世界規模で繰り広げているのは、まさにこの通りの「仁義なき市場争奪戦」だ。
最近、日本でも「メディアの寡占化」とか、「メディア・コングロマリットの形成」という言葉が聞かれるようになった。例えばこんな記事がある。
「フジテレビジョンは13日、改正放送法で認められた『認定放送持ち株会社』への移行に向けて準備を進めると発表した。純粋持ち株会社の傘下に自社のテレビ放送事業と系列地方局などを子会社として抱えるグループ構造に変え、経営基盤を強化する。(中略)認定持ち株会社の傘下には在京キー局と系列地方局に加え、BS局やラジオ局、映画会社など多様なメディアコンテンツ事業を子会社や関連会社として抱えられる。新体制への移行でタイムワーナーや、ウォルトディズニーなど欧米のメディア複合企業(コングロマリット)に近い経営形態が可能になる」(日本経済新聞3月14日)
一方、"陣取り合戦"の方も激しさを増している。今年2月、コンピューターOSの巨人、マイクロソフトがヤフーに仕掛けた買収提案には、グーグルや、ルパート・マードック氏の保有するニューズ・コーポレーションなどの思惑が絡み合い、三つ巴、四つ巴の空中戦に発展している。
こうした動きは、日本語という"非関税障壁"で守られている日本には関係のない話なのだろうか?
昨年の放送法改正、2010年に見込まれる情報通信法の制定をにらんで、日本でも通信と放送の融合を見込んだ動きが本格化しそうだ。その流れは衰退する新聞産業を巻き込んで出版、テレビ、インターネット、ポータルサイト、通信…といったメデイアの融合から、メディア・コングロマリット(複合企業体)形成へと向かってゆくだろう。
今回から始まるコラムでは、世界と日本の動きを複眼的に追いながら、進行中の「メディア革命」を実況中継してみたい。
まずメディア・コングロマリットとは何か、それはどのように生まれてきたのかを知る必要がある。
メディアの集中化(寡占化と呼んでもいいだろう)と、メディア・コングロマリットの形成は密接に関連している。しかし、必ずしも同時並行で進んできたわけではない。アメリカの場合、メディア・コングロマリット形成により強い影響を与えてきたのは、FCC(連邦通信委員会)の規制緩和政策である。
米国の場合、各種メディアの集中は1950年代から徐々に進んできた。例えば新聞に限ると、一つの都市に新聞が複数発行されている比率は1910年代、57%、それが40年代には13%にまで下がった。90年代には98%の都市で一種類の新聞しか発行されていない(Eli Noam "Media Concentration in the United State")。
またカルフォルニア大学のエドウイン・ベイカー教授によると、「2002年には全米のわずか14の都市だけで資本が異なる複数の新聞が発行されている」(Edwin Baker "Media Concentration and Democracy")という。だから米国では、新聞メディアに関しては、ほぼ地域独占が完成したといえる。
Gannettなど大手紙が系列化を進めた結果だが、むしろ地域に複数の新聞経営を許すだけの経済力が失われたためではないか。広告売り上げが総収入の80~90%を占めるアメリカ新聞産業。広告クライアントは、この20年間で他のメディアに移行した。
アメリカ新聞界の最初のライバルは1920年代以降、急速に普及したラジオ放送だった。そのラジオ放送も50年代以降、急速に集中化が進む。
1940年代、AM局7、FM局7であった保有規制は徐々に拡大され、1994年にはAM局20、FM局20までに拡大された。そして1996年には保有規制の上限枠自体が撤廃された。同じように一地域(一マーケット)内で同じ資本が保有できるラジオ局の数は、1970年まではAM、FM局とも1局だけであった。これも徐々に規制緩和され1996年にはトータル8局(AM、FMの内訳は上限5局まで)に拡大された(Eli Noam前掲論文)。ニューヨーク、ロスアンジェルスといった大都市ならともかく、地方都市で8局といえば、ほぼ独占状態に近いだろう。
結果として全米で1,240局を持つ「Clear Channel」といった最大のメガラジオ局が誕生した。同社の従業員数はわずか200人。本社は、テキサス州にあり各都市のラジオ局は原則的に無人。全局が事前編成された同一番組を流す。その結果、何が起きたのか。
執筆者プロフィール
河内 孝(かわち たかし)
1944(昭和19)年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。毎日新聞社政治部、ワシントン支局、外信部長、社長室長、常務取締役などを経て2006年に退社。現在、(株)Office Kawachi代表、国際福祉事業団、全国老人福祉施設協議会理事。著述活動の傍ら、慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所、東京福祉大学で講師を務める。著書に「新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)」、「YouTube民主主義(マイコミ新書)」がある。
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