上海モーターショーは今回が13回目。北京モーターショーと持ち回りの開催なので隔年開催ということになるわけだが、どちらのショーもアジア地域で注目が集まり、中国のプレゼンスが高まっているのは事実だ。今回の上海モーターショーも多くの日本のメディアに取り上げられているが、その報道の中には過去のイメージのまま取り上げている例もある。

動画:発表時には派手な演出が目立つ

コンパクトカーが得意な中国メーカーなどという報道も目にしたが、それは過去の話しになりつつある。販売比率では1.6L以下のクルマが主力であることに間違いはないが、近い将来状況が変わってきそうなのだ。今回のショーで目立ったのは、SUVに代表されるクルマの大型化。大型SUVに向かって進んでいきそうなのだ。

現在中国で人気が高いのは大型セダン。立派なグリルとキラキラしたモールが付いたスタイルのセダンが売れるのだ。それもボディカラーはブラックなどのダーク系が圧倒的に支持されている。街でカラフルな色のボディを見かけるとしたらタクシーくらいだ。上海はVWの工場があり、古くからVWが進出したという事情から、タクシーもサンタナ3000というクルマがほとんど。

動画:紅旗SUV登場

セダンが支持される理由は、現在の購買層にも原因があるという。クルマを買える年代は40歳以上が多く、子育て終盤かもしくは終わった人が多く、セダンで十分。さらに年代が高くなるほどセダンを高級車と見る。これは「紅旗(こうき)」の影響あるようだ。主席クラスなど、国のトップクラスでないと乗れなかった時代の紅旗に強い憧れを抱く年代がいるようなのだ。日本でも30年前はセダン中心で、大型車ほど高級と見られたのと変わらない。中国人が大きくて強いクルマに憧れるというのは若い世代でも共通で、そこで自動車メーカー狙っているのがプレミアムSUVというわけだ。ちなみに上海のテレビコマーシャルを見ていると、トヨタのRAV4のCFがよく流れていた。中国ではちょうど現地生産の新型RAV4がローンチされたばかりのタイミングだったためだ。RAV4はミドルクラスのSUVだが、セダンだけではなくSUVも注目されるようになってきたわけだ。

大型SUVの台頭は日本にとってじつに困ったことでもあるのだ。今回のショーでは大きくて立派なSUVが数多く出展されていた。こうしたSUVはボディに合わせて大排気量エンジンを搭載することも多く、燃費が悪化しがちだ。ショーの中でも目立っていたのがGMのブース。日本ではビュイックのブランドは過去のものとなってしまったが、中国では街にビュイックのクルマが多く走る。現在は大型セダン(日本から見ると大型だが中国ではスタンダード)のビュイックが人気だが、購入層が若い世代になればなるほどSUVなどが人気になるはず。

動画:GMブースの中心はビュイック

アメリカメーカーは中国でも同じ間違いを起こそうとしているのだ。破綻寸前のGMは、このような事態になった原因がわかっているのだろうか。サブプライムローンからの金融不安でクルマが売れなくなっただけではない。ガソリン価格の高騰で大型車離れが加速したため、このような深刻な状況に陥っているのだ。ガソリン価格の高騰は収まったが、今後化石燃料が安くなるということは考えにくい。

なぜアメリカメーカーが大型SUVを売ることに固執するのか。それは過去の成功体験からだ。まだアメリカが景気のいいほんの数年前のことだが、GMグループに所属していた、ある日本のメーカーのトップがGM前会長のリチャード・ワゴナー氏に、こう質問したことがあるという。

「なぜあなたは小型車を作らないのか」

ワゴナー氏は

「大型SUVが1台売れると100万円の利益が出る」

と言い放ったそうだ。1台当たりの利益が少ないコンパクトカーを作る気はまったくないということなのだ。成長著しい中国で大型SUVが売れれば、莫大な利益が転がり込む。だがそれは短期的なことで、化石燃料から次のフェーズに移っていかないと未来はないのだ。

GMに限らず、中国や韓国メーカーもSUVを展示していた。SUVが中国で本格的な人気車になると、日本は環境面で困ることになりかねない。燃費が悪化するということは今以上に大気汚染が進み、日本には酸性雨がより降りやすくなる。もちろん汚れた大気そのものの影響も懸念されるわけだ。

それとガソリン価格の上昇を招く可能もあるということ。中国政府は日本と同様に乗用車にはガソリンを使う政策をとっている。燃費が悪いSUVが走りまわるようになれば、アジア地区のガソリン価格が高くなるのは十分に予想できる。中国公安部交通管理局によると、2009年3月には中国国内自動車保有台数が1億7000万台に達したという。金融不安により世界経済が失速するなかでも、中国の1-3月期は1日平均で3万2000台も増えたことになる。1日に3万台以上も増えるのだから、中国が与える影響は決して少なくない。

中国でSUVの人気が高まるのなら、せめて自動車メーカーはハイブリッドなど燃費に優れる車種にしてほしい。日本に対する環境的な影響だけではなく、ハイブリッドカーが大量に作られることでコストダウンがより一層進むためだ。

?なハイブリッドカーや ?なプラグインハイブリッドを出展

今回の上海モーターショーでSUVと並んで目についたのが、ハイブリッドやプラグインハイブリッドのコンセプトカーなどだ。これはとても素晴らしいことで、化石燃料の使用を少なくすることはとても重要。だが、こうしたクルマを取材していくと、どうやらショーのための急造モデルがあることがわかった。展示されているハイブリッドカーやEV(電気自動車)には、特別なカラーリングやロゴ、エンブレムなどで環境車であることをアピールしているが、その中には本当にハイブリッドカーなのかEVなのかよくわからないクルマもあった。ハイブリッドシステムを紹介しているパネル展示もあったが、実際に走行できるシステムか疑問が残るものもあったのだ。日本を含め主要なモーターショーでは、こうしたクルマはテストコースを走るビデオ映像が流されるのが普通だが、そうした証拠ビデオ的なものを公開していないクルマもあった。

ショー会場で、ハイブリッドカーとボディに書かれた1台のエンジンルームを見る機会に恵まれた。通常こうしたクルマは中を見られないようにしているはずだが、ボンネットも開けられるし、室内にも乗り込むことができた。ボンネットを開けてエンジンルームをのぞき込んでびっくり。モーターの姿もなければ、例の高圧ハーネスを示すオレンジ色のケーブルも見当たらない。通常のガソリンエンジンが納まっているだけなのだ。

室内に入ってインパネのメーター周りを見るがハイブリッドらしい仕様はどこに見見当たらない。だが、ラゲッジルームを見ると、リヤシートの後ろにリチウムイオンバッテリーらしきものが置かれている。ハッチバックを開けて見ようとしたが、なぜかここだけはロックがかかっている。近くにいたメーカー関係者とみられる人にハッチバックを開けてほしいと頼んだが、やはり開けてもらうことはできなかった。そのためリヤシートから写真を撮り、手を伸ばしてバッテリーを叩いてみたがやけに軽い響き。本物のハイブリッドカーでもバッテリーには当然カバーをするので、叩いた音が変だから中身がないとはいえないが、エンジンルームを見た感じからするとハイブリッドカーではないように思えた。

すべてのハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカーなどがフェイクだというつもりはまったくないが、中国メーカーのなかにはまだまだハイブリッドカーなどを開発する余力が足りないことは確かだ。実際、クルマがとんどんと売れるのだから、そのための新車開発や生産が最優先される。理想を言うならハイブリッドカーなどのエコカーの開発を最優先にしてほしい。これは日本の環境のためだけでなく、中国の自動車メーカーの将来にもつながることだからだ。大型SUVに固執するアメリカメーカーにはがっかりしたが、エコカーの展示が増えていることには多少期待が持てる。来年、2010年は上海万博の開催年。これが終わった2011年の上海モーターショーでは、実際に走行できる多くのハイブリッドカーを見てみたいものだ。

なんと紅旗のSUVコンセプトカーが登場。紅旗は高級車として年配層を中心に有名で、中国でも今後プレミアムSUVが人気になるのだろうか。ただ、細部を見るとコンセプトカーの域を出ていないようだ

グリルの雰囲気やディテールにリンカーン・ナビゲーターに似た部分を感じる。ボンネットフードに付けられたマスコットは紅旗であることを示している。それにしても迫力があるグリルまわりだ。歩行者保護をどの程度まで考えているかは分からない

全長4805mm、全幅2000mm、全高1800mmというサイズだからフルサイズSUVより小さいが、このようなモデルが中国を走りまわるようになるのが心配だ

ディスクブレーキにはドリルドローターを使い、キャリパーも大型のものを使っているが実際に走行できるのかはわからない

ヘッドライトはLEDを使っているがこのままでは光量が足りないはずだ。コンセプトカーなのでデザイン優先なのだろう

ハッチバックには漢字で紅旗のエンブレムが付けられている

下まわりをのぞいてびっくり。なんと元はリーフリジッド式サスペンションだったようだ。ラダーフレームも見えるためベースは小型トラックなのだろうか。コンセプトカーには適当なベース車両を使うこともあるが、そうした場合は下まわりが見えないようにフルカバーするのが普通だが…中国ではそんな細かなことは気にしないようだ

エレクトロニクス分野は中国が得意とするところ。アンテナにリヤカメラをビルトインしているのは珍しい

フェンダーに付けられたエアアウトレットはポルシェ・カイエンをイメージさせる

紅旗SUVのインテリアは、コンセプトカーのためモックアップの可能性が大だ。センターコンソールには欧州車で流行するダイヤル式のファンクションスイッチを装備

ドアミラーの代わりにカメラシステムが装備されている。ドアミラーの張り出しが小さくなるので、狭い道でのすれ違いが楽になる

こちらはトヨタの先代マジェスタをベースにした紅旗

インパネの雰囲気はマジェスタそのもの

現地メーカーの奇瑞汽車(CHERY)もSUVを展示。Rely X5というネーミングは、Relyが独自にSUV系などに付ける名前だが、X5は明らかにBMWを意識したものだ。デザインはガンダムチックで独自性があるユニークなものだが、X5のネーミングは微妙だ

リヤスタイルはちょっとグランドチェロキーに似ているかも。エキゾーストエンドはユニークな六角形

韓国メーカーのヒュンダイも3月のジュネーブモーターショーで発表したコンセプトカーix-onicを上海でも展示。今後SUVが人気になることを予想しての展示だろう

ヒュンダイはデザインも独自性があり、見ていて美しい仕上がりだ。日本でも売れるかもしれない

アメリカメーカーのSUVと違い、燃費に優れる1.6Lの直噴ガソリンターボエンジンにアイドリングストップ機構を組み込み、これをヒュンダイはブルードライブと表現している。こうした燃費性能に優れたSUVやハイブリッドのSUVが中国で普及するといいのだが

GMグループのブースの中でもっとも注目されていのたが、このビュイックのビジネスコンセプト。ハイブリッドシステムを採用しているとはいうものの、それはコンセプトカーだからだろう。将来、市販するときに単なる大排気量エンジンになっていないことを願うばかりだ

GMらしく? コンセプトカーでもフルサイズだ。全長は5278mm、ホイールベースは3198mmというからプレミアムSUVのキャデラック・エスカレードより全長もホイールベースも大きいことになる

迫力を重視したフロントフェイスに比べると、リヤはさっぱりとした印象だ。丸く絞られたリヤデザインは、実際より大きさを感じさせない

リヤスライドドアというところを見るとSUVとミニバンを合体させたようなクルマだ。インテリアはコンセプトカーの域を脱していないが、将来こうしたモデルが売れ筋の中心となるのが心配だ

メルセデスのMクラスやキャデラックのテイストが入った現地メーカーのSUV 帝豪(EMGRAND)EX925。こうしたSUVは若者を中心に確実に注目を集めている。中国の自動車雑誌にもSUVだけを扱う雑誌があることからも予想できるが、今後SUVの人気が高まるはずだ。2.2Lのディーゼルと2.4Lのガソリンエンジンを搭載。ボディサイズの割には小排気量だが排ガスのクリーン度は?だ。中国の排ガス規制はまだまだ緩い

フォードはFLEXをターンテーブル上に展示。すでにインドのタタ自動車に売却したランドローバーのテイストが入ったSUV。フォードもこうしたモデルを展示するのは、中国市場でSUVが伸びることを確信しているからだ

フォードFLEXにはマイクロソフトが開発したハンズフリー・ブルートゥース テレマティクス・システムSYNCが搭載されているようだ。ガソリンエンジンではなくE-FLEXが普及することを願いたい

プレートにはLYLiN Hybridと書かれているが、何がハイブリッドなのかわからない一台がこれ

ボディサイドには怪しい文字となぜか豹が描かれている

リヤにも小さいがハイブリッド・ドライブのエンブレムが付けられている。このようなコンパクトのハイブリッドカーが売れてくれれば、環境に与える影響が少ないのだが…

ボンネットを開けてびっくり。エンジンカバーが付いている下を見ても横を見てもモーターや制御ユニットも高圧ハーネスを示すオレンジ色のラインも見当たらない

インパネにもハイブリッドカーらしさはまったくない

リチウムイオン電池らしきものがリヤシートの後ろに搭載されている。高圧ハーネスや冷却ファンはどこに付けられているのだろうか? ハイブリッドカーを造ろうという意識は評価できるのだが…

近くにはかなり大容量と思われるリチウムイオンバッテリーを展示。電力事情が厳しい中国では、現段階ではEVの普及は難しいのかもしれない

何かとお騒がせなGEELYは、スーパーハイブリッドシステムEEBSというハイブリッドシステムを展示していた。1.5Lエンジンに組み合わされるモーター(手前の緑の丸いモノ)は巨大だ

もちろんバッテリーはリチウムイオン。パワーコントロールユニットなども装備している

スタート時はモーターのみで走行できるEVモードがあるようだ