08年は自動車業界にとって、記憶に残る年になったと言っていいだろう。年初からガソリン価格の上昇が心配されていたが、その予想は的中。暫定税率の関係で4月はいったん販売価格が安くなったが、それは課税が本来の本則に戻されただけであって、すぐに暫定税率は復活してしまった。

自動車関連税は多くの矛盾を抱え、長年続くおかしな"暫定"税率が適用されている税が多い。こうした税金を考え直すいい機会になると思ったが、それをかき消すようにガソリン価格が上昇。税金の話はされなくなり、ガソリンの販売価格のことだけに注目が集まってしまったのは残念だ。

そのガソリン価格は7月から8月にピークを迎え、財団法人石油情報センターのデータでは、7月のレギュラーガソリンの全国平均価格は193円。8月にはさらに高くなって196円まで上昇した。夏のドライブシーズンを直撃した価格高騰は珍現象をももたらした。平日はいつも渋滞しているはずの首都高速がガラガラになってしまったのだ。地方の方はピンとこないだろうが、首都高速をドライブすることが多い人にとっては衝撃的なことだった。クルマによる観光や郊外のファミリーレストランが影響を受けたというのは記憶に新しい。

だが、このガソリン価格のピークに合わせるように問題が表面化してきたのはアメリカの"サブプライムローン"。世界的な金融危機の元凶となったのはご存じのとおりだ。世界経済が坂道を転げ落ちるように悪化した原因は、やはりリーマン・ブラザーズの破たんだろう。08年9月15日にチャプター11(連邦倒産法第11章=日本の民事再生法に相当)の適用を連邦裁判所に申請すると発表したときが、現在に続く悪夢の始まりだった。

瞬く間に世界経済は混乱し、不況の嵐が吹き荒れるようになってしまった。金融機関や証券会社だけではなく、あらゆる業種に影響が出始めた。そのなかでも自動車業界の経営不振は衝撃的だ。まだ現在進行形なので、どこまでクルマの販売が悪化するのか予想できない。少なくとも1年から2年のうちに販売台数が急上昇することはないだろう。

最近アメリカではGM、フォード、クライスラーを「ビッグ3」とは呼ばないメディアが現れたという。事実上販売台数や収益ではトヨタがトップに立ったわけで、これらの会社がビッグでなくなってしまった。そのため本社や主要工場があるデトロイトにある会社、という意味でデトロイト3というらしい。まだ会社として存続しているからいいが、これが今後デトロイト2やデトロイト1になるのが怖い。

ライバルが減ると通常はライバル会社が喜ぶはずだが、自動車業界はまったく違う。日本のトヨタ、ホンダ、日産など全メーカーのトップはデトロイト3が破たんすることを恐れている。それはパーツメーカーなど各社が使っているサプライヤーに大きな影響がでるからだ。日本のサプライヤーもデトロイト3にパーツを供給しているから、そこが影響を受けて連鎖破たんとなれば、日本のメーカーはクルマを作れなくなってしまう。これはアメリカの現地工場で作っているクルマだけではない。日本国内のサプライヤーも多くが影響を受ける深刻な問題なのだ。

衝撃的だったのは救済法案が事実上廃案になったことだ。12月中旬経営危機に陥ったデトロイト3を救済するため、最大140億ドル(約1兆3000億円)のつなぎ融資を柱とする救済法案は成立するとボクは見ていた。公聴会に各メーカーの首脳が自社の小型ジェット機で来たことに批判が集中。危機に対するトップの考え方の甘さを露呈したが、これらの会社が破たんすればリーマン・ブラザーズ以上の影響が出ることは必至だ。だからアメリカ議会の上院でも可決されると思っていた。だが上院は12月11日、最終合意に至らず決裂。

その後、幸いなことにアメリカ政府はデトロイト3の救済に動いた。金融危機対策のために用意していた公的資金枠をデトロイト3のために使うというのだ。総額174億ドルのつなぎ融資を実施すると発表したことで、08年内に破たんする恐れはなくなった。財務状況がひっ迫していないフォードはまだつなぎ融資を受けない可能性もあるが、GMとクライスラーの首脳陣はきっと胸をなでおろしたに違いない。しかし、無策を続けたGMのリチャード・ワゴナー会長が、会長というポジシションに執着しているのはなぜだろう。経営責任をとって辞任というのが普通ではないだろうか。

次の危機の波は09年3月だ。つなぎ融資の条件として、抜本的な再建計画をまとめることを約束している。そのリミットが3月なのだが、各社の首脳が大胆な再建計画をまとめられるかはとても疑問だ。

そうした状況下でGMが声明を発表した。

「今回、米自動車メーカーの危機的な状況ならびに米国経済の破綻を防ぐべく、ブッシュ大統領によるつなぎ融資発表に感謝するとともに下記重要項目への取り組みを速やかに対処する所存です。この融資により弊社の運営が継続され多くの米自動車産業に係わる企業ならびに職務が失われる事を回避できます。さらに今後は下記重点項目を主としてクリーンでかつ強力なGMの再建に向け鋭意努力する所存です。

・市場が求めるエキサイティングなデザイン、そして品質のさらなる向上とワールドクラスの商品の製造
・次世代燃料車を含む省エネ技術の開発
・市場への迅速な対応と環境ならびに社会への貢献

チャレンジングな課題ではありますが、我々のまた、アメリカの技術力の底力を全域に活用して善処していく所存です。また、その進捗状況に関しては随時透明性のあるご報告を行いたいと思います」

声明ではコスト低減に対して明確な意思表示をしていないのが気になる。再建計画で求められているもっとも重要なポイントは、日本メーカーに比べて割高な生産コストの低減だ。

08年を振り返ると暗い話題ばかりが多くなってしまったが、新春らしい09年の話題を探してみたい。09年は「エコカー多様化の時代」となる。すでにアメリカのデトロイトショーではトヨタのハイブリッドカーである新型プリウスとホンダのインサイトが姿を見せた。09年前半はプリウスとインサイトの大バトルになることが必至だ。なにしろインサイトはプリウスのコピーといってもいいスタイルで、燃費はもちろん価格まで戦略的なものにしているという。うわさでは200万円で買える本格ハイブリッドカーということで、これまでプリウス一人勝ちだったハイブリッドカー市場の勢力図が塗り変えられる可能性がある。とくに不況時には安くて燃費のいいクルマが求められるのは当然。状況によってはプリウスの戦略が大きく見直されることも予想できる。

もう一つのトピックは、電気自動車の本格的な販売だ。注目は三菱のi MiEV。当初2010年に発売予定だったが、その計画を見直して09年に発売することが決定している。発売月はまだアナウンスされていないが8月ごろ発表し、10月に開催される第41回東京モーターショーに合わせて発売が開始されるのではないだろうか。もう少し発表、発売が早くなり、5月ごろという情報もある。いずれにしても大注目のクルマであることは間違いない。

すでにこのマイコミジャーナルのサイトでもi MiEVに試乗したときの記事を掲載しているが、クルマのできはすでに市販車レベルだ。電気自動車の生命線であるバッテリーを供給するGSユアサの生産体制と補助金の適用が決まれば、すぐにでも販売できる。

スバルもステラベースの電気自動車であるプラグイン ステラを販売する予定だが、こちらはちょっと不透明だ。トヨタとの小型FRスポーツ車の開発が先延ばしになり、WRCからの撤退など経営状況は厳しい。さらに追い討ちをかけるのが上級車に移行する新型レガシィだ。5月に発表、発売される予定だが、大きくて上級なクラスになるので価格も高くなることが容易に予想できる。固定客がいるレガシィでもこの不況時に価格が高くなるのは販売台数に大きな影響を及ぼすはずだ。大黒柱のレガシィがコケルようなことになれば、プラグイン ステラもお蔵入りということは十分に考えられる。

プラグインつながりで09年の注目をもう一つ。新型プリウスは、早ければ09年末にプラグインタイプを設定する。すでに現行型で実証実験を重ねているが、従来の予定のままならば09年末に登場してもおかしくない。だが、トヨタも世界的な不況にもまれ、さらに円高で利益が吹き飛んでいる状態。プラグインハイブリッドは発売されても限定的な販売になる可能性もある。トヨタにはリチウムイオン電池搭載のハイブリッドをリリースする計画も控えているから、どれにプライオリティーを置くのかが注目点だ。

世界的な不況でも温暖化対策は待ったなしの状態。09年にクルマを乗り換える予定がある方は、ぜひハイブリッドカーや電気自動車などのエコカーにしてほしい。日本の自動車産業を支援することにもつながるし、新ジャンルのクルマは新たな分野の雇用を創出する可能性がある。09年が明るい年になることを切望する。

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員