これだけ飲酒運転が社会問題化しているにもかかわらず、いまだにお酒を飲んでハンドルを握っている人がいる。信じがたいことだが事実だ。こうした行為をした人には飲酒運転が犯罪であることを認識して欲しいが、このような罪を犯す人に良識をもってもらうことは非常に困難。抑止力を狙って厳罰で対処するのもしかたがない。

道交法が一部改正され、飲酒関係の厳罰化が9月19日から施行された。内容を知っている人も多いだろうが、改めて改正のポイントを知っておきたい。今回の厳罰化は飲酒運転をした本人のさらなる厳罰化に加え、お酒を提供した側の罰則が大幅に引き上げられている。お酒を提供した人や飲食店側などの罰則も強化され、同乗したり、車両を提供しても罪に問えるというのが大きな特徴。

まず運転者本人に対する罰則の変更点を確認。酒酔い運転は従来3年以下の懲役または50万円以下の罰金だったが、9月19日からは5年以下の懲役または100万円以下の罰金に改正された。懲役が2年延びて5年になったことよりも効果が大きいのが、罰金が倍の100万円になったこと。酒酔い運転の犯罪者のほとんどは罰金を払って済ませるため、酒酔いで100万円という額は抑止効果を高めるために有効だ。

次は酒気帯び運転。これが最も多い。酒気帯び運転は、身体に政令で定める基準である呼気1Lに0.15mgか血液1mlに0.3mg以上のアルコールを保有する状態で運転すること。ちょっと飲んでという状態だから、多くのドライバーが酒気帯びで捕まるわけだ。従来は1年以下の懲役または30万円以下の罰金だったが、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に強化された。従来は上限が30万円以下と決められていたため、この額ではそれほど抑止効果がなかった。今度は従来の酒酔い運転の50万円と同額になったからかなり効果があるはず。酒酔い運転は真っ直ぐに歩けないほど酔っている運転者にしか適用できないが、酒気帯びは少しでも酒を飲んでいればほとんどが引っかかる。50万円の罰金ならば相当経済的なダメージが大きいから、抑止力になるわけだ。

飲酒検問など取り締まり現場でのトラブルを少なくできる"飲酒検知拒否罪"も強化された。従来は30万円以下の罰金だったため、呼気検査を拒否して飲酒検知拒否罪を受ける例もあったようだ。取り締まり現場を混乱させる原因にもなっていたが、今回から3月以下の懲役または50万円以下の罰金になった。検査を拒否しても酒気帯びと同じ罰金を科すことができるようになったわけだ。

飲ませた側の罰則も大幅に強化された

お酒を提供した側の罰則も懲役刑と罰金刑が加わった。「飲酒運転することとなるおそれがある者に対する酒類の提供」を行うと、飲酒運転者が酒酔いか酒気帯び運転かによって罰則が違うのだ。例えば居酒屋で運転して来店したことを知っていてお酒を提供して、客が酒酔い運転で捕まれば3年以下の懲役または50万円以下の罰金。酒気帯びでも2年以下の懲役または30万円以下の罰金。郊外などによくある駐車場付きの飲食店では、飲酒する客が運転者でないことを確認しないと、今後はこの"酒類提供罪"に問われる可能性が高い。

また、飲酒運転を助長した者に対する罰則もある。これはクルマを貸す行為自体を抑止するためだ。「酒気を帯びていて飲酒運転することとなるおそれがある者に対する車両等の提供」というもので、貸した相手が酒酔いで捕まると5年以下の懲役または100万円以下の罰金だからかなり重い。酒気帯びでも3年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。刑事罰とは別に民事でもクルマを貸すことで賠償責任を負う可能性が高い。貸した相手に賠償能力がない場合は、クルマを貸した側が賠償責任を問われるわけだ。任意保険に入っていても家族限定などの特約を付けていればもちろん、クルマを貸したことが重大な過失と判断されれば保険金の支払いがないこともある。

友だちと居酒屋で一杯やって、その帰りにその友だちがクルマで送ってくれるといっても絶対に同乗してはダメだ。こうした場合は運転を止めさせるようにすることが大切。つい乗ってしまうと罪になる可能性が高い。「車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、要求・依頼して飲酒運転されている車両に同乗」というものだから、要求や依頼していることが必要だが、酒酔い運転で捕まると同乗者は3年以下の懲役または50万円以下の罰金。酒気帯びでも2年以下の懲役または30万円以下の罰金だ。

このコラムを読んでくれている方は飲酒運転などしないだろうが、罰則を強化しても社会に広く知られなければ抑止効果は高くならない。ぜひお酒を飲む時には今回の改正を話題にしてほしい。それと飲酒運転が重大な犯罪であることも話題にしてほしい。そうすればさらに飲酒運転者を減らすことができるはずだ。

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員