本コラムでは、自動車や交通に関わる環境、行政など、モータリゼーションにおける旬のトピックをピックアップして解説してみようと思う。その第1回目は道路交通法の一部改正について。

この6月から免許区分が変わったのをご存知だろうか。道路交通法の一部を改正する法律が平成16年6月に公布され、平成19年6月2日に施行されたため運転免許に中型免許が新設された。以前の免許の自動二輪にあった限定条件の「中型」ではなく、四輪の免許区分が変わったもの。従来の普通と大型免許の間に中型を設定したわけだ。

中型免許の導入理由はトラック事故が多いため、徐々にステップアップさせて事故を減らそうというもの。この道路交通法改正前までは普通免許で車両総重量8トン、最大積載量5トンまでのトラックが運転できた。18歳で普通免許を取得すれば、大型トラック並みに大きな4トンのロングボディも運転できてしまったわけだ。慣れない大きなトラックを運転して、重大事故を起こすということも問題視された。加害性が大きい大型トラックの事故を防止するため、運転免許を段階的にして運転経験を積ませるという狙いもある。

では実際に6月2日交付分から変更された免許を見てみよう。すでに免許の更新をした人もいるだろうが、新しくもらった免許を見てビックリした人もいるはず。今まで「普通」免許だったのが、更新されると「中型」にバージョンアップしているのだ。中には更新したら自動的に中型免許をもらえてラッキーと思っている人もいるだろうが、条件の部分をよく見てほしい。「中型車は中型車(8t)に限る」という限定条件がついている。これは6月1日までに普通免許を取得していた人が、運転できるクルマの範囲が変わって困らないようにした限定条件。既得権を認めたわけだ。中型免許でもこの限定条件が付いていると今までの普通免許と変わらず総重量8トン、積載重量5トン、乗員10人までのクルマしか運転できない。

えっ、家族で運転できない!?

免許区分が変更されて困るケースを考えてみたい。例えば大型キャンピングカー。団塊世代のお父さんは退職を機会にアメリカ製の大型キャンピングカーを購入。全国の観光地や温泉を家族でドライブして回ろうと考えていた。全長は10mほどで車高も3.5mほどあり、搭載エンジンはV10のガソリンエンジンという、国産大型観光バス並みの大きさのキャンピングカーだ。これほど大きくても乗車定員はたったの6人だから普通免許で乗れる範囲内。今回の改正でも普通免許の乗車定員の範囲は変わらず10人だ。

だが、問題なのは車両総重量。家族で全国を回るならば息子にも運転してもらいたいが、その息子は6月2日以降に普通免許を取得した。運転できる範囲は5トン未満。大型キャンピングカーの車両総重量は6.5トンだから昔の普通免許ならば余裕で運転できる範囲内だが、新設の免許区分の普通免許では運転できない。お父さんは息子には運転させることができず、自らの運転だけで全国を回ることになってしまうわけだ。レアケースだがこうした現象も今後考えられる。

これらが中型免許新設の理由だが、今後の自動車教習所のための改正という見かたもある。少子化で運転免許を取得する人が減ることが予想されているが、免許区分を増やせばそれだけ教習所に通う人が増えるわけだ。教習所は警察関係者の天下り先の一つになっているためこのような「対策」が必要になった。トラックの事故防止と警察の事情がうまくリンクして誕生した免許という見方もできるのだ。

免許に暗証番号2組必要って!!

6月の改正よりも先に今年1月から実施されているのが「ICカード免許」。運転免許に財務省が発行する使用上限なしのICクレジットカード機能が付けられた、というおいしい話ではまったくない。免許の偽造防止のために非接触式のICチップを埋め込んだ免許証だ。すでに手にした人もいるだろうが、このIC免許は問題点がいくつもある。まず免許更新時の交付手数料の値上げだ。警察庁の都合による変更にもかかわらず、ICチップ分として450円も値上げされてしまった。

それに更新の手続きが複雑になったのも混乱を招いている。じつはIC免許は暗証番号4桁が2組必要。更新時に暗証番号が2組も必要と知って慌てる人が少なくない。第一暗証番号は、ICチップに記録された氏名や生年月日、免許証交付年月日、有効期間、免許の種類、免許証番号の確認のため。第一に加え第二暗証番号を入力すると本籍や顔写真まで確認できるということらしい。ちなみにIC免許は本籍が書かれていない。これはプライバシーを守るためだという。

ほかにも問題点はある。それはICチップが非接触式という点だ。仮に警察が通信設備を駅や交差点などあらゆるところに設置すれば、IC免許を持っている人を特定できるし、監視ができる可能性もある。一般のドライバーにとってIC免許はメリットがほとんどなく、デメリットのほうが多いのだ。

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員