今年もあと2カ月となりました。いろいろなシーンで1年間の振り返りをし始める頃ですよね。ところで、会社員の人であれば、今月には会社から毎年配布される書類があります。特に書くこともなく署名捺印だけで返送している人もいるかもしれませんが、あの書類の提出をしないととても面倒なことに。あの書類、いったい何なのでしょう?

課税の仕組みを理解しよう

毎年11月頃に「扶養控除等(異動)申告書」という書類が送られてきます。「自分はまだ結婚していないけど……」とか、「いつも署名捺印だけで返送するから、何の意味があるのかわからない」という人もいるようです。しかしこの書類の提出を怠ると、本当に面倒なことになるので要注意です。

所得があれば、所得税や住民税を徴収されます。会社員であれば毎月の給与から天引きされるのであまり気にしたことはないかもしれませんが、実はそこまでに会社がみなさんに代わっていろいろなことをしてくれているのです。

まず、所得税を算出するまでの仕組みを確認しましょう。税金は収入すべてにかかるわけではなく必要経費を差し引いたあとの「所得」にかかるのですが、自営業と違い、会社員は仕事の上で原則経費という概念は、ごく一部を除きありません。ただし仕事用のスーツや靴を買うなど、会社員としてお金をかけないといけない部分もあります。そのため、給与収入のうち一定額を「給与所得控除」といって会社員の経費として位置付けており、「収入-給与所得控除=給与所得控除後の所得」となります。

【給与所得控除額の求め方】

では、この所得に対して課税されるのかというと、そうではありません。ここから更に差し引けるものがあります。例えば強制的に徴収される社会保険料、家族や資産を守るために加入している生命保険や医療保険、火災保険などは課税の対象から除かれるべきものです。このように所得から除いて良いものを「所得控除」といい、12種類認められています。

この12種類の所得控除の中には、要件を満たした保険料を払い込んだ人は「生命保険料控除」、扶養している配偶者がいる人は「配偶者控除」、配偶者控除には該当しないが、所得が一定の範囲内である配偶者がいる人は「配偶者特別控除」、要件を満たした扶養家族がいる人は「扶養控除」などがあり、該当する人は一定額を差し引くことができます。

「給与所得控除後の所得-所得控除」で算出されたものが最終的な「課税所得」といい、税金がかかる対象となるのです。

「課税所得」とは

本来このような税金の精算は確定申告によって行いますが、上に記載した控除は比較的多くの人が該当することから、会社が従業員に代わって計算をしてくれます。これが年末調整です。そのための証明書として「保険料控除証明書」を添付する、配偶者や扶養者の状況を記載するなどして、勤務先に提出する必要があるのです。

つまりこれを怠ると、差し引ける控除を適用できず、その分所得税が高くなってしまいます。ですから、保険会社から証明書が送られてくるのは10月頃、年末調整の書類が配布されるのは11月頃となり少し時間があきますが、紛失しないようにきちんと保管しておきましょう。

年末調整に間に合わなかったら自分で確定申告を

では年末調整の期限に提出を忘れたらどうなるのでしょうか。まだ救済措置はあります。それは自分で確定申告をすること。せっかく従業員の手間を省くように会社が肩代わりしてくれるチャンスを放棄してしまったのですから、これは当然です。

確定申告となると、手書き、またはインターネットでの申告書作成を行い、税務署に提出(またはインターネットで送信)する必要があります。この程度の申告であれば難しいことはありませんが、やはり前述した、収入から課税所得になるまでの過程を理解していないとよくわからないかもしれません。

なお、それ以外にも医療費が多くかかった人や空き巣や災害などで被害に遭った人、寄附を行った人などは、要件を満たせば控除の対象となります。ただしこれらについては年末調整で行ってくれる控除の対象ではないため、年末調整を行った人でも確定申告をしないとなりません。

今、日本では少子高齢化の影響で、社会保険料や税金がアップする一方、給与が右肩上がりに上がり続けることは期待できません。収入が増えずに徴収されるものが多くなれば、使えるお金が少なくなるということ。会社員は税金や社会保険料(厚生年金保険料や健康保険料など)についてはほとんど会社任せのため、興味も持たず意識もしていない人が多いのですが、今後の資産形成のためにも、税や社会保険の仕組みにもっと興味を持ってもらいたいなと思います。

執筆者プロフィール : 鈴木暁子

ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)。キャリアコンサルタント。FPオフィス Next Yourself代表。
「多様化するライフスタイルに応じたライフプラン・マネープランづくりが重要」という視点で、企業、自治体、大学オープンカレッジなどで年間約50回のセミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・WEBなどで精力的に情報発信をしている。
「お金はいい使い方をしてこそ活きる」をモットーに、これまでに数百件の家計診断のほか、 個人コンサルティングも行っている。資産運用、ライフプランニングを得意とし、特に共働き夫婦のライフプランニング、リタイアメントプランニング、高齢期のお金と住まい、相続設計に力を入れている。著書に『100歳まで安心して暮らす生活設計』(実業之日本社)。