「貯蓄から投資へ」を推進する仕組みのひとつとして、2014年に少額投資非課税制度(以下、NISA)が創設されました。来年からもうひとつ新しいNISAが登場します。今回は来年からスタートする「つみたてNISA」の仕組みを解説します。

現行NISAとつみたてNISAの違いを理解しよう

2014年に創設されたNISAはどんなに利益を出しても非課税ということで、口座数は増えているのですが、実際にNISAを活用して運用を実践しているという人は思ったより増えていません。

特定口座や一般口座のように利益を出すと課税される口座は、損失を出した場合には損益通算といって利益と相殺することができます。つまり実質の利益にしか課税されませんが、NISAでは非課税つまり利益はないものとする分、損失が出てもないものとみなされ、他の利益と相殺することができません。つまりNISAでどれだけ損失を出しても、他で出た利益には課税されてしまうことが、投資家にとっては最大のデメリットであるわけです。

現行のNISAでは、リスクを覚悟で大きな利益を非課税にしたいタイプの取引と、あまりリスクは背負いたくないので大きな利益狙いではなく、配当や分配金にかかる税金を非課税にしたいタイプの取引がありますが、これらの場合はいずれもある程度まとまった元手を投資するケースが多いです。

ところが、株式や投資信託など値動きがある金融商品は、一度にまとまった投資をすると、NISAは年間投資額に上限があるため、値下がりしたときに買い増すことができないケースは値上がりを待つしかなくなります。

「長期」「分散」「積立」は投資の王道

したがって値動きがある金融商品は定期定額で、価格が高いときは少し、安いときは多めに買うことで購入コストを平準化し、価格変動リスクを軽減することも有効なのです。また、一極集中ではなく、いろいろな性格を持った金融商品に分散投資することで、金融商品が持つ値動きの要因も分散できます。

更に重要なことは時間をかけて資産を育てることです。短期で結果を出そうとすると、どうしてもリスクが高くなりがちなので、投資において時間は何よりの味方といえます。つまり「長期」「分散」「積立」は投資スタイルの王道であり、家計においてこのスタイルを促進するため、税制面で優遇するという仕組みが「つみたてNISA」です。

つみたてNISAの仕組み(出所:金融庁「導入直前! つみたてNISAの制度説明」(平成29年9月10日))

現行NISAの5年間(ロールオーバーを含め10年間)という期間では長期運用は難しいこと、投資は少額でも可能であることなどを踏まえ、つみたてNISAは長期の積立投資に向いた仕組みとなっています。概要は以下のとおりです。

つみたてNISAの概要

つみたてNISA向けに用意される投資信託は、長期投資に向いたものとなる予定です。したがって上記概要の対象商品に記載している要件以外にも、コストが低め、運用実績、純資産残高などにも着目してラインアップされます。

長期的な視点で資産を形成したい若い世代には、現行NISAよりも使い勝手が良いのではないかと思います。ただし、次のような留意点もあります。

■つみたてNISAの留意点
・投資対象商品が限定的……6,146本(平成29年8月末時点の公募投資信託本数 投資信託協会公表)のうち、数百本のラインアップ
・現行NISAとの併用はできない……1年単位での選択は可能
・現行NISAからつみたてNISAへのロールオーバー、またはその逆もできない
・投資額の上限が低い……40万円/年

10月1日から口座開設の受付が開始されています。金融機関によって商品のラインアップにも違いがあります。現行NISAで口座開設している人は同じ金融機関になると思いますが、初めて口座開設をする人はしっかり比較検討して金融機関を決めましょう。

次回は現行NISAとつみたてNISA、また長期・分散投資の方法であるiDeCo(個人型確定拠出年金)との比較や使い分けなどについて解説していきます。

執筆者プロフィール : 鈴木暁子

ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)。キャリアコンサルタント。FPオフィス Next Yourself代表。
「多様化するライフスタイルに応じたライフプラン・マネープランづくりが重要」という視点で、企業、自治体、大学オープンカレッジなどで年間約50回のセミナー・講演を行うほか、新聞、雑誌・WEBなどで精力的に情報発信をしている。
「お金はいい使い方をしてこそ活きる」をモットーに、これまでに数百件の家計診断のほか、 個人コンサルティングも行っている。資産運用、ライフプランニングを得意とし、特に共働き夫婦のライフプランニング、リタイアメントプランニング、高齢期のお金と住まい、相続設計に力を入れている。著書に『100歳まで安心して暮らす生活設計』(実業之日本社)。