専業主婦はあこがれ!?

もともと専業主婦志向が根強い日本

ハウスワイフ2.0現象に揺れるアメリカ。それでは日本ではどうか? 今政府は「女性活用が成長戦略の鍵」「女性の管理職を3割に」としきりに言っていますが、日本ではもともと専業主婦志向が根強いのです。

なぜ……とよく聞かれますが、今の若い女性たちにとって、「専業主婦」こそなれない高根の花。なれない希少なものにこそ人はあこがれます。均等法第一期世代の女性たちにとって専業主婦は当たり前でキャリアウーマンこそ、あこがれでした。しかし今の若い女性たちにとって、働くことこそ当たり前で、時には苦行であり、外で働かなくていい専業主婦こそ、あこがれなんです。

しかし、現実は甘くない。多くの女性たちが「あこがれるけれど、自分は無理だろうな」と思っています。そこで彼女たちが選択するのは「ゆるキャリ」です。ゆるキャリとは、バリキャリ(男性と同等を目指しバリバリ働くキャリア志向の女性)の反対。大手企業の一般事務職などで、年収は低くても9時5時の仕事をして、定年まで安定して細く長く働き続けることです。

日本の女性たちは「ガラスの天井」を感じるところまでは頑張れませんでしたが、ゆるキャリ志向の20代とアメリカのハウスワイフ2.0現象は、似ています。その根底に「職場への不満」があるところが。

むしろ日本女性のほうが男性中心社会で「男と同じく会社に24時間捧げて働いても、ちっともいいことはない」と早くに絶望しています。

今働き方の問題が問われていますが、アメリカと同様、「子どもを持った女性」が働きづらいのが長時間労働の職場。育休や時短があっても、結局「がんばっても子どもができたら男には負ける」ことを日本の女性たちは早くに見切っている。そして男性たちですら、今の20代は「会社にすべてを捧げてもリターンが少なすぎる」「出世しなくてもいい。もっとプライベートを大事にしたい」と思っています。

そこでアメリカの20代30代は会社から離脱して、夫の収入に依存しながら、何でも手づくりして節約し、エコで素敵なライフスタイルをブログで発信している。

「ゆるキャリ正社員」か「ママCEO」か

日本の今や代表的な主婦雑誌となった光文社「VERY」ですが、現実には読者の半分が正社員です。しかも一般事務職などの残業がない「ゆるキャリ正社員」で仕事と子育てを両立している。すがすがしいほど「仕事はお金のため。あくまで大切なのは家庭」と言いきっています。

あとの半分の専業主婦の人たちも、子育てをしながら「ママCEO」としてプチ起業を目指しています。身を粉にして「フルパート」で働くほど切羽詰まっていない。でも、お金は欲しい。プライドも大切。そんな主婦たちが夢見るのは「ママCEO」で、そんな風潮を反映してか、女子大生に「在宅で仕事をしている」人の話をすると、みんなの目が輝く。「会社に縛られ長時間こき使われる」ことに日本と米国の女性たちはうんざりしているのでしょう。

しかし、両者のリスクは「それほどお金は稼げず、基本は経済的に会社員の夫に依存している」ことです。かつて取材した、ママ起業の女性たちは「月10万」の壁をなかなか超えられませんでした。むしろ料理教室などはコストを考えると赤字です。突然休むと言いだすママ友から「ドタキャンならお月謝を払って」と言えるかどうかが10万を超えられるかどうかの鍵。成功している人は少数派で、むしろ「夫の稼ぎで赤字でも教室を運営している」ことがステイタスになっていました。

自分の選んだ場所こそ幸福の源泉

ネットのおかげで、手作りを売り「プチお小遣い」は稼げるが、もし夫が倒れたら、もし夫と離婚したら……そこに備えるほどのお金は作れないのです。

依存はお金だけではありません。幸福な主婦は必ず夫がいい人です。

日本の幸せな主婦も、アメリカのハウスワイフ2.0も、共通は夫が「いい人」だとうこと。

「夫がいい人で家事も子育てにも協力的」で『誰が稼いでいると思っているんだ!』などと声を荒らげない、DVや飲酒などの悪癖がないことが、彼女たちの幸福の源泉でした。さらにサイボーグのように壊れず、ウツにもならず、一生働き続けてくれたら言うことはありません。「ハウスワイフ2.0」の著者、エミリー・マッチャーも「経済的に夫に依存することのリスク」を指摘しています。

かつての専業主婦は、そういった生き方を強いられていた。だから「自ら働くことを選択」したキャリアウーマンが輝いていた。しかし今や、中流階級の専業主婦は、自らその生き方を選んでいる。専業主婦にしろ、キャリアウーマンにしろ、「自ら選ぶ」ことができる……それが人の幸福観の源泉であると、このハウスワイフ2.0現象は教えてくれるのです。

<著者プロフィール>
白河桃子(しらかわとうこ)
少子化ジャーナリスト、作家。相模女子大客員教授。経産省「女性が輝く社会のあり方委員会」委員。山田昌弘中央大学教授とともに、2008年度流行語大賞にノミネートされた「婚活(結婚活動)」を提唱し、共著『婚活時代』(ディスカバー21)がある。婚活ブームのきっかけを作った。近著は、『「産む」と「働く」の教科書』(講談社)『格付けしあう女たち 女子カーストの実態』(ポプラ新書)、国立成育医療研究センター母性医療診療部不妊診療科医長の齊藤英和医師との共著で『妊活バイブル』(講談社)、『女子と就活――20代からの就・妊・婚講座』(中公新書ラクレ)。

公式ブログ : http://ameblo.jp/touko-shirakawa

ツイッター : http://twitter.com/shirakawatouko

Facebook : http://www.facebook.com/profile.php?id=100002282391578

仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座 : http://www.facebook.com/#!/goninkatsu

話題の授業が一冊になりました。女の子の親は必見です。
『「産む」と「働く」の教科書』白河桃子・齊藤英和

※写真と本文は関係ありません