非常事態宣言が解除されたから? バンコクはこれまでで最も酷い渋滞

3月19日、タイ政府は首都であるバンコクとその周辺に出していた非常事態宣言を解除した。偶然、私はその翌日にバンコクに入ることとなった。非常事態宣言下のバンコク市内も取材したいと思っていたが、タイミングを逸した。

非常事態宣言が解除されたからではないだろうが、木曜日の昼間の出発であるにもかかわらず、成田発、バンコク行きのタイ国際航空便は席が満席だった。それにしても、このところ東南アジアの人たちをよく見かけるようになった。

この前は、新幹線の京都駅でタイの旗を持ったガイドさんの後をぞろぞろとタイの人たちが歩いていたし、西武新宿駅のペペに入っている雑貨屋さんや、格安メガネのZoffなどを熱心にのぞいていたタイの人たちも見かけた。

本当に素晴らしいことである。彼らにとって、日本に来ることも、日本でモノを買うことも決して安くすむわけではないだろう。それにもかかわらず、わざわざ日本に来てくれる彼らには、本当にありがとうと言いたい。

さて、バンコク・スアンナプーム国際空港に到着した。タラップで一旦バスに乗り換える行程だったので、飛行機から出るとすぐに湿気がたっぷりと詰まった暑い空気を浴びることになった。寒い日本とのギャップで気持ちがいい。

夕方の5時だが、日本に比べるとまだまだ明るい。19時半から、会食の予定が入っているが、2時間半もあれば問題ないだろうと思っていたら、この予想は大外れだった。これまで何度もバンコクに来ているが、最も酷い渋滞だった。タクシーの運転手に尋ねても、事故ではないという。では、非常事態宣言が解除されたから観光客が押し寄せているの? と聞くと苦笑いするだけだった。

渋滞にうんざり顔のトゥクトゥクのドライバー

タイでは2012年の時点で外国人観光客が2200万人、物価が安いから? ではない?

結局、ホテルに着いたのが19時半だった。会食場所までまたタクシーで向かおうと思ったが、ホテルのボーイさんが「スカイトレインにしたほうがいいですよ」と親切にも教えてくれた。スカイトレインとは、モノレールのことだ。

確かにこれだけの渋滞だと公共交通機関を利用するほうが正解だった。約束に15分遅れで到着した。食事をともにした現地駐在の日本人に、非常事態宣言の解除で何か変わりましたか? と聞いても、「特に何もない」という答えだった。

待ち合わせ店はどこにでもあるタイ料理屋さんだ。ふと、気が付いたのだが、白人が多い。しかも、シンガポールで見るような、お腹が出てお金を持っていそうな人たちではない。まだ、デビュー前といった若い白人の男女たちだ。彼らのようなバックパッカーがよく集まるのが、前にも紹介した「カオサンロード」だ。

日本が昨年、外国人観光客が1000万人を超えたといっても、タイでは2012年の時点で、2200万人を超えている。それは、日本よりも物価が安いからだともいえそうだが、1位のフランスは8300万人、2位のアメリカが6700万人となっている。物価でいえば、むしろ同等以上か、日本以上に高いのである。だから、タイへの外国人観光客が多いのは単に物価の安さだけとはいえないのではないだろうか。

夜の活気は相変わらずのバンコク

物価という点では面白いデータがある。Hotels.comが出している、「Hotel Price Index」だ。ここでは、世界主要都市のホテルの宿泊料金の平均単価が示されている。

http://media.expedia.com/media/content/expuk/graphics/hcom/apac/2013/hpi/hpi_sep%202013_jp.pdf

この2013年上期データによれば、東京は1万1682円だ。バンコクは9577円。この程度の差額であれば、東京とバンコクにほとんど差はないと言ってもいいだろう。ちなみに、ソウルでも1万3222円で東京を上回っている。ニューヨークでは2万5743円、パリ2万2303円、ロンドン2万1558円と、東京は軒並み他の先進国都市のホテルよりも安いのである。だから、安ければいいということではないのだ。

日本のホテルは、他の先進国のホテルよりも、内装、アメニティなど含めて質は高い。それにもかかわらず、価格が安いということはきちんとMonetize(収益化)できていない表れでもあり、安ければ観光客が集まるというわけでもないということだ。

タイで感じた「外国人を分かろうとする姿勢」

日本への外国人旅行者がタイよりも少ない一番の理由は、言語の壁というよりも外国人とのコミュニケーション能力だと思う。英語力自体は、バンコクの運転手も本当に分かっているのか、よく分からない。ただ、タイ人が日本人と違う点は、相手が何を求めようとしているのか、理解しよう、知ろうという姿勢なのではないだろうか。

触らぬ神に祟り無しではないが、日本人は日常生活で外国人という異質な者が入ってきたときに、面倒くさいから避けようとする人も多い。一方で、タイの場合だと、分からないから分かろうと努力する。もちろん、個人個人によって全く差があるが、相対的に見ると、タイ人のほうが、外国人とコミュニケーションをとろうとする人が多いのではないか、という私が見たところの感想である。

ワットポーの涅槃仏

仕事の合間に、久しぶりに王宮やワットポーに足を運んでみたが、中国人観光客の多さに驚かされた。ステレオタイプに中国人はマナーが悪いと言われるが、それもやはり人それぞれである。

王宮の衛兵と記念撮影をする中国人女性

むしろ、同じ仏教徒として、仏像や狛犬など、日本人、中国人、タイ人が同じように共感することのできるモノが溢れていて、文化の接点を見たような気がして、感慨を覚えた。

非常事態宣言は解除されたものの、結局3月末に再びデモが行われたというニュースを聞いた。この権力闘争の落とし所はまだ見えないようだ。