Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。この「超実践編」では、実際にFlashアニメの制作を進めていく。今回は、前回にひき続き、キャラクターデザインを進めていく。

超実践編(その2) 作品のスタイル・ルックを決める

前回、企画イメージをまとめ、やった事の無い歌もの作品への挑戦ということで、音楽 の発注を行いました。Tek Kato氏に作曲をしていただいている間に作品のフィーリングや、ルックを決めておかなければいけません。この見た目の絞り込み作業もゴールの無い迷い道のようなものですが、前向きに悩んでいこうかと思います。

まず何より、連載の6回目7回目で取り上げた「キャラクターデザイン」について。

今回の企画では主人公に「クマ」を選んでしまったので、既存の多くのクマをベースにしたキャラクター達とのせめぎ合いになってゆきます。不安もあるのですが、まずはなりふり構わずに、ごしごしと描きなぐってゆきます。

ん~、どうなんだろうと……。この時点で、すでに迷走です。僕の場合、自分自身が常に前に押し出しているスタイルというものがあまりなく、企画に合わせて絵柄やアニメのスタイルも変えているので、どういう風に作るのかというツールや、制作環境からの逆算でスタイルを絞り込んでゆきます。今回は、「Flashをメインに使う」ということぐらいしか決めていないので、迷走の闇が広がっていきます。なんとか形にする為に、もう一歩手を進め、スケッチの中から、1点を選んで手を加えます。

描いた瞬間は気に入っていましたが、5分の休憩後、「かわいくない」、「シルエットが ウサビッチみたい」とブルーに。どうやら、今回、スケッチからポンッとキャラを立てるのはうまく行かない予感がするので、別のアプローチを試みます。本来なら、手を動かす前にちゃんとやっておかなければならないことなのですが、スタイルの方向性について改めて、整理してみます。

●(技術)ひとりで完結できる作業スタイル(複雑にしすぎない)
●(技術)線や、色数を複雑にしない
●(キャラ性格)「気弱」、「消極的」、「大人しい」
●(キャラ設定)「レスラー」「マスクを被る」「子供」
●(個人的趣向)「クリーンになりすぎない」

これらのポイントをきちんと頭に入れてから再び考え始めます。が、もうひとつフックがないまま、時間が過ぎてゆきます。ところが、ここで運良くというか、タイミング良く子供にせがまれて、近所の動物園にゆくことになり、ツキノワグマの子供を見る機会がありました。イメージの中の小熊は、ふわふわ丸々した感じだったのですが、実物を見てみると、人間の子供が中に入っているような、ちょっと間延びしたボディーラインでそれがとてもいい感じに見えました。普段の仕事ではオフィスに籠りっきりで、実物のリサーチなどすることがないのですが、チャンスがあれば実物を見た方がいいのかもしれません。その経験を踏まえ、熊の首の長い感じ、手足のぽったりした感じを目指して、改めてデザインの方向性を見直します。

なんとか、「ありかなぁー」という所までたどり着けました。しかし、現状のデザインの「味」はブラシツールでガシガシと描いたラフな線にあるような感じもしますし、線を整理すると良くなくなる可能性があります。技術的ポイントとして押さえていた、「線を複雑にしない」というのにバッティングしてしまうのですが、ここはルックスを優先して「ラフな線でアニメする」というチャレンジにしてしまいます。また、もう一点、このデザインは本物を元にしているので、デッサンのごまかしがきかないというシビアさがあります。僕は正確なデッサンが苦手なので、ちょっと不安なのですが、「まぁ、なんとかなるかな」と、見切り発車でゆきます。

キャラクターデザインの時点で迷走してしまい結構時間がかかってしまいましたが、こ れもまた実戦ではよくある事ということで、次回へ続きます!

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。森永アロエヨーグルトのWebサイトで、最新Flashアニメシリーズ5作目となる『Boy meets Girl アロ恵』公開中。全国のTOHOシネマズで本編前に上映されている短編『紙兎ロペ』では、アニメーション制作を担当。
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