Flashアニメ作家・青池良輔がクリエイターになる方法を熱く伝授する連載「創作番長クリエイタ」。今回は、あえて「動きの少ないアニメーション」について考えてみる。

動かさないアニメーション

これまでアニメーションの作画で、どうすればキャラクターが活き活きするのかということを考えてきましたが、「Adobe Flash」を使用したアニメーションの中には「動かさない」、「動画を減らす」ことで特徴を出している作品もあります。大変独特な手法なのですが、蛙男商会さんの『秘密結社鷹の爪』の商業的成功を受け、アニメーションのワンスタイルとして、認知・定着してきているのではないでしょうか? 蛙男商会さんの作品を拝見すると、練り込まれた脚本、テンポの良い演出、聞いているだけで面白い声のトーンなど、アニメーションを支えるバックボーンの部分が大変洗練され、実力と経験に裏打ちされたものであると感じます。以前、マイコミジャーナルに掲載された蛙男商会のFrogmanさんのインタビューを拝見すると、実写畑で経験を積まれた後に、アニメーションをやろうと決意された時、実は製作の手間や物理的作業量の問題で「動かせなかった」上での、方法論であったことが伺えます。

このスタイルを改めて解説すると、キャラクターのポーズは固定で、口パクのみ。左右反転は、シンボルをそのまま反転。キャラクターのツッコミの時には、シンボルを斜めにするというもので、「描いた絵に割り箸をつけて遊ぶ人形劇+口パク」をイメージするとわかりやすいかもしれません。子供の時にその人形劇を一度はやってみた経験から、このスタイルがストーリーを語るのに十分な機能を果すであろうことは、容易に想像できますし、これはこれで、ひとつの文法として僕達の頭のなかに刷り込まれているのだと、思います。

非常に興味深いのは、これまで「より面白くする為」に、様々なアニメーション技術を考えてきましたが、その逆のベクトルに進もうとするこのテクニックもまた「逆に」面白いのです。従来必要とされる多くのアクションを簡略化する事で、セリフが引き立ち、1画面や切り返しのみで行われるカット割りは、一画面での情報量が整理され、わかりやすく独特のパキッとしたテンポを生み出します。

逆の言い方をすれば口パクだけで画面が注意を引きつけておける時間には限界があり、ある意味必然的に、テンポの良いカット割りを必要としているという面もあるでしょう。「カット」、「ズーム」、「パン」、「トラック」などの映像表現のツールと上手く融合させる事で、キャラクターではなく、映像そのものにリズムを持たせる手法とも言えます。

このカットの「もち」ですが、口パク目パチのみの場合、個人的には4~6秒もてば良い方ではないかと思っています。ここに、髪の毛のなびきや、ちょっとしたポーズの変化が加わればカットはより長くもつ様になります。テレビアニメ等でも、3~4秒おきにちょっとポーズが変わる、表情が変わるという演出は多く見られます。しかしそういった演出もまた、作画枚数の制約を受けた上での「そんなに動かせない」という状況での工夫でしょう。

こういった「動かない」アニメというと、「簡単そうだ」という印象が先に立ってしまうのですが、動的なアニメーションを演劇や歌舞伎だとすれば、動かないアニメは落語といえるのではないかと思います。大掛かりなことが難しい状況で、より簡略にストーリーを伝える為に生まれた手法だと考えられます。とはいえ、落語はひと言では言い表せない程のテクニックが必要であり、さらに個人の技量のみで成立させなければならない奥の深い芸です。更に言えば、落語は聞き手の想像力を以下にくすぐり、喚起させるかという部分で話の広がりをもたせてゆきますが、「動かないアニメーション」もまた、見る人の想像力で補填される部分が多いと思います。

描き込めば描き込む程、観客は気持ちよく作品に身を委ねる事ができるでしょう。しかし、観客が能動的に楽しむ作品の可能性として「動かない」アニメーションもありなのではないでしょうか。ただ、「Flashアニメは動かさなくても面白い」という誤解を招かない様に、蛙男商会さんの成功には、卓越した「話芸」と「ネタ」、テンポの良い演出力などの裏打ちがあるという事を、繰り返し釘を刺しておこうと思います。

青池良輔


1972年、山口県出身。大阪芸術大学映像学科卒業後、カナダに渡り映像ディレクター、プロデューサーとして活動。その後、Flashアニメで様々な作品を発表。短編アニメやCFを多数手がける。最新作はDVD『CATMAN』(2008年)、『ペレストロイカ ハラペコトリオの満腹革命』(2008年)。『藤子・F・不二雄のパラレル・スペース DVD-BOX』(2009年)では、 谷村美月主演の実写作品「征地球論」の監督と脚本を担当。森永アロエヨーグルトのWebサイトで、最新Flashアニメシリーズ5作目となる『Boy meets Girl アロ恵』公開中。全国のTOHOシネマズで本編前に上映されている短編『紙兎ロペ』では、アニメーション制作を担当。
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